第9話 じわじわと噂は広がって

 外出禁止を言い渡していたのにちょくちょく外に出ているハル氏。私の恐れていた事が徐々に現実味を帯びてきております。え? 何を恐れているかって? 勿論あの生きているぬいぐるみの存在が明らかになって私が噂の中心になる事ですよ!


 夕方になれば公園で夕日を眺め、昼間は保育園で園児とお遊戯。お使いでコンビニに随時出没中。あのぬいぐるみ、むっちゃ外の世界を楽しんでるんだよね。多分そこらのヒキニートよりよっぽど外の世界を楽しんでる。


 でもまだハル単独で見つかるならいいのよ。ただ、我が家から出て行くところやら我が家に帰るところを誰かに見られていたとしたら……。私と一緒に帰っているところを知り合いに見られていたとしたら……。

 本当、日々ビクビクしながら生活しているんだからね。あのぬいぐるみはこんな私の気持ちなんて知らないだろうけど。


 あ、そう言えばハルって家に来た宅配に対応してたりしているんだった。宅配のオニーサンからもハルの存在が漏れてないか心配だ。業界内ではとっくに話題になってたりしてるんだろうな。ハァ……。

 ま、自分に火の粉がかからないなら、どれだけ話題になってもいいんだけど。


 そんな訳で私は今噂に敏感になっている。他愛もない噂はスルーして、動くぬいぐるみ関係にのみ耳ダンボ。具体的な話は今のところ私の耳までは届かないけど、ちょくちょくハルっぽい話題と思われる話が――。


 保育園に謎の生き物が出現したとか。

 コンビニにたまにレアキャラが訪れるとか。

 夕方の公園に……。


 うひぃー! 結構目撃されてるぅー!

 でもこの街の住人のいいところは、それ以上を追求しないところなんだよね。私がボロを出さない限り、詳しい事はバレる事はない……はず(汗)。


 このハルっぽい噂の事なんだけど、取り敢えず出てくる噂が結構好意的なんだよね。まぁ悪い事で噂になっている訳じゃないからかな。

 いい話を聞く度によっぽどそれ自分ちの居候って言いたくなったけど、自分からバラす訳にも……。


 くーっ! 何だかもどかしいィィィ! 言いたいけど言えないィィィ!


「だははははは!」


 家に戻るとハルがテレビを見ながら笑っていた。本当にこの世界の生活に順応しちゃったなコイツ。

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