第47話 二章 リングの女王
今日はさらにエマの初めての舞台だった。
新しい看板女優(エトワール)は大々的に宣伝され、観客の多くもそれを楽しみに来ていた。
エマは舞台裏で団員によって檻から出され、細工された四角いボックスのなかに入れられる。
照明が目まぐるしく瞬き、期待に静まりかえった場内にアナウンスがこだました。
まずはいつも通りの男役の曲芸師が現れて挨拶する。
まばらな拍手。
確かな実力を持つ彼も、残念ながら本日の主役ではない。
次に大きな黒い箱が台車に載せられて競技場の中央に運ばれてくる。
「本日初披露、不慮の事故により現在も懸命なリハビリを続けている白鳥の王女マリアンヌに代わりまして、伯林よりやってきた麗しき蝶の少女、エーーーーマーーーーーッ」
箱の両面がぱたんと開き、スパンコールが縫い込まれた艶やかな衣装に身を包んだエマが姿を現した。
体にぴったりとした露出の多い衣装は彼女が半獣人であることを際立たせる。
おでこの辺りから伸びた小麦のように頭を垂れる触覚。
背中の肩胛骨からすらりと伸びた黒で縁取りされた青い羽根。
暖炉のひかき棒のような細い手足。
黒々とした大きな瞳。
観客は初めて見るその姿に驚きを隠せなかった。
恐怖のあまり手に持っていたポップコーンを落とす子供もいる。
そんな緊張状態のなか、空中ブランコのショーは始まった。
男が物見台を登ってブランコを揺すって空中に放り投げる。
ドラムロールが鳴り響き、男はわざとらしく体を震わせ一、二、三とタイミングを取った。
そのあいだエマは最初にいた場所のままで微動だにせず待っている。
男が飛んだ。
リングをしっかりと握る。
歓声と拍手。
そしてエマが飛び立つ。
背中の羽をひらひらと扇ぎ、ダンスを踊るように上空に舞い上がった。
観客たちは口を開けて彼女の姿を見上げる。
彼女の羽には色をつけた鱗粉が大量に吹き付けられており、羽ばたく度にそれが舞い落ちた。
彼女が場内を一周すると、照明に反射して鱗粉がきらきらと輝いた。
天井からも紙吹雪が振り落とされ、世にも幻想的な光景を作り出される。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます