第6話 変な噂

 初夏と言えば! GWですね! 連休ですね! 私も友達と出かけたりして楽しみましたよ! ハルはお留守番。当然だね!

 でもあいつ結構おっさん体質だから家でのんびり楽しんでる。って言うか、居候に連休も何もないか。毎日がお休みだもんね。


 そんな感じで友達と遊んでいたらそこで妙な噂を聞いたんだな。


「何かさ~、最近この辺りで不審な謎の物体が出歩いているらしいよ?」

「何それ? 怖っ!」


 あ……それハルだ。きっとハルの事で間違いない。あいつ、もしかして私達の許可無く外に出ているの? 今のところお使いとかの特別な理由がある時にだけ外出を許してるのに。

 良し! 帰ったらあいつをとっちめてやろう。……あ、でももしかしたらそれってお使いの時の様子を言っているのかもだ。だとしたなら下手にヤツを責められんなぁ……うーん。

 事の真相をハッキリさせる為にちょっとこの話、もう少し詳しく聞いてみよう。


「それっていつ頃出現するの?」

「分かんない……。ただの噂だし……」


 この話、友達に聞いてみても具体的な話は特にないみたいだぞ。これは無関心を突き通せば誤魔化せられそうな感じだ。うん、ならばここは知らぬ存ぜぬ作戦でいこう!


「そんなのただの噂じゃん、気にしたら負けだよ!」

「そうかな~」


 そんな感じでこの会話は終わるはずだった。終わるはずだったんだけど――。


 いるよ……。灰色のクマのぬいぐるみ……私らのすぐ至近距離にいたよ……。


 私がふと街の様子を見ていたら見慣れたぬいぐるみが視界に入って来た。あいつ、嬉しそうに何かジュース飲んでるよ……。まだ友達は気付いてないけど。


「ごめん、ちょっと用事思い出した!」


 私はそう言ってすぐハルの側に駆け寄っていった。GWの人でごった返している商店街なのに、ぬいぐるみが歩いていて誰も騒がないって相変わらずこの街の住人のメンタルはすごいな!


「ハル! あんた何やってんの!」

「あ……!」


 ハルは私に気付いて一目散に逃げ出しやがった! 待ちな! 逃さないよ! ひと気のない路地裏でハルに追いついた私はヤツを問い詰める。


「いやあの……。あそこのジュース美味しいんだよ」

「そんな事聞いてない!」

「おばさんから許可もらったんだよ」


 やっぱりそうか……。お母さんはそんなに外出歩かないし、学校にも行かないからそんなに噂攻撃にあわないだろうけど、学生のこっちは毎日そんな噂と対峙してるんだから危険度が全然違う!

 クラスで変な噂の中心人物になるのがどれほど怖い事か――。


「でも私の許可は取ってないよね!」

「う……」


 私に迫られてハルは困惑した顔をしていた。こいつ、ぬいぐるみでも結構表情豊かんだよね。私はそんなハルの顔を見ていたら何だか何も言えなくなってしまった。

 しゃーない、ここは簡単な注意をするだけにしておくか。


「とにかく! 今度から外出する時は私の許可を取る事! いいね!」

「……」


 この要望にハルはちゃんと答えなかったけれど、今はそれでもいい気がした。私の想いはきっと伝わったと思ったから。

 一方的に怒った後、私は友達と別れてハルと一緒に家に帰った。


「お母さん! ハルをそう簡単に外に出させないでよ!」

「え? 何かまずかった?」


 相変わらずお母さんは感覚がずれている。きっと私が指摘しないと、何が問題かって言うのにも気付かないんだ。


「危うく友達に見つかるところだったよ!」

「いーじゃない? ハル君みんなにも紹介したら?」

「良くない! 私はみんなに知られたくないの!」

「そーなの? 別に気にする事ないのに」


 はぁ……ダメだ……。結局お母さん何も分かってない。私はこのまま話し続けても話が通じないと思い、お母さんと話すのを諦めてとっとと自分の部屋に戻る事にした。


「ああ……。そうだ、前に来ていたテレビの取材の事なんだけど、放送は二ヶ月後だって」


 自分の部屋に入ろうとする私に、お母さんはそう教えてくれた。二ヶ月後――それは確かハルがここからいなくなるかどうかくらいのそんな時期だ。

 その時期の放送ならタイミング的に別に何も問題ないかな。騒がれる頃にはハルはもうここにいないんだから。


「残念よねぇ~ハル君グッズとか作って一儲けしたかったのに」


 お母さん……(汗)。


 友達の間で流行ったあの噂はその後じわじわと収束していった。噂の中心になる心配がなくなって私はほっと胸を撫で下ろしていた。

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