第60話 三章 暴動

あまりの寒さに目が冷めた。


呼吸するたびに肺が冷たい空気に悲鳴を上げる。


(く、苦しい……。誰か……)


手足が痺れてしばらく動くことが出来なかった。


やがて少しずつ落ちついてきてあたりを見回すと、先程と同じ場所にいることがわかる。


縛られていた縄と椅子が無造作に転がっていた。


ラファエルは慎重に体を起こした。


痛みで声が漏れる。


遠くで雑踏の音が聞こえる。


ふらつく体を壁で支えながら、ゆっくりと扉に近づく。


いまにも朽ちそうな腐った木製のドアに鍵はかかっていなかった。


鍵などつけても簡単に扉ごとはずれてしまうだろう。


ラファエルは扉を開けた。


軋む音を立てたが、扉の先は廊下と同じような扉が連なっていた。


埃と蜘蛛の巣にまみれ、とても人が住んでいるようには思えない。


(ここはどこだ……?)


ラファエルは声の聞こえる方向を目指して歩き出した。


声はどんどん大きくなる。


人々は怒り、何かを叫んでいる。


半獣人(デパエワール)という単語にラファエルは鼓動を早めた。


当て木をされた扉の外に顔を出すと、眩しさに射貫かれてラファエルは一瞬目眩がした。


さながら暴動のようだった。


たくさんの人が半獣人(デパエワール)の駆逐を叫んで行進している。


ラファエルは頭を振って通りに足を踏み出す。


自分がいた場所は古びたホテルで屋根すら朽ちている。


ラファエルは行進する高齢の女性に場所を訊いた。


「マダム、すいません。

 ここはどこですか?」


「あら、どうしたの顔色が悪いわ?」


「いえ、大丈夫です。

 お使いの途中で道に迷ってしまって」


「ここは六区よ」


「ありがとう」


「どちらに向かうの?」


「四区です」


「あっちはもっと激しいみたいよ。気をつけなさい」

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る