第25話 二章 孤独な二人
時間が足りない。
ラファエルはそう思った。
たとえ寝ずに働き続けたって、いつだってお金が足りることがなかった。
「なんて書いてあるの?」
マリアンヌはラファエルのしょぼくれた顔を見て怒ったように言った。
「別にマリアンヌさんには関係ないよ」
「関係ないなら見せなさいよ」
マリアンヌはポケットから手紙を引っこ抜いた。
ラファエルは取り返そうとしたが、檻の中に逃げ込まれては追いかけようもなかった。
手紙を読むマリアンヌの表情が硬くなる。
「病気、良くないのかな……」
「そんなことないっ!」
ラファエルはきつく睨みつけた。
母はきっと治る。
そう信じて疑いたくない。
「ごめん……」
マリアンヌが差し出す手紙をひったくるように奪うと、ラファエルは
そのまま駈けだした。
行く当てもなく倉庫の奥に進めば、そこにはクララがいつもと同じように檻の隅で眠っている。
ラファエルは檻に寄りかかって座り込んだ。
クララは眠っているのか身じろぎひとつしない。
ラファエルは訊ねる。
「人はどうして病気になるのかな?」
クララは答えない。
「どうしてか知ってる?」
繰り返しラファエルは訊ねる。
「……そんな難しい質問をされても答えようがない」
根負けしたのか、口輪をされたままくぐもった声でクララは答えた。
「お母さんの病気を早く治してあげたいんだ。
だから僕はお金をたくさん稼がないといけない」
「……お母さん、か……」
クララが呟く。
「クララさんのお母さんは元気なの?」
聞いてからラファエルは不躾な質問をしたと後悔した。
世間の親は自分の子が半獣人だとわかると、世間体のために殺してしまうこともあるらしい。
マノンは獣化の症状が出てから両親から離縁されたと言っていた。
同じようにクララも親に売られたのかも知れない。
こうして親元を離れて奴隷のような生活を送っている以上、なにかしらあったはずなのだ。
「あ、ごめん。
なんでもない」
「……その質問は二度とするな。
さっさと仕事に戻れ」
「うん。
……ごめん。
本当にごめん」
ラファエルはため息をついてその場を立ち去る。
自己嫌悪でいっぱいだった。
涙がこぼれる。
どうしてこんな辛いことばかりが続くのだろう。
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