第14話 テレビ放送

 テレビが梅雨入りがどうとか言い始めた。ああ、いつの間にかそんな時期なんだなぁ。梅雨はジメジメして嫌だねぇ……(ため息)。


「そう言えば放送今週だって」


 そんな感じで天気予報をぼうっと見ていたら突然お母さんが私に話しかけてきた。え……放送って……何だっけ? そう言えばそんな取材も受けたっけな……(遠い目)。


 って、今週?! 嘘っ! もうあの取材からそんなに経つの?


 ヤバイよヤバイよ~! しっかり番組表チェックして周りに裏番組勧めまくらないと!(使命感)ハルの事がクラスで話題になったら大変だよ! 質問攻めとか本当勘弁なんだよ……(ため息)。


「楽しみね♪」

「いや、憂鬱なんですけど……」


 そりゃお母さんはいいよ……。ひとりで盛り上がっていればいいんだし。私にとっては重大事件だよ! これはかなりの厄介事だよ。


 すぐに私はスマホで番組表を確認して隠蔽工作に走る。次の日、教室で私はなるべなくさりげな~く自然に周りの話題を裏番組へと誘導する。幸い裏番組に人気アイドルが主演するドラマがあったので、違和感なく誘導は成功しつつあった。


 ――女子の間では。


 男子はなー。ドラマなんて見ないの多そうだし、特殊な番組好きな男子も多そうだし、正直誘導は難しいなぁ。うーん、これは困った事になったぞい(汗)。


 あ~あ……放送されるのはきっとバラエティ関係だから、多分声も顔も加工なしで放送されるだろうし……。あー、こんな事なら取材時にしっかりと注文つけときゃよかった!

 もう放送が間近に迫った時点で何を言っても後の祭りだよね……トホホ。


 で、当のハルはと言えば特に普段と変わった様子もなく、放送されるよって伝えてもまるで他人事みたいな感じだった。


「ああ、そうか今週放送かぁ……」


 おいおい主役あんたやで……(汗)。ま、そう言うところがハルらしいっちゃハルらしいんだけどね。


 私は最終手段で何か大事件とかが起こって番組が潰れる事を願っていた。こんなお願いをするとか、最低だよね……私。

 そしてそんな私の最低な願いが天に届くはずもなく、容赦なく放送日当日がやってきた。


 せめて可愛く映っている事を願って、その前の番組から私はテレビ前に待機。お父さんもお母さんもハルもみんな真剣にひとつの画面に集中する。いつもバラバラな家族がこの瞬間はひとつになった気がしたね。

 現代社会で失われつつある家族団らんが我が家に復活だよ!


「……それでは次のコーナーです! 何とこの家には生きているぬいぐるみがいるのです!」


 ……ああ、始まった……。始まってしまった。簡単なミニコーナーで終わって欲しかったのに、30分くらい掛けて丁寧に紹介されてしまった。お母さんの顔も私の顔もハルもみんなノーモザイクだよ! 無修正だよ! インタビュー中の私の顔の下には私の本名テロップだよ!

 うひぃー! 恥ずかしぃー! (/ω\;)


 画面に映る自分の姿を見てハルはどう思っただろう。私が隣のぬいぐるみの顔を見るとすごく集中して見ているのが分かった。ふぅん……。画面に自分が映っているを見るのは別に恥ずかしくないんだ。

 私なんて画面に自分の顔が映っただけで恥ずかしくて見てらんないのに。


「うん……可もなく不可もなく」


 ハルは画面を見ながらうんうんとうなずいている。……って、それが感想かい。何て言うかマイペースだなぁ。

 でもハルも周りに自分の知り合いが多かったら、もう少し違った反応をしていたのかも。


 考えたらハルはこの世界にひとりきりだもんね。きっと寂しくて泣きそうになった時だってあっただろうな。

 そう思うとなんだか切なくなっちゃって私は思わず画面に集中するぬいぐるみをギュッと抱きしめていた。


「わっ、な、何?」


 いいんだよハル……何も言わなくても分かってるから……。びっくり顔のぬいぐるみはそれでも私にされるがままになっていた。その様子を両親が微笑ましそうに見ていたのを私は知らない。

 って言うか、誰かの視線に気付いたならそんな事出来ないよね。


 次の日、私のクラスの話題はハル一色だった。あるぇ? 隠蔽工作――失敗しちゃった? きっと番組を見た男子がLINEとかで拡散しちゃったのだろう……。恐るべし情報化社会!


 そんな番組バレの事よりも、あの努力が無駄になってしまった事の方が私にとってショックだった。こんな事なら逆に宣伝してやるんだった。……いや、しないけど。

 休み時間の度の質問攻めは……やっぱり精神的にきつかったなぁ……(遠い目)。

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