第43話 二章 大きな壁

その夜、ラファエルは洗濯した衣装と食事を持ってエレーナの元に行った。


彼女はいじめられたことなど何もなかったかのように、いつも通り三頭のマレー熊たちと過ごしていた。


「エレーナ、ご飯だよ」


「ありがとにゃ」


つれない様子で食事を受け取るエレーナの様子にラファエルは気まずさを味わった。


「あの……」


「いまは何も言わないで欲しいにゃ」


エレーナは手早く食事を済ませると食器をラファエルに返して横になった。


その背中に、ラファエルは何も言葉をかけることはできなかった。




その日からのエレーナはラファエルを露骨に避けるようになった。


その態度はまったく無視だと言っていい。


ラファエルはめげずに声を掛け続けたが、彼女は頑なに態度を変えなかった。


ラファエルがいじめに対して、なにか言い出すのではないかと恐れているのだ。


いまも円形劇場での練習中に声を掛けて無視されたのを、団員に見られてからかわれる。


「なんだラファエル、あれに気があるのか?

 やめとけっていくら若いからって獣姦は感心しねえや」


どっと笑いが起きた。


エレーナは少し離れたところで泣きそうな顔で俯いている。


ラファエルは声を荒げる。

「そんなんじゃっ……」


「まぁまぁそんな慌てなさんな。

 お前がそんな溜まってるなら、今夜売春宿に連れてやっても良いんだぜ?

 それとも豚小屋の方が良いかい?」


宗教を重んじる者は露骨に顔をしかめ、下世話な話し好きたちは大爆笑した。

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