意志をつぐ者 ~チート能力と言っても差し支えない能力を持った英雄候補が送る日常生活~
タクナ
第1章 混沌の始まり
第1話 プロローグ
やぁ、僕の名前は鈴木コータ。
歳は16歳、高校2年生だ。
僕はいま、とある訓練所に来ている(住み込みで)。
訓練所といっても、別に軍隊の訓練所じゃない。
というか、そもそも、一般人には関わりがないのだ。
つまり、僕たちみたいな普通とは違ったヒトたちが行くところだ。
まず、普通のヒトは見ることもできないし、入ることも許されない。
ごくまれに特別な奴は入れるがここ数十年だれもいない。
訓練所といっても人数は少なく、100人程度しか正規の訓練生はいないし年齢もごくバラバラだ。
だが、ひとつだけ共通しているところがある。
それは、全員が「意志をつぐ者」であるということだ。
「意志をつぐ者」というのは、簡単にいうと、ヒトではない。
古の神々の意志をつぐものだったり、過去に名を馳せた英雄たちの子孫だったりする。
それぞれの能力に特徴があり、「〜の意志をつぐ者」と呼ばれる。
大抵は操れる物質や類似した事象を先頭に持ってくることにより、それぞれを区別している。
因みに僕は「すべての意志をつぐ者」だ。ほかのヒトたちに比べて桁違いの戦闘能力を持ち、他の「意志をつぐ者」よりは劣るがほぼすべての能力を使うことができる。
いわゆるチート能力だと思ってくれていい。ホントはちょっと違うのだけれど。
まぁ、これを自分で言ってる時点で、もうダメだと思うケドね。
このチカラがあれば、なんでもできるし、日常生活に支障はきたさない。
というか、むしろ逆だ。
学校では、クラスどころか学校トップの身体能力を誇れるし、たいして勉強もせずに学年1位を取れる。
でも、あんまり目立ちたくないから、いつも勉強や運動に手を抜いて普通に見せかけてるんだ。
あんまり目立ちすぎると、良いコトがないからね。
聞けば誰もが欲しがるような能力かもしれないが、世の中はそんなに甘くはできていないワケで。
例えば、通学途中学校に向かって歩いていたら、いきなり怪鳥に襲われて、カバンが羽根の矢だらけになったり。
こんなのはまだ序の口で、命を狙われることもしばしば。
中学のときに行った京都の修学旅行では、京都周辺を縄張りにしているヒト喰いのオニにあやうくランチにされかけた。
せっかくの修学旅行なのに!
その時は、同じチームの仲間が助けてくれたおかげでなんとか助かったんだけど、もうあんな目はこりごりだ。
とにかく、この能力があるおけげで、今まで散々な目に遭ってきたのだ。
死にかけたのも、一度や二度じゃない。
しかも、怪物たちは質が悪いので、力のある「意志をつぐ者」ばかりを狙ってくるのだ。
当然といえば、当然かもしれないが、こっちとしては迷惑な話だ。
ね? これでわかったでしょ?
