第5話 必殺技は魔球
命を削るような攻撃に対しては、シールドが有効には働かないので、踵を返して走り出すミツル。
別に、全く防げないわけではないのだが、命を削る攻撃とは自らの生命力を魔力に変換して、生み出すので、そもそもの魔力のケタが違うのだ。
ミツルの実力なら、全魔力を使えば、例えそれが相手の全生命力をかけた攻撃でも防げるだろう。
だが、もし、他にも襲撃者がいたときに対応できなくなる可能性がある。
なので、迷わずに逃げるという手を取った。
別に負けを認めたわけではない。これも立派な戦術の一つである。
「じゃ、お先~」
全速力で走っているミツルの横を、軽々しくミホが走り抜けがてら、二人に向かって言う。
ミホは、身体能力がコータ並みに高いので、別に不思議ではない。
コータほど剣技は得意ではないので、戦力的にはコータの方が上なのだが。
ミホが通り過ぎていったことにより、意識を前へと向けられたミツルはドアの向こう側にも誰かの気配があるのに気付く。
だが、ミホは気付いていないらしく、ただ一直線に向かっているので、思わず声を張り上げた。
「ミホ! 前だ!」
ミツルらしくない、その焦りように目を見開いて後ろを振り返り、止まろうとしたが、少し遅かった。
ドアの向こうから走ってきた少年に正面衝突し、その少年だけが自分の来た道を真逆に吹き飛ばされ、廊下に背中からぶつかる。
ドンッと盛大な音と共に、聞き覚えのある呻き声が廊下からする。
「ぐはっ!!」
「なっ!? オイ、大丈夫かワタル!! 何があった!!」
廊下から聞き覚えのある呻き声と、誠二が驚いたように叫んでいる。
そりゃあ、自分の前を走っていたハズのワタルがいきなり後ろに吹っ飛んだら驚くだろう。
そして、もちろん、呻き声の主はワタルである。
「アレ? ワタル、どうしたの?」
驚きつつも、首をかしげてワタルに問うミホ。
本人はワタルと正面からぶつかったというのに、よろめきもせず普通に立っている。どこか怪我をした様子もない。
ぶつかったときから。
後方に吹き飛ばされたのはワタルだけである。
「どうしたのじゃねぇぇぇぇぇぇ!!!! おまえに吹き飛ばされたんだろぉぉぉぉがぁぁぁぁ!!!!」
追いついたミツルとコータの前で、手を使わずに脚力だけで跳ね起きながら、叫ぶワタル。
吹き飛ばされて気が立っているのか、ミホに対してぞんざいな口調で言う。
そして、ワタルが自分の失態に気付く前に、ミホが不吉な声音でワタルを見据える。
「…………おまえ? ワタル、あんた誰に向かって口を聞いてるの?」
「うわぁぁぁあああ!!?? ご、ご、ゴメンなさいゴメンなさい。 つい、口が滑って!!」
「へぇ? ワタルは口が滑ったら、
「い、いや、そういうわけじゃなく…………」
「いいから、そこに座りなさい!」
「――っ!! は、はいぃぃぃぃ!!」
力関係がよくわかる痴話喧嘩をはじめる二人。
そんな二人を残った3人は白い目で見るが、今は戦闘中なので、やむなく声をかける。
「あの~、ミホ。 今はまだ戦闘中なんだけど?」
「ちっ、そうだったわね。 じゃあ、早く、倒しちゃってよ」
コータの言葉には従ったが、聞こえるように舌打ちまでされて、その他力本願な言いように、なんとも複雑な顔になるコータ。
(うん、今のは僕に対してじゃないよね。そう考えよう)
自分の中で勝手に解釈し、無理にでも自分を励ますコータ。
なんだかんだ言って、ポジティブなのがこのコータという人物である。
「そういえば、お前らの方は終わったのか?」
そう、ミツルが誠二に聞く。
ワタルが今は意気消沈しているので、まともに答えられないと思ったからだろう。
「あぁ、そうだ! さっきアポロンに会ってきたんだった!」
「アポロン?」
「えぇ、嘘っ!!」
「マジか!?」
ミツルの問いに、声を張り上げながら言う誠二に、目を細めるミツルと、驚くミホとコータ。
「ホントホント。 それで、なんか色々もらったからコレを使おう」
3人の反応に対し、真面目な声で返す誠二。
そして、背中に背負っていた弓と矢筒を手に取り、眼前に掲げる。
「ほら、この弓と矢と、あとワタルが持ってる…………」
「野球ボール。 しかも、軟球」
「ほう」
「「???」」
