第21話 二章 震える女
あまりに不幸な事故だった。
マリアンヌはサーカスの専属医師の手によって手術を受けた。
その後、半獣人(デパエワール)を泊めるベッドはないということで倉庫に送り返された。
あとは安静にする以外ないという医者の診断によって、ラファエルだけが彼女の容体を見守っている。
ラファエルは襤褸のマフラーと外套をキツく体に巻き付けて、檻の外からマリアンヌの様子をずっとうかがっていた。
夜になればすっかり寒い。
入り口近くのストーブに火を入れることは許されている(マノンが寒いままでは凍えてしまう)が、とても十分とは言えなかった。
まだ秋でありながら、夜を明かすまで寒さを堪え忍ばねばならない。
マノンとエレーナも先程まで起きていたが、檻から出られない身ではできることもなく、やがてそれぞれ不本意そうに眠りに落ちた。
ラファエルは手をこすり合わせ、足踏みをしてマリアンヌを見つめていた。
「……いい気味だと思ってるでしょ?」
眠っていると思っていたマリアンヌが、かすれるほどの小さな声で呟いた。
「そんなことない」
ラファエルはかぶりを振った。
本音だった。
翼だけではなく右の手足も折れ、あちこちにも打撲を負っている。
死んでもおかしくない大事故だった。
「水を飲む?」
マリアンヌが頷いたのでラファエルは水差しを持って檻に入る。
今日ばかりは檻に鍵はかけていない。
この怪我では逃げ出しようもないからだ。
わずかな自由を手に入れた彼女だったが、これでは不自由であることと変わりはなかった。
マリアンヌの口元に水差しをあてがい、ゆっくりと飲ませる。
唇を潤す程度にしか彼女は飲まなかった。
垂れてしまった水を手ぬぐいで拭き取り、ラファエルはまた檻の外に出て行こうとする。
「……行かないで」
マリアンヌが囁いた。
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