第3話 早速バレる
朝になるとハルは私を起こしてくれる。聞き慣れない声は目覚ましより目が覚めるからちょっとありがたい。
でもハルの声を聞き慣れたら効果も薄くなっちゃうかもだけど。こっちは居候させてあげてるんだから、少しは役に立ってもらわないとね♪
「たっだいまー」
そんなある日、学校から帰って来て部屋に戻ったら……ハルがいない。あれ? もうあいつ元の世界に帰っちゃったのかな? 一応この部屋から絶対出ないようには言ってたんだけど……まさか?
私は妙な胸騒ぎを感じてリビングに向かった。そこにはテレビを見ている母親と……陽気に笑うぬいぐるみの姿があった。お、お前そこで何してんねん……(震え声)。
「あ、お帰りー」
「お、お母さん……そのぬいぐるみ……」
「ハルくん、色々辛い目に遭ってたんだってね……」
な、何でハルとお母さんが仲良くなっちゃってるのー!(ガーン!)
しかもまだ私が聞き出せていない、こっちに逃げ出してきた事情までもう知ってるっぽい? ハル……こいつ……後でこってりお仕置きだな。
「でね、ハルくん喋るぬいぐるみで珍しいでしょ」
「あ、うん」
お母さんがハルの事を素直に受け入れている事に私はびっくりしていた。この人がこんなに何でも素直に受け入れられる性格だっただなんて。
ま、実際に喋って動いているのを目にしたら受け入れるしかないか(汗)。
「だからテレビ局に連絡したから」
「は?」
「これで有名になれるよ!」
ちょ、ちょっとちょっと待っておかーさん? あなた一体何言ってますのん?
「放送されればギャラも入るし家計も助かるわぁ……」
お母さん、金で家族を売った……。私の立場はどーすんのよ! 喋るクマのぬいぐるみと一緒に暮らす少女ってどうなのよ!
テレビで放送されたら色々騒ぎになるし、もう普通の生活が出来なくなるよ!
「こ、断ってよ! 私そんなんで有名になりたくない!」
私のこの精一杯の抗議に対して、お母さんはケロッとした顔でこう言った。
「でも、もう動画撮って送っちゃったし無理なんじゃないかな?」
「……まさかその動画ってネットに流してないよね?」
悪い予感がして一応聞いてはみたけど、その答えを聞きたくなくて私は耳を塞いでしまった。そんなのネットに流したに決まってるし、ネットに流したらもう一気に有名になっちゃうに決まってる!
もうだめだー!
その時の私の心境はしまっちゃうおじさんにしまわれちゃうラッコのそれだった。この母子のやり取りの間、ハルは一言も喋らずにテレビに夢中になっている。
何お前のその態度、ちょっとムカつくんですけど? 喋らなければ波風立たないとでも思ってるの?
母親にバレた時点で覚悟は出来ていたけど、結局この日の内に家族全員にこの喋るぬいぐるみの事はバレてしまった。流石にお父さんは唖然としていたけど……うん、これが普通の反応だよね。
……はぁ、明日からどう過ごそう。ネットやテレビで騒ぎになるのはもうちょっと後だとは思うけど。
チチチ……チチチ……。鳥の声が朝の到来を告げている。
「起きてよ! もう朝だよ!」
「うっさい! 誰のせいで寝不足になったと思ってるの!」
ハルは昨日の晩、私の部屋で延々と下手な言い訳をしていた。やれお母さんが急に部屋に入って来て不意打ち過ぎて喋ってしまっただの、その後、自分はすぐにぬいぐるみのふりをしたのだの、それでも騙しきれなかったばかりか、お母さんのテンションの高い質問の圧につい全て聞き出されてしまっただの……。
ああ、何だか想像出来るからちょっと悔しい。
(うう……今日は学校行きたくない……)
行きたくはないけど、行かない事でまた変に勘ぐられるのも嫌だから……行く事は行くけど。
お願いだからもう今後はおかしなトラブルは起きないでよ……。
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