第2話 この世界に生きる者たち
ここは、東京の(といっても、郊外の)ごく普通(だけど、ちょっと特別)のとある公立高校の教室である。
そこで、史上最も類を見ない宣告が下された。
「俺はっ!! この国を統べる正当な継承者だ!!」
帰りのHRの時間にいきなり席を立って、担任の先生の言葉を遮ったかと思えばそんなコトを耳をつんざく勢いの音量で宣言したのだ。
「……オイ、石川。 いきなり何を言っているんだ? そんなコトしてないで早く席に着きなさい」
教師になって間もないが威圧感たっぷりの若い担任教師にドスの利いた声で言われ、ワケの分からん宣言をした少年、「王の意志をつぐ者」の
一気にこのHRの雰囲気をおかしくすることには成功したが、誰もかれもが呆れた目で石川という少年を見ていた。
「全く、ホントのコトなのになぁ。 どうして、みんな本気にしないんだろう?」
「そうボヤかないの。 だって、この世界の真理を知ってるのはごくわずかな限られた人間だけなんだからさ」
「そんなコトよりも、大声を出すな。 怪物が嗅ぎ付けでもしたら面倒だろうが」
誠二に慰めをかける後ろの席の優しそうな風貌で、二枚目という形容詞がとても似合う、顔立ちが整っている少年、コータがそっと慰める。
そして、誠二の右隣の席に座る静かな雰囲気のモデル風の美少年(イヤ、実際にモデルとして働いているが)、
顔はイケメンなのだが、常に醒めていて、ヒトに対して容赦ない態度のおかげで、周囲からは「アイスドール」とまで呼ばれている。
その割にはなぜか女性にモテるので、なにかと誠二やワタルと衝突することが多い。
「それでもっ! 俺らがこの世界に認知されてないなんて、おかしいでしょう!?」
先程よりは声を小さくしたものの、血気が萎えないままコータとミツルに理解を求めようとする。
「仕方ないだろ。 俺らが歴史の表舞台、つまり世界の表面上に姿を現したらまた戦争が起こるんだから」
「そうだよね~。 確かに僕も、理不尽だとはいつも思うケドさ、怪物との戦いならともかく、人間同士の戦争はもうこりごりだしね」
ミツルは揺るがない現実を鉄槌のように、にべもなく誠二にぶつける。
コータも諦めた様子でそう言う。
別に自分が戦争をしていた訳ではないのだが、過去の歴史資料を見れば、その凄惨さがわかる。
過去の偉人の多くは、「意志をつぐ者」であり、彼らが自分たちの正義に従って行動した結果が、数多くの戦争を招いてしまったのだ。
しかし、そんな二人を見て、さらに言い募る誠二。
「お前らは、それでいいのかよ!? こんな、誰からも認知されないような存在のままでっ!」
いつもそうだが、誠二はやたらと人間達に自分達の存在を知らしめようとするのだ。
勿論、こんな提案に乗る仲間はいない。
なぜなら、先程コータとミツルの言った通り、これまで「意志をつぐ者」が歴史の表舞台、即ち、人々に認知されて暮らしていた時代は確かにあったが、平和ではなかったのだ。
世界のどこかでは、絶えず戦争が起きていて、そのために人口も全然増えなかった。
だが、今は彼らが歴史という舞台から撤退したことにより、大きな戦争はなくったし、人々の生活も良くなってきている。
奇しくも、世界中では少数派である彼らがいなくなったことにより、大多数の人間は平和を謳歌できるようになったのである。
確かに、昔と比べて「意志をつぐ者」たちは怪物から襲撃されるようになったし、それで命を落とす仲間がいない訳ではないが、そこまで悪い生き方ではない。
昔のように認知されていた時代は、周囲に人間がいて、そのヒト達が守ってくれていたが、それでもそのヒト達が死ぬ可能性は僕らよりも高い。
特殊な能力を持っている訳ではないので当然ではあるが。
「そんなコト言って、お前は一体、何人の人間を殺す気だ? 百万人か?それとも、一千万人か?」
誠二の言葉に、ミツルが厳いかめしい声音で言う。
いつもは醒めており、ほとんどの物事に興味がないが、今みたいのような話になると厳しい声音で諭さとすように言うのだ。
まるで、過去の自分を責めるように。
ミツルの過去に何があったかを知る者は訓練所にはおらず、誰にも話す気がないらしく誰も知らない。
「ゴメン、そうゆうつもりじゃなかったんだ。 ただ、自分達の境遇を憂いただけだよ」
「…………それなら、いいんだ。 次から、気をつけろよ」
素直に謝った誠二に対し、あんまり納得していなさそうな顔で言うミツル。
あんまり信じていないらしい。
もとから、ヒトを信用することがあまりないので、仕方ないのかもしれないが。
場に重たい空気が流れ始めたが、そこで担任のHRが終わった。
クラスにいる生徒達は、気怠けに席を立ち、授業で使った教科書を廊下のロッカーにしまいに行ったり、友人たちとダベりながら帰路に着くべく教室を出て行く。
