第26話 二章 錬金

夜間の劇場見回りを終えてふらふらになりながらも、気まずい思いでマリアンヌの様子を見に行くと、彼女は昨日と変わらない表情でラファエルを出迎えた。


「おはよう、ラファエル」


「あの……昨日はごめん……」


「いいの。こっちこそ悪かったわ」


マリアンヌはラファエルを呼び寄せると持っていたものをラファエルの外套の襟に差した。


「これは……?」


目を遣るとそれは真っ白な羽いくつも重ねづけされた羽根飾りだった。


「ひいきの客から貰ったものよ。

 別に大したものじゃない。

 こっそりと質屋に売ってしまいなさい」


「そんなこと出来ないよ」


マリアンヌに羽根飾りを返そうとすると、彼女はそっとその手を制した。


「お母さんの病気の治療にお金がいるんでしょう?」


「……っ。

 それはそうだけど」


「治療費も満足に払えない息子をもった母親は憐れね。

 男の甲斐性をみせてやりなさいよ」


「……でも」


「いいから受け取りなさい。

 誰にも見つかっちゃ駄目よ?

 こっそりと売って。

 そしたらそのお金をお母さんのところへ送ってしまうの。

 それで証拠は何も残らない」


「……」


ラファエルの心は強く揺れ動いた。


このお金で母が良くなるのならばと思うと、断ることは難しかった。


マリアンヌはその心の葛藤を察したのか、ラファエルのマフラーをほどくとその布に羽根飾りを包み、傷つけないように優しく首に巻き直した。


「これで誰にも気づかれずに運べる」


「マリアンヌさん……」


「マリーって呼びなさいって言っているでしょ。

 そんな辛気くさい顔をみせないで。

 ほら、さっさと消えなさい」


ラファエルは涙でぐじゅぐじゅになった顔を袖で拭い、街へ走った。


これで母が助けられるという期待感よりは、自分はこれから悪いことをするのだという、背徳感だけが吐き気と共に全身を駆け巡っていた。

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