第4話 初めてのお使い
水曜日、今日はお気に入りの雑誌の発売日。お金がない私は勿論コンビニでの立ち読み。あ、雑誌全部読む訳じゃないからね! 好きなところだけ! だからそんなに営業妨害にはなってないと思う。言い訳かもだけど!
ちゃんと帰りには100円位のお菓子を買うからいいよね? 言い訳かもだけど!
で、私はお馴染みのコンビニに寄った訳よ。ここまではいつものありたきりな日常な訳よ。
「いらっしゃいませー」
ふふふ……常連様がいらっしゃいましたよ……。謎の優越感で得意気にちょっとドヤ顔で店内を見渡す私。その後、視線を雑誌のコーナーに移そうと方向転換をしようとしたら……ヤバいものを発見しちゃいました。
おいおいおいおいそこのぬいぐるみーっ!
私の視線に映ったのは今まさに買い物をしようとする我が家の居候でした。
え? ちょっと、ちょっと待って。ぬいぐるみが外を出歩いて普通に買い物をしていますよ? ちょっとこれ、きぐるみって大きさじゃないんですよ? 誰がどう見ても普通にぬいぐるみなんですよ?
当然小さすぎるので背は届いていないんだけど、台みたいなのがお店から用意されているみたいで、それに乗ってぬいぐるみが器用にレジでのやり取りをしていた。初めてこの光景を目にしたら誰だって冗談のように思うと思う。私だって二度見したもん。
「…1,354円になります」
……ここの店員さん、動じなさすぎでしょ……。あれかな? あの店員さんにはこのぬいぐるみが小さなお子様に見えているとかなのかな?
「はい、二千円お預かりします……。では、お釣りの646円になります」
えぇ……普通にやりとりしてる……。ハルの方も何でそんな慣れた手つきなの……。さらっとお金のやりとりしてるけどさあ。
「……いやぁ……最近のぬいぐるみってすごいな」
あ、やっぱり店員さんもハルをしっかりぬいぐるみとして見てるんだ。ちょっと安心。お客さんならたとえ相手がぬいぐるみでも平等に扱う――いやぁ、あの店員さん、店員さんの鏡だなぁ。
買い物を終えて、ハルは私の横を平然とした顔で横切って店の外に出ていった。何故か私に気付かないふりをしているねえ。ふーん、この私を無視とはいい度胸じゃないの。
私はすぐに店の外に出たハルを追いかけた。
「ちょっと!」
「え? ……あ! 渚も買い物?」
渚も、じゃないよ。初めて外で会ったのに家と同じ態度なのもムカつく! こいつ家から出ないって約束したのをもう忘れてるの? 私はキョトンとしているこのぬいぐるみをじろりと睨んだ。
「……私に言う事はそれだけ?」
「おばさんにお使い頼まれたんだよ。仕方ないだろ」
「ふーん」
初めてのお使いか……。お母さん、ハルを外に出して騒ぎになるかも知れないって考えにはならなかったのかな。私が腕組みをしている間にハルはとことこと何事もなかったみたいに普通に家に帰っていく。
「ちょ、待って!」
私はハルが誰かに見つからないように周りを警戒しながら、この無警戒な動くぬいぐるみと一緒に家に帰った。トホホ……。結局今日は雑誌読めなかったじゃんか……。明日寄ろっと。
家に帰った私は早速お母さんに抗議した。何か言わないと気が収まらなかったし。
「おかーさん! ハルを外に出させないでよ!」
「なんで? 彼、向こうの世界じゃ普通に生活してたんだし、今日もちゃんと出来てたじゃない」
お母さんの感覚はどこかずれている……。私が言いたいのはハルがそれを出来るか出来ないかって言う話じゃないのに。
あのぬいぐるみが外に出る事で周りがどんな反応をするかって言う事なのに。
「周りが騒ぎになる事くらい想像出来なかったの!」
「でもそうはならなかったんでしょ?」
ああ……ダメだ……。話が噛み合わない。でも本当、この街が大らかで良かった。
普通だったら絶対騒ぎになってる。今頃はネットニュースとかにも取り上げられてる。
でも誰かが写真や動画で取り上げなくても、もうすぐテレビ局が取材に来てしまうからどれだけ隠してもやがてこの事はバレちゃうんだよね。
珍百景的なヤツとかで騒がれるのかな……。それともワイドショーネタかな……。真面目なニュース……って流石にそれはないか。
やだな、私そんなので有名になりたくないよ。
その夜、ネットで今日の事が騒ぎになってないかちょっとチェックしたけど、そんな情報はどこにも上がっていなかった。
先日のハルの動画も場所が特定される動画じゃなかったし、今は殆ど注目されていない。まぁ無名のアカウントなんてそんなもんだよね。この結果に私はほっと胸をなでおろしたよ。
しかしお母さんはこれに味をしめてハルをどんどん便利に使うつもりらしい。あーもう、本当困った話だなぁ。
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