第3話 呼び出した者は……
職員室で妙な紙切れにサインをさせられた誠二とワタルの二人は、担任の先導の下、校長室にやってきた。
担任が静かにドアをノックし、ドアを厳かに開く。
だが、中には誰もおらず、ただ普通に校長のデスクと椅子と、左側に設置されている棚にはトロフィーだけが置いてある。
何かと問題を起こしては、この部屋に入るので、いつもの見慣れた風景だ。
そして、担任に「中に入って大人しくしていろ」と言われて誠二から先に入り、ワタルが後に続く。
なぜか、担任はこの部屋には入らずに、そのままドアを閉めてしまう。
足音が遠のいていったので、ここからも離れたのだろう。恐らく、『あの方』とかいうのを連れてくるのだろう。
「全く、俺らが一体、何をしたっていうんだろうねぇ。 毎回毎回もうイヤになってくるよ」
ワタルの愚痴に対し、特に応えるでもなく、誠二はようやく気付いた疑問を呈す。
「なぁ、そういえば、さっきから先生の態度ちょっとおかしくなかったか?なんか、妙に他人行儀だったし、口調もヘンだしさ…………」
「そうかぁ? 俺には、いつも通りに見えるケドなぁ~。 あ、でも、確かに『あの方』は流石にオカシイと思ったよ? 誰か他の先生だったら名前で呼ぶだろうし」
ここまで声に出して、確認し、流石に二人とも気付いた。
アレ?このままココにいたら、かなり危ないんじゃ?と。
そう思った二人は瞬時にここを出ようと考え、部屋の出口に向かおうとするが、
「やぁ、君たち。 そこに座りたまえ」
突如として投げかけられた言葉に、瞬時に反応し、声のほうを向く二人。
二人ともすぐに抜刀できるように無意識のうちにそれぞれの間合いから音もなく飛び退る。
普段は鍵の形をしている魔法の武器であるカスタムを鍵のままで構えるワタル。
誠二の手には小さなナイフが握られており、これも魔法の武器である。
「何者だ、おまえ。 いつからそこにいた?」
警戒心がむき出しになった声音で誠二が問う。
本当は今すぐにでも逃げ出したいが、敵、目の前にいる軽薄そうな男がそうはさせてくれないだろう。
なにせ、声をかけられるまで二人は全く気配を感じなかったので、恐らく、敵のほうが強い。
なので、会話をしながら隙を探すことにした。
「いつからだって~? やだなぁ、もう、最初からココにいたじゃないか。 後からきたのは君たちのほうだよ?」
意味不明な言葉を発し、軽い軟派な男を感じさせる声音に、誠二とワタルは全く頓着せずに、ただ目に剣呑な光りを浮かべる。
危なげな雰囲気を察してか、男は肩を竦めながら言う。
「おっと、そんなコワい目で見ないでよね~。僕は君たちの味方なんだからさぁ」
「味方? じゃあ、なぜ俺たちを他の意志をつぐ者から引き離した?」
誠二が男の言葉を信用していないのは声音でわかったが、あえて会話を続ける。同じくらいの力量であったなら、相手が口を開いた瞬間に斬りかかるつもりだったが、会話をしていても、口調の割には、まるで油断と隙がないので安易な行動も取れないのだ。
「なんでって、あのまま君たち二人があそこにいたら君たちは死んでいたからさ。あぁ、なぜかは聞かないでくれよ? どうせ、あと5分もすればわかるからね」
そう言う男の言葉の真意がわからず、思わず首を傾げる二人。
どうやら、嘘をついている訳ではなさそうだが、ワタルなんかはまるで内容を理解できていない。
そのまま何も言わずにしていると、溜め息をつきながら男が口を開く。
「あ~、君たちホントにわかってないみたいだから言うけど、君たちねぇ、バカなんだよ」
「「あ”?」」
名も知らぬ、今ここで会ったばかりの男にバカと言われ、声音が一気に低くなり、怒気と殺意を噴き出すワタルと誠二。主に喧嘩っ早いワタルだが。
「違う違う、バカにしたんじゃなくて、君たちは気配に鈍いから、アイツが敵だとすぐにやられる。多分、真っ先に狙われて瞬殺だね」
