第48話 二章 異端の妖精

間違いなく今夜は彼女が主役だった。


エマはマリアンヌと違って曲芸師を持ちあげるような荒技は見せなかったが、さながらピーターパンの妖精ウェンディのごとく軽業師のそばに寄り添い、演技がより映えるように手助けした。


観客はすっかり彼女の虜である。


いよいよ空中ブランコ最大の見せ場がやってきた。


マリアンヌのときは男がわざと失敗してそれを助けるという演出が入っていたが、エマは男一人を持ちあげられるほどの力は持っていない。


男が三番目の小さなブランコめがけて宙を飛ぶ。


その瞬間にエマは男の背後にまわって、その背中を押した。


遠目からは男が羽を持って空を飛んだように見える。


男はエマの浮力を借りてより高く飛び、くるくると空中で何回転もしたあとに小さなブランコのアームをしっかりと掴んだ。


息を呑んで演技を見ていた観客は総立ちとなる。


エクセレェントッ!


ファンタスティック!


口笛と拍手が鳴り止まないまま、二人はブランコの上で深々とお辞儀をした。


支配人(ミステル)は先程のマノンの失踪などすっかり忘れたかのような上機嫌でその大きな顎をなで上げていた。


古参の団員を捕まえると一気にまくしたてる。


「どうだ!

 この興奮!

 これこそがサーカスだ!

 ディレクターがあのやせっぽちの昆虫を連れてきたときはどうなるかと思ったが、やりおった!

 あれは金になるぞ、ぐはははっ」


ラファエルは演技を終えて檻へと戻されるエマの元に駆け寄った。


素晴らしい演技を褒めてあげるつもりだった。


「エマッ。すごい良かっ……」


言いかけて思わず口をつぐむ。


檻で佇むエマはとても辛そうに見えたからだ。


実際にはその黒目がちな瞳からは表情はいまひとつうかがい知れない。


ただ、きゅっととじられた小さな唇や力なく下がった羽がそのように見えたのだった。


「どうしたの……?

 エマ?」


エマはゆっくりと顔を振った。


「私は見世物。

 はじめて私を見たときのあの人たちの態度。

 私はいつから化け物になったの?

 生まれたときから私はこうなる運命だったの?」


ラファエルは口を開けたが言葉が出てこない。


「消えて。

 いまは一人にして」

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