ワタルも、自分がもらった野球ボールをポケットから取り出し、3人に見せるが、ミツルは頷いたのみで、あとの二人は不思議そうにしている。
なんで、野球ボール?ということだろう。
「オイ、その野球ボールを俺に渡せ」
「あ? まぁ、別にいいケドよ」
命令口調で言うミツルに、不快感を露にしながらワタルが答えるが、一応は素直に野球ボールを投げ渡す。
パシッと、片手で受け取ったミツルは値踏みするような目で、野球ボールを握ったり、自分の手で包んだりと色々なことを試してから、今でてきた教室にまた入っていった。
「お、オイ、そんな野球ボールで何をする気だ?」
「いいから、そこで見てろ」
動揺を露にした誠二がミツルを止めようとしたが、それを振り払う。
みんなが入り口に張り付いたところで、ミツルは教室の中ほどまで進んで止まった。
そして、不敵な顔でニヤッと笑う。
またもや珍しいミツルの笑顔が見れたが、この笑い方をする時は大抵、危ない行為に走るときだというのを、チームのメンバーは理解している。
なので、複雑な顔を一人残らず全員がするが、そんなのはお構いナシに、ミツルはウェンティへと近付いていく。
「かっかっかっ、逃げ出したかと思えば、今更戻ってきてどうしたんだぁ? このままこの校舎ごと破壊してやろうかと思っていたのになぁ」
自らの命を削った攻撃を繰り出そうとしているので、余裕の笑みを浮かべ高らかに笑うウェンティ。
そんな相手に、全く臆することなく正面に立つミツル。
その距離、約30メートル。
「今から、面白いモン見せてやるよ」
そう言って、振りかぶり、ボールを投げる構えを見せる。
「そんな、ただのボールで何をしようってんだぁ?」
「ただのボールじゃないんだな、それが」
ミツルの手の中にあるボールを確認してから、馬鹿にしたように言うウェンティに即答で返し、ボールを教科書に載っているようなキレイなフォームで投げるミツル。
ドアのところでは、4人が訝しげな目で見守る中、そのボールがミツルの手から離される。
すると、ボールは真紅のオーラを纏い、とんでもない速度で敵に向かっていく。
ミツル自身は軽く投げたように見えたので、コータでも一瞬目で追えず、ボールを見失うほどだ。
そのボールは敵を貫かんとして、敵に向かうが、済んでのところで避けられてしまう。
そして、ボールはそのまま虚空を飛んでいき、見えなくなる。
「――かっ、なんだ、あのボールは!?」
ウェンティが驚きで目を見開きながら絶叫口調で言う。
そんな様子を見ていた皆だが、ワタルが一番先に口を開いた。
「って、外してるじゃねぇかァァァァ!!!!」
「そうだよっ! なにしてくれんの、おまえ!?」
怒りの篭った声でワタルが弾劾するように叫び、誠二もミツルに非難の声を浴びせる。
コータとミホは、さっきミツルの笑顔を見たときのように、呆れ顔になり、マジマジと下手人を見つめる。
「あぁ、外したな」
ミツルが実に軽いカンジで、たいしたことでもないだろ?とでも言いたげに一言。
「あぁ、外したな。じゃ、ねぇだろォォォォ!!!! ちょっと、せっかくアポロンからもらった魔法の道具なのになんてことしてくれてんのォォォォ!!??」
自分がもらった道具をいきなりどっかに飛ばされたので、鼻息荒くミツルに掴みかかるワタル。
その割には、アポロンのことを呼び捨てにしたりと、罰当たりなコトを言っているのだが、それにも気付かないくらい動揺しているのだろう。
神々を侮辱したりすると、たまにとんでもないトバッチリを喰らったりするので、普通はしない。
ワタルは以前、天空の神ゼウスを侮辱して、家に雷を何度か落とされたことがあるので身に染みて、その恐怖を体験しているハズなのだが。
「まぁ、なんとかなるだろ。 …………それに、戻ってきたし」
ワタルがなにかを言おうとするのを目で抑え、ちょうど視界に入ったボールを見ながら勝ち誇ったように言う。
一直線にミツルへと戻ってきたボール(真紅のオーラは既に消えており普通のボールになっている)を片手で危なげなくキャッチし、もう一度振りかぶり、投球する。
さっき避けられたのを気にしているのか、今度は全力で。
そして投げられたボールは先程とは、比べ物にならない速度で向かっていき、風切り音を響かせながら、見事に相手の腹部に命中する。
