わりと役に立たない異能

北斗七階

プロローグ

第1話 フィクションが向こうからやってきた


 二次元と三次元の壁が取り払われた瞬間のことは未だ明らかになっていない。


 初めてフィクションの影響を受けたとされる人間が記録されたのは二十七年前。

 とある大国で発生したその人物は、超能力者とされた。

 それから各地で類似した例が報告されはじめる。


 それから五年後、特殊能力者たちによる犯罪が急増し、それを自主的に取り締まる特殊能力者たちも現れ始めた。

 そんな超能力者同士の戦いはまるで現実の出来事とは思えない、派手さと過激さを兼ね備えていた。


 まるで現実とフィクションとの間にあった壁がなくなったようだ、誰かが言った。


 もしそうだとすれば、それは理想と少し異なることでもあった。

 大抵の人が望んだことは夢にあふれるフィクションの中へと自らが入ることだ。

 あるいは空想上の美少女や美少年が自分の前に現れてくれることだった。


 しかし現実に実現したのはまったくの逆。

 異世界から勇者や魔王が現れるのではなく、ある日突然自分が勇者や魔王としての属性を付与されてしまうのだ。


 影響はそれからも拡大しつづけた。

 突然変異により空想上の生き物が空を飛び、物理法則を無視する人間は増え続け、これまでの法律やルールでは対応できない事態がいくつも起こった。

 世界中の国家がこの事態への対応に迫られ、日本もまた例外ではなかった。


 そこでおこなわれたのが、ジャンル分けである。


 ファンタジーもミステリーも特撮も、同じ空間で展開するから混乱するのだ。

 であれば、図書館のように分類分けすれば問題ないのではないだろうか。

 むしろ住み分けることができれば、その能力は有用に使われるに違いない。


 とはいえ、そのジャンル分けをおこなうのは当然国を担う偉い人たち。

 サブカルチャーなど文字でしか知らない人たちの分類がうまくいくはずもない。


 結局それは適当な区画整理にもならず、二十年以上が経過した現在でも平穏が訪れたとは言えなかった。


 特にその中でも、判断が難しく結果として雑多な人間が詰め込まれたジャンル。



 それがライトノベルだった。

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