第53話 二章 マノンの物語

「……どうして?」


「さっき、劇場でアダンさんと話したんだ。

マノンさんに会いたいってアダンさんは支配人(ミステル)と話をしてたんだけど、支配人(ミステル)は身請けしないと無理だって……」


「いまさら何しに来たのよ!」


突然のマノンの叫びにラファエルは面食らった。


マノンははっと我に返る。


「ごめんなさい。ラファエルのせいではないのに」


「別にいいよ」


「でもあんな子供まで連れて……

 幸せなのを見せつけに来たというの?

 あんまり、そうあんまりだわ」


「その……アダンさんはマノンさんと同郷だと言ってたけど、よく知ってる人なの?」


「同郷……。

 そんなことを言っていたのね、あの人。

 いいわ、退屈かも知れないけれど憐れな女の身の上話に付き合ってくれる?

 あなたみたいな子供に語るなんてどうかしてるけど、誰かに聞いて欲しいの」


「僕は構わないよ。

 もっとマノンさんのことを教えて欲しい」


マノンは涙をにじませ滔々と身の上を語り出した。


「私は伊太利亜の片田舎で生まれた。

 もちろんこんな忌まわしい体(デパエワール)ではなくて、純然たる祝福された人の子としてね。

 旧家の地主だった家で両親からは愛情や誇り、様々なものを与えられて育ったわ。


 そしてアダンは幼なじみだったの。

 いつからか惹かれあってお互い結婚するものだと思っていたわ。

 そうして十七の時に婚約したの。

 彼は二十一だった。


 けれども私の幸せはそこまでだった。

 ある日突然に病気が発症した。

 最初は高熱だったわ。

 じきに歩けなくなり、体が半獣人(デパエワール)の症状を現しだした……。


 戦争が激化して、彼はいつのまにか出征して私の元からいなくなった。

 頼みだったはずの家族も家柄を守りたい両親は私を隔離し、やがて面倒をみかねて売りはらった。

 それからは蔑まれて、疎まれて、過去の思い出だけにすがってどうにか生きている。


 それなのに彼は……、


 私を子供の見世物にするためにわざわざ……」

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