第64話 三章 死ぬのは苦しい

「いいよ私だってこの子たちと一緒に死ぬにゃ。

 生きていたって楽しいことなんて何にもないにゃ」


ラファエルはわんわん泣きわめくエレーナの頬を強くたたいた。


考えるより先に手が動いていた。


びっくりするエレーナを尻目に今度は首に手をかける。


指がきつく喉に食い込む。


「い、痛い……やめて、にゃぁ」


エレーナの目が恐怖に見開く。


エレーナが本気で抵抗するまでラファエルは手を緩めなかった。


「あああああああにゃああああっ」


エレーナがラファエルの腕に爪を立てて振り払った。


咳き込んで、肩で荒い息をする。


「なにするにゃっ!

 酷い!!」


憎悪の眼差しを向けるエレーナに対して、ラファエルは拳を握りしめる。


「死にたかったんだろう?

 なんで抵抗するんだよ」


「そんなこと頼んでないにゃ!

 苦しかったにゃ!」


「そうだよ!

 苦しいんだよ!」


「……っ!」


「死ぬって言うのはね、

 きっとめちゃくちゃ痛くて、

 ものすごく苦しくて、

 嫌になるくらい辛いもんなんだよ。

 だからそんな風に死ぬなんて言葉を口にしちゃいけないんだ!」


「だってこの子たちだって」


「この子たちのためにも生きてよ。

 アンだって絶対に死にたくなかったと思う。

 ドゥも、トロワも一緒だよ。

 彼らのためにも生きるんだよ!」


「そんな……辛いよ」


「いいから、エレーナならできる、ゴホッゴホッ」


「ラファエルッ」


「行って!」


口元を裾で隠してラファエルは裏口を指し示した。


その剣幕に押されたようにエレーナが腰をあげる。


それでもマレー熊たちの遺体を名残惜しげに見つめて、それ以上は体が動かない。


「早く……あぶないっ!」


急かそうとした矢先、立てかけてあったポールの束が熱でゆがんで倒れた。


ラファエルはエレーナの腕を掴んで引き寄せる。


間一髪のところでマレー熊たちの檻がポールの下敷きになった。


「アンッ」


「いいから行って!」


ポールを引き起こそうとするエレーナを制してラファエルは怒鳴る。


「あっちだよ!

 さあ!」


「うぅ……トロワ、また一緒に遊ぼう。

 ドゥ……天国ではハチミツ食べ放題だといいね……。

 アン、みんなのことよろしくね。

 ずっと一緒にいたかったよ。

 ……バイバイ」


エレーナは何度も振り返りながら走り去っていった。

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