ワタルと誠二は席を立ち、ロッカーに教科書をしまいに行き、ミツルとコータは自分のバックパックに教科書をしまいこむ。
勉強が比較的できる二人は、いつも教科書を持って帰っているのだ。
ワタルと誠二はバッグが重くなるのがイヤなので、全ての教科書をロッカーに入れている。
典型的な勉強できないヒトである。
そんなまるで勉強できないヒト二人が、ロッカーに荷物を入れてから戻ってきた。
二人に声をかけようと口を開きかけたコータだが、その前に二人に呼びかける人がいた。
「石川はいるか? あぁ、いるな。 石川はこのあと職員室に来い。 それと、谷山もだ」
担任の口から発せられた言葉にクラス中が沸き、囃はやし立てるようにいう。
「オイ、バカ二人組みが呼び出しくらったぞっ!!」
「今度は、何をしたんだよ~」
「また、川にでも飛び込んだのかぁ?」
「それとも、またケンカでもしたんじゃないか?」
「そんなコトしてないぞー」
クラスの男子からはそのようなコトを言われ、笑って否定するコータ。
誠二だけは、「コイツとだけは一緒にするんじゃねぇぇぇぇっっっ!!!!」と叫んでいたが、そんな誠二の思いは虚しく、クラスの爆笑を誘った。
なにせ、ついさっきヘンな事を言ったばっかりなので、なおさら同類に見えるのである。仕方がない。
「オイ、早くついてこい。君たちに会いたいという人物が来ているんだ。職員室で届けを出したら、校長室へ行くぞ」
騒がしくなったクラスだが、その声はよく響き、大きな声を出したわけではないが、しっかりと二人の耳に届いた。
「はいはーい」
「りょーかい」
それが聞こえた二人は、気の抜けた返事をして、先生に付いて行く。
「おーい、じゃあ、俺らは教室で待ってるぞ?」
「わかった。 いつまでかかるかわからないから先に帰っててもいいぞ?」
「いや、いいよ。 どうせ、ヒマだしね」
「りょーかい」
教室を出て行こうとするワタルと誠二に、コータが声を掛ける。
それに応えたワタルは、さも面倒そうに教師のほうを見ながら言う。
この3人とミツルは、いつも一緒に帰っており、その確認をするためだ。
というのも、どうせ同じ場所に帰るのだから、なるべく戦力を集めて帰るようにしているのだ。
帰路で襲撃されても、ちゃんと生き残れるように。
この学校には、他にも20人近くの「意志をつぐ者」がいるのだが、流石にその全員で帰ると、かえって危険なのだ。
大人数すぎて、連携もとれないし、それだけの人数がいると、力のある怪物が襲ってくるかもしれないからだ。
なぜ、この学校にいるときは襲われないかというと、この学校全体に怪物たちにわからなくさせるような結界がかかっているからである。
学校にいる協力者の手により、この結果が作られているが、それが誰なのかを知るものはここにはいない。
「それにしても、なんか呼ばれるようなコトしたかな~?」
「どうせ、おまえのことだから誰かとケンカでもして暴走したんじゃないの? 暴走するとおまえいつも記憶失くすし」
呑気にそう誠二に聞くワタルに、冷たい視線を送りながら白々しく応える誠二。やけに実感の篭った声音である。
「いやいや、もしそうだったら、誠二は呼ばれないでしょ?」
「ケンカについては否定しないんだ?」
「あはは、そこはほら、触れない約束でしょ?」
「なんだ、その約束。 そんなの約束した覚えないぞ、俺は」
これまた呑気に笑いながら応えるワタル。
そして、ワタルの言葉をにべもなく否定する誠二。
「オイ、話してないで早く来い。 あのお方が待っておられるのだ」
「はーい」
担任の言葉を半ば聞き流しながら、気のない返事を返すワタル。
誠二はただ頷いたのみで、声は発さない。
失礼に値すると思うが、誠二はいつもこんなカンジなので、担任も何も言わない。
だが、二人はまだ気付いていなかった。
いつもとは違う担任の口調と、その言葉の不可解さに。
鋭いミツルやコータなら、その不審さに気付いただろうが、生憎この二人は鈍いので、今はまだ気付いていなかった。
この先、何が起こるのかを。
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~次回予告~
ワタル「やっぱり、俺ら何もしてないよねー?」
誠二 「おまえは何をしてるか知らんけど、少なくとも俺は何もしてないぞ」
ワタル「えぇー、俺だって何もしてないよ~」
誠二 「……この間は何もしていないとか言って、窓ガラスに頭ツッ込んでた後じゃないか」
ワタル「いやいや、アレはただの事故だって!」
誠二 「ただの事故でどうやったら、窓ガラスに頭から突っ込むんだよ!!」
ワタル「あはは、また次回~」
誠二 「うまく逃げやがったな……」
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