「ぐはっ! き、傷が修復しない……」
「残念だったな。 今のは純粋な魔力だからな、治らんぞ」
腹部に大穴を開けたウェンティが呻いたが、ミツルは冷たく言い放つ。
「く、くそ……ならばっ! これでも喰らえっ!!」
自分の体の限界を感じたのか、半ばヤケ気味になって魔法を発動するウェンティ。
「ダークネストルネード!!」
自らの命を削って生み出された攻撃だとわかるその黒い無数の刃からなる竜巻が一直線にこちらに向かってくる。
だが、即座にミツルが自分でシールドを張る。
「そんな攻撃が通るかっ! シールド!」
竜巻が虹色に輝くシールドに直撃したが、そのシールドはびくともせずに竜巻を跳ね返す。
誠二も自前でシールドを張っていたがそっちは全く使われることもなく、全ての刃を無効化してしまったので、本人は不満そうな顔をしていた。
「くっ、ここまで力の差があるとはなぁ」
疲れたように言うウェンティ。
その体はすでに消滅しかけており、意識を保つのも辛そうだ。
「さらばだ、ウェンティ。 最高のルーンマスターに倒されるのだ、タルタロスでも誉れになるだろう」
そう言い、ミツルは自分の魔力を高め、何もせずとも消滅するであろうウェンティに対し、敬意を払い自らの手で引導を渡そうとする。
「フレイムファイア!」
手を前に振りかざし、その手から周囲を焼き尽くさんと豪炎が迸る。
自分が一番得意としており、かつ使用頻度も多い、ミツルの十八番ともいえる魔法が発動する。
辺りに熱気が溢れ、敵に向かい炎の柱が沸きあがり、ウェンティが浮いていた空間を薙ぐ。
燃え盛る炎が消えたとき、そこには何もなくただ灰が舞っていた。
「よし、終わったな」
「…………俺、出番なかったな」
「…………私も」
「…………俺だって、この弓まったく使ってないぞ」
「ってか、俺のボールは!?」
普段通りの声音で告げたミツルの言葉に、残念そうな声音でコータ、ミホ、誠 二が言い、一人だけ自分のもらった魔道具を心配するワタル。
そして、あらぬ方向を見て、ミツルが言う。
「来たぞ、ボール」
「ん? うがっ!?」
ミツルの声に反応して、ミツルの見ていた方向を向いたら、そこにちょうどボールが飛んできておりワタルの顔面に直撃する。
「ちょっ、ボールが!」
「アブねぇ、落とすトコだったぜ」
彼氏の心配よりも、神からもらった道具の心配をするミホと、慌ててボールを落とさずにキャッチする誠二。
誰にも心配されずにワタルは後ろにもんどりうって倒れる。
「しかし、この学校には結界が張られていたと思うんだけど?」
自分の左手を顎に当てて、考えるそぶりをしながら誰とも無く呟いたコータの声に、教室のドアのほうからこたえる声がする。
「ええ、そうですね。 しかし、その結界がなくなったんですよ」
皆が気配をまるで感じ取れていなかったので、驚きで目を丸くするなか、その答えた男、白いスーツを着込んだまるで貴族のような男を見る。
「あ、あなたは?」
代表してコータが男に向かい、どもりながら名を問う。
男はその様を見て、優しく微笑みながら、悠然と話し出す。
「ふふっ、あなた達の先輩ですよ」
その言葉に、首を傾げる一同だった。
ミツルだけは目を細めて男を見つめていたが。
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~次回予告~
ミホ 「そういえば、この作品の主人公って誰なの?」
ワタル「う~ん、俺じゃない?」
ミツル「俺だろ」
誠二 「王である、この俺だろ!」
ワタル「なんだ、いきなり俺様キャラに転身か?」
誠二 「まだ、登場したばっかで、どうせキャラ定まってないから、それでもいいんじゃね?」
コータ「イヤ、勝手に話を進めないでくれる!? それに、影は薄いケド、主人公は僕だからねっ!?」
ワタル「ホントかな~?」
ミツル「嘘だな」
コータ「嘘なんて吐くわけないでしょうがァァァァ!!!!」
作者「はい、そんなわけで第四話でした。 因みに言っておきますが、主人公は一応、コータ君ですからねっ!?」
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