第10話 バイト面接

「え? 何て言ったの?」

「だから、バイトしてみようかなって」


 ハルが突然変な事言い出した。コイツが変なのはいつもの事だけど。


「いつまでも居候なのは気が引けるんだ」

「たった三ヶ月世話するだけなんだから別に気にしなくていいよ」


 本当にコイツは変なところだけ真面目なんだから。そもそもいくら人手不足だからって、誰も動くぬいぐるみなんて雇ってくれないっつーの。

 テッドはうまく就職出来たけど……あれは映画だしね。


「でもおばさんが」

「やっぱお母さんか、小言でも言われたの?」

「いや、いい仕事先があるって……」


 この話を聞いて私は目が点になってしまった。お母さんがハルに対してお金がかかるって言うのならまだ何とか理解も出来るんだけど、今度は仕事先を見つけてきちゃった? どんな人脈持ってるのあの人……(汗)。


 ああ、よく考えてみたら私お母さんの過去って何も知らないや。あの人、動くぬいぐるみを目にした時点ですぐ動画を撮って、そのままテレビ局に連絡するような人だからなぁ……。やっぱり業界関係者に知り合いとかがいるのかな。


「ちょっとお母さんに聞いてみるよ」


 色々気になった私はすぐにお母さんの元に向かった。ハルのバイトの話の詳細とかを聞いてみないと。


「お母さん!」

「ん?」

「ハルにバイトさせようって、本気なの?」


 お母さんは私の勢いに若干引いているみたいだった。ハルが働く事でお金が入って来て嬉しくても、その影響で私が困る事になったら嫌なんだから。

 そうしたらお母さんは笑いながら


「あれ冗談よ。まさか本気にしちゃった?」


 って軽く流されてしまった。


 テレビで何か可愛いキャラ(ゆるキャラかな?)が頑張っているのを見て、けしかけてみただけだって。仕事を斡旋するって言ってたのはハルの勘違いだったみたいで、私はほっと胸をなでおろす。


 真相を知って私がリビングに戻ってくると、ヤツは懸命に就職情報誌を読んでいた。


「あんた、マジで仕事探してるの……?」

「出来そうなのがあればね」


 どこの世界に動いて喋るぬいぐるみに仕事させようなんて職場があるんだよって思った私は、このハルの行動をどこか冷めた目で眺めるのだった。


 数日後、その日のハルは何となくそわそわしているように見えた。

 でも私はそんな事は何も気にせずに普通に学校に登校する。まさかその日にハルのバイトの面接があっただなんて――。



 場所は変わってハルがバイトの面接に向かった某事務所。


「えーと、ハルさん、どうぞ……」

「はい!」


 名前を呼ばれたぬいぐるみは器用にドアのノブを回して面接している事務室に入る。面接担当の人は入ってきたこの予想外の存在を目にして固まった。


「?!」


 学校から帰った私はハルの絶望している姿を目にする事に……。ほらね、世の中そんなに甘くないんだよ。私はがっかりしているその姿を見かねて、ヤツに好物のカルピスをごちそうした。

 うん……勿論5倍希釈だよ! 勿体ないからって7倍とかになんてしてないからね!


 ハルよ……元気出すんだぞい……。

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