そのボロクソな言い様にムッとして言い返す誠二。
「なんだと! だれがそんな簡単にやられたりするものか!」
それに便乗してワタルも血気盛んに言う。
「そうだそうだ! なんなら、アンタを相手に今ココで戦ってもいいんだぞ!」
そんな風に強気に言う彼らを白い目で見ながら、なにかを感じ取ったのか、体をピクリと震わせる。
そして、明後日の方向を見ながら呟く。
「君たち、早くクラスに戻ったほうがいい。仲間が危ないぞ」
「はぁ? なんで、また急にそんなコトを?」
「オイ、誠二! このヒトの言う通りにしよう。なんだかイヤな予感がするっ!」
男の言葉に、当然のように疑問を表す誠二。
だが、ワタルはその誠二の腕を掴み、今すぐにでもこの部屋を出ようとする。
「勘が鋭いな、少年。これからの未来、自分の勘を信じろよ」
ワタルのことをジッと見つめながら深沈とした瞳で意味深なコトを言う男。
それに対してワタルが何か思いついたように唐突に告げる。
「アンタ、少なくとも人間じゃないな? 俺らと同類か?…………イヤ、さらに上の存在、アンタ、神か?」
どこでそう思ったのか、妙に自身ありげに断定口調で言うワタル。
自分で相手が神だとか言っている割にはアンタ呼ばわりだが。
「………………なぜ、そう思うんだい?」
ワタルの言葉を無言で肯定するかのように、たっぷりと3秒は固まってから警戒心むき出しの声音で言う男。
軟派な割りに、腹芸は苦手らしく、内心が丸わかりである。
「ただの勘だ。別に気にしないでくれ」
言葉通りに、すぐに部屋を出て行こうとするワタル。
実際、今の問答で神だということは半ば証明できたようなモノなので、それ以上の興味がないのだろう。
ただ、誠二としては神の正体を知っておきたかったので、ワタルの腕を掴んで止める。
「失礼、あなたの御名(みな)をお聞きしてもよろしいでしょうか?」
古風な言い方ではあるが、何千年と生きてきた神々にとっては、これぐらいが普通だろう。
「あはは、別に普通に聞いてくれて構わないのに。 それに、僕は日本に古来からいる神々ではないから、古い言い方だと、僕のほうがわからないよ」
誠二の言葉に、軽やかに笑ってから、自分は日本の神ではないという。
それに、誠二の心の中がまるで読めたかのような言い方をする。
その言葉を聞いて、誠二は不愉快そうに眉をひそめたが、それに対し、苦笑して言葉を続ける神。
「別に、心を読んだワケじゃないよ。 ただ、君がさっきとは似ても似つかない口調で話し始めたから、そう思っただけ」
「…………わかりました。 じゃあ、あなたは一体、誰なんですか?」
わかったとは言うものの、あまり納得していなさそうな声で言う誠二。
誠二の質問に神は口を開いて答えようとするが、そこで轟音と地響きが3人を襲った。
「わわっ! なんだなんだ!?」
「っく! なんてこった!?」
「クソッ、もう来たのかっ! 予定より早いぞ!?」
慌てて、動揺して声を荒らげるワタルと誠二。
男はこの轟音の正体を知っているのか、二人に比べ冷静だが、それでも驚きを隠せないでいる。
だが、この中では一番、行動が早かった。
「早く、自分達の教室に戻るんだっ! 君たちの仲間が危ないぞ!」
先程とは違い、軟派な様子が全く感じられず、真剣な眼差しで言う。
その言葉に、思わず頷いた二人だったが、誠二が質問を投げかける。
「そういえばっ、さっきも思ったけど、なんで危険が迫ってるって知ってたんだっ!?」
状況が状況だけに、言葉から丁寧さが抜け落ちる誠二だったが、そんな様子に気を悪くするでもなく、真っ直ぐに誠二を見つめる。
そして、重々しく口を開く。
「僕は、予言の神、アポロン。 詩歌や芸術の神でもあり、弓の名手としても知られているが、今は予言の神としてココに来ている。 君たちに警告するために」
あまりに重い言葉だったので、思わずゴクリと唾を飲み込む二人。
いつもの調子が出ず、アポロンに気圧されているのだ。
