第19話 一章 檻の中の家族

その夜、ラファエルは寝床に持ち帰って仕事をしていた。


給料日はみんな忙しい。


ラファエルは疲れで眠気と戦いながら木箱に入った大量の留め金具を磨いていた。


マノンが檻ごしに心配そうな眼差しで見つめている。


「大丈夫?」


「ん?

 んん、全然平気。

 気にしないで」


そう言いながらも首ががくんと落ちては目をこする。


「疲れているでしょう。

 私も手伝うから貸してちょうだい」


「大丈夫だよ。

 休んでて」


マノンの申し出を断って、ラファエルは金具を磨き続ける。


「ラファエル、こっちに来なさい」


マリアンヌが強い口調でラファエルを呼びつけた。


彼女はことあるごとにラファエルに文句をつける。


例えば檻が埃で汚れているとか、布団の縫い目がほつれているとか。


「ちょっと待って。

 これを磨いてから……」


手に持った金具を磨き終えてしまおうとしたところで、マリアンヌが叱咤する。


「呼ばれたらすぐに来る!」


「マリー。我が儘はだめよ」


マノンの忠告も聞かず、マリアンヌは仁王立ちしてラファエルが来るのを待っている。


ラファエルは諦めて金具を磨きながらマリアンヌの元に歩み寄る。


「なに?」


「貸しなさい」


マリアンヌはラファエルから強引に金具を奪うと布で磨きはじめた。


「命を預ける道具の手入れを人任せにするなんて信じらんない。

 ほら、ぼっとしてないであんたもさっさと次を磨きなさい」


「ふふ」


マノンが微笑んで、ラファエルに自分にも金具を渡すよう促した。


それを見ていたエレーナもマレー熊たちと一緒に手伝いはじめた。


「別に、あんたの手元が危なっかしくて見てられなかっただけ。

 これで死人がでたら寝覚めが悪いわ」


マリアンヌが磨き終えた金具をラファエルに放り投げた。


次の金具を催促する。


みんなでお喋りをしながら金具を磨き続けた。


母のことで少し気が沈んでいたラファエルも思い切り笑った。


「みんな、ありがとう」


ラファエルが言う。


「いつかお母さんがもう少し元気になったら、みんなで診療所にお見舞いに行きたいな。

 みんなを紹介したいんだ」


「そんなの無理……」


マリアンヌが言いかけたところでマノンが割って入る。


「そうね。

 そうしましょう」


「うん。約束だよ」


この大切な人たちをぜひとも母に会わせたかった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る