チカラのある者が、必ずしも幸せになれるワケじゃないんだよ。
そう思い、厚く灰色の雲が垂れ込める雨でも降り出しそうな窓の外の空を見つめながら、深い溜め息をつく。
「オイ、どうした。 溜め息なんかついて? お前らしくないな」
そう呑気に右隣の席から声をかけてきたのは、中学の頃からの親友であり、大切な仲間でもある「水の意志をつぐ者」の
中学のときにヒト喰いのオニから助けてくれたのはこのワタルだ。
ガッチリとした体つきの割には幼く見える童顔の少年であり、更には笑顔が似合う爽やかなイケメンでもある。
そんな親友を見て、コータは応える。
「いや、なに。 この頃、怪物たちの襲撃が多いな~、なんて思ってね。 この間なんかユキと一緒にいたらミノタウルスに襲われたし」
不機嫌な声で襲われたことを思い出しながら言うコータ。
ユキというのは、訓練所のメンバーの一人でコータと同じ「すべての意志をつぐもの」である。
コータと共に力のある二人なので、一緒にいたらまず狙われてしまうのだ。
「そりゃあ、災難だったな。 俺なんてな、この間、屋上でヒトが気持ちよく寝てたら怪鳥どもが襲ってきやがってな。 仕方な~く、俺のカスタムでバッタバッタと斬りおとしてやってな―――」
ワタルが意気揚々と語りだしたのを面倒そうに眺める。
普通はこんな会話をしていたら、何事かと周囲から質問攻めの嵐になるトコだが、語っているワタルが「奇跡の大バカ」という称号を持っているのをクラスの全員が知っているので、誰も気に留めない。
因みに、カスタムというのは、ワタルの自慢の剣であり、ライフルとソードが一体化しているソードライフルという武器なのだ。
いつも持ち歩いているが、普段は鍵の形をしている魔法の武器である。
「わかった。 わかったから。 全く、授業中なのに、うるさくしないでよね」
今は現国(現代国語)の授業中であり、熱く語りだそうとしたワタルだと、目を付けられて目立ってしまうので、コータは注意をする。
「もう、なんだよ。 せっかく俺の武勇伝を聞かせてやろうかと思ったのになぁ」
「別に、聞きたくないよ。 いままで、何回その似たような話を聞かされたと思ってるんだ。 もう、うんざりだね」
「そんなコト言うなよ~、ツレないなぁ。 それとも、アレか? リズムに乗ってやらないとダメなのか」
そう言って、立ち上がろうとするワタルに、制止をかける。
「待った。 何度も言うけど、授業中だからね?」
「ちぇっ~、つまんねーの」
残念そうに言う割には、全く落ち込んでいない様子の陽気な親友をつまらなそうに眺める。
どうやったら、こんな風に表情を変えずに声音だけ変えられるのだろうか、と少し疑問に思う。
「はぁ、ワタルはいつもそんなんだな。 もう一回冒険の旅に出たほうがいいんじゃない?」
冒険の旅というのは、僕たち「意志をつぐ者」に課せられる使命であり、言葉の通りに各地を冒険するんだ。
神託により、課せられた使命を果たすものであり、内容はさまざまで、実に多種多様なんだ。
神々のただのお使いだったり、世界を救ったりと、ピンからキリまでである。
僕とワタルともう一人のチームメイトである「火の意志をつぐ者」のミツルという少年と一緒に行った冒険の旅では訓練所を救う為に巨大ダンゴムシを退治した。
わざわざ、北海道まで行ってね。
何回も死に掛けたが、この話はまた時間があったら話そう。
「もう、あんなのコリゴリだね。 ダンゴムシのくせに毒の息を吐くし、転がるだけで、車はつぶれた空き缶みたいにぺしゃんこだしな」
「そう思うなら、少し静かにしなさいって。 もう一度言うけど授業中だぞ」
「あは、ロクに授業も受けずにテストで満点取れるくせに何を言ってるんだ、おまえ?」
「こうしてると目立つんだもん。 それに、ワタルはもう少し静かにしなさい」
「はいはーい。 わかったよ。 俺が話しかけないからって、寂しがって泣いたりするなよ?」
「泣くわけないでしょっ!」
おどけてふざけてコトを言うワタルに、小声で一喝するコータ。
本人はまるで気にした様子ではなく、窓のほうを眺めて、「早く、授業終わらないかなぁ~」などと、声を潜めるでもなく独白する。
まぁ、もう6時間目であり、あと10分もすればすぐに帰れるのだが、それを言うとまたうるさそうなので何も言わないコトにする。
自分の持っている腕時計で時刻を確認し、ノートを書く手を止めて、自分も窓の外を見る。
「これで、やっと今日も終わりか…………」
どこか遠くを見るような目でそう呟くコータの声は、誰の耳にも届かずに宙で消える。
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~次回予告~
ワタル「俺たちの活躍がやっと見せられるようになったな!」
コータ「今のところ、ワタルはただの授業妨害してきたうるさいだけのキャラだけど、それでいいの?」
ワタル「それは良くないな! 今後は、もっと印象に残るようにするぜ!」
コータ「アレ、皮肉を言ったつもりだったけど、効いてない?」
ワタル「世の中はすべて、俺に利する方向に動いている!」
コータ「ただのバカだったか……」
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