「け、警告とは…………それは、俺とワタルの二人に関わるコトですか? それとも、俺たち全員に関わる―――」
「そうだ。 君たち全員に関わるコトだ。 だが、その全員の運命を握っているのは君たち二人なのだ。 『汝、仲間のために暗闇を彷徨(さまよ)い、絶望に打ちひしがれるだろう。また、汝、雷の姫を守り続け、此の地へと旅立つことになろう』 これが僕が聞いた予言だ。 忘れるなよ」
辛うじて、言葉を発する誠二を途中で遮り、先程よりも重い声音で告げる。
途中から、声音が変わり、まるで他の誰かが喋っているようだった。
そんな様子を、瞬き一つせず見守っていた二人は、アポロンの言葉に重々しく頷く。
「わかった。 わざわざ、予言を届けてくれてありがとう、アポロン様」
ワタルが素直な感謝を示し、頭を下げ、鋭い目つきで誠二を射止める。
「よし、行くぞ、誠二。 あいつらを助けよう」
「あぁ、そうだな。 俺たちのいるこの学校を襲撃したことを後悔させてやろうぜ」
いつもの口調ではなく、完全に戦闘モードに入っているワタルは、低い声で誠二に言う。
誠二も、ワタルに同意し、アポロンに頭を下げてから部屋を出ようとする。
「待つんだ、君たち! コレを持っていきなさい、アイツを倒すにはコレが必要だ!」
そう言って、アポロンはワタルに野球のボールを、誠二には弓とたった3本だけ入った矢筒を渡す。
「なんで、俺のは野球ボールなのっ!?」
「矢はたった3本だけっ!?」
この時ばかりは、いつもの口調に戻ったワタルと誠二。
思わず文句が出てしまったが仕方が無い。
「そうだよ。 3はギリシャでは縁起のイイ数字だからきっと命中させられるよ! それに、それはただの野球ボールじゃないぞ。 使用者の魔力をそのまま爆発させる魔法のボールだからね。 二つとも気をつけて使いなさい」
少し、機嫌を悪そうにするアポロンだったが、しっかりと理由を教えてくれた。
そして、その言葉を聞いて胡散臭そうにアポロンを見る二人に向かって一喝する。
「ほらっ、早く行きなさい! 早くしないと仲間が危ない目に遭うぞ!」
そう言って、二人の背中を押す。
二人はひとりでに開いたドアの向こうへと押し出され、文句を言おうと後ろを振り返るが、もうそこには誰もいなかった。
『予言を忘れないことだな、少年達よ。 君たちが生きていたければ』
耳に聞こえてくる姿無き言葉はアポロンの声ではなく、予言を聞いたときの声とそっくりだった。
だが、自然と君たちの部分が二人ではないコトを本能的に悟っていた誠二とワタルであった。
「…………なんだか、寒気がするが、とりあえず行くか」
「そうだなっ!! 音の距離からして4階だな!」
時折、聞こえてくる爆音と、誰かの叫ぶ声の距離を図り、誠二に率先して目の 前にある階段を駆け上がるワタル。
そして、その後を軽やかなステップで誠二も追いかける。
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~次回予告~
ワタル「走れ、走れっ!!」
誠二 「わかってるよっ! 少しは黙って走れ!」
ワタル「そんなコト言って~、それじゃあ、つまらないだろう?」
誠二 「つまらなくてもイイんだよ!」
ワタル「わっ、アブね! 叩くなよっ!」
誠二 「ただのツッコミだ! それに、おまえがうるさいからだ!」
ワタル「全く、そんなコトしてると転ぶ――あっ、ヤベッ!!」
誠二 「ん? うわわあああぁぁぁぁ!!」
あと一段で2階へと辿り着くはずだった二人はワタルが足を滑らせたことにより、下の踊り場へと盛大に転げ落ちる。
そして、ヤル気を失った体で、のろのろとまた階段を上がる二人。
今度は、その二人は階段を上る間、一言も言葉を交わさなかった
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