神斬髪切り屋(かみきりや)序の巻 白朱 1.白朱


神 斬

髪 切 り屋



序の巻 白朱




1.白朱

いつのころからだろう、俺の心が見る光景

大きな八つの黒き流れ、そしてその前に立ち昇る一つの朱なる光

それを、支えるかの如くたつ九つの光の刃


この光景がいつの事なのか

はたまた、現実(リアル)なのか夢なのか?


「また、あの夢か」

子供の頃のいつからかはわからないが、この夢を見るようになってから

何故か、俺の右目には不思議な黒い髪の毛のようなものが見える

これが何なのか?小さかった俺には理解できなかった。

それでかどうかは知らないが、時折、右目をつぶる癖が

小さい頃の俺にはあった。


俺の育った小さな町は、どこにでもあるごく普通の田舎の町で

普通に人々が静かに暮らしていた。


普通に生きている人には、町の景色がどのように見えていたかは

知らないが、俺には、右目が見る風景と、左目が見る風景が

違って見えていた。


左目で見る風景は、普通の風景なのに、右目が見る風景には

ふわふわと髪の毛のようなな黒い物が舞ってみえたんだ。

さらに、その黒髪みたいな物が濃く見えたり、薄く見えたり

場所によっては見えなかったりする。


俺の育った小さな町には、小さな神社があり、小さな社なのに

とても大きな楠の木が三本生えていた。

なぜか、神社の大きな楠の木が生えている三方には黒髪みたいな物が

全く見えない、ただ楠の木が生えていない一方、神社の北西の端の辺りは

町内ほどではないが、少しの黒髪のような物が見える。


この不思議な、俺の右目が持つ力が、俺の未来と係わっていく事に

なる事を、俺はまだその時は知らなかったんだ。


子供の頃の俺は、よく山で遊んでいて、神社の南方に位置する山の峰は

子供の俺には、お宝だった、カブトムシやクワガタムシがたくさん

捕まえられる、それはそれは、楽しい場所だった。


ある日、いつも遊んでいる山から尾根(おね)をつたって

西に歩いていた時のこと、いつも見ている黒髪みたいな物と

反対の色をした、白髪(しらかみ)のような物が舞っているに気づいた。

不思議に思った俺は、右目をつぶって辺りを見回した。

右目をつぶっていれば、白髪は見えない

白髪はどうやら森の奥ほうから、漂っている。

俺は、白髪が森の奥のほうに行けば行くほど、濃くなっているのを

確認しながら、森の奥に入って行った。


森の奥で、白髪が大量に舞っている大岩を見つけた俺は

そこで信じられない物を見る。


それは、歳のころ十歳ぐらい、白と朱の装束をまとった

すごく色白で、頭の上に朱色の髪かざり、短髪なのに後ろ髪が

不自然に九つにわかれている、そんな感じの女の子と出会った。


「こんにちは、お姉さんこんなところで何してるの?」


女の子

「そなたには、我(われ)が見えるのかえ?」


「右目だけには見えてるけど、左目にはお姉さんは見えないよ」


女の子

「ほほう、我が見える人間と出会ったのは何百年ぶりかの・・・」


「お姉さん、何をぶつぶつ言ってるの?そんなことより、こっちの質問に答えてよ」


女の子

「すまぬ、すまぬ、何をしてると言われても、なんと説明すればよいかのぉ~」


「じゃあ、聞くけど僕の右目だけに見える黒髪みたいな物とおねえさんから見える白髪みたいな物って、何なのか?知ってる?」


女の子

「なんと、そなた黒髪(くろかみ)が見えるというておるのか」

(これは驚いたのぉ、まさか黒髪が見える人間がいるとは・・・)


女の子

「小僧、そなた、その黒く見える髪のようなものが何なのか知りたいのじゃな」


「そうだよ、あと、小僧と言うけど、お姉さんだって僕と歳そんなにかわらないよね?それと僕には朱右(しゅう)というちゃんとした名前がある」


女の子

「すまぬ、すまぬ、では朱右、そなたの質問に答えてやろう」

「そなたの右目に見える黒い髪のようなもの、それは一般的には祟りといっての、そなたら人間の言う神の荒ぶる魂(アラタマ)や妖怪などの超常や自然の災害など、人間に災いをもたらす物がみえているのじゃ」

「そなたには、どうやら、その祟りが黒い髪のようにみえておるのじゃな」


朱右

「ふーん、そうなんだぁ」


女の子

「それと、朱右、そなた先ほど、我がそなたと同じ歳ぐらいに見えると申しのぉ」

(ということは、我の力も弱くなっているのか?)


女の子

「おかしいのぉ、我はそなたら人間の言う年月で言えば、1000年以上、この高山の清の峯立岩に住んでおる」


朱右

「ええっ!!お姉さん1000年以上も生きてるの?」

「じゃあ、人間じゃないの?」


女の子

「そうじゃのぉ、我は人間ではないの、そなたらが言う神や超常、いや、神そのものかのぉ」

「我は倉稲魂神(うがのみたまのかみ)にして、国の種つ物をして、百の災いを祓い、天下の蒼生(そうせい)を護る神なり」

「わかりやすく言うと、そなたら人間が稲荷とよんでおる」

「稲穂=米や食べ物の神にして、百の災いを祓い、国に住む人々を護る神が、我じゃ」


女の子

「山城の都にある、我を祀った社で、白い狐の姿が我の画像になってしまったみたいじゃが」


朱右

「ふーん1000年も生きているなら、お姉さんじゃなくて、おばあちゃんだね」


女の子

「うるさいわ、だれがおばあちゃんじゃ(怒)」


女の子

「うーん、稲荷とは呼びにくいのぉ。人間の思う画像が、白狐になっておるのなら白狐(ビャッコ)とでも呼ぶがよいぞ朱右」


朱右

「じゃあ白狐さん(一応かなり年上とわかったので敬語)、最初の話に戻しますけれど、何でこんな所で1000年以上も、何をしてるのですか?」


白狐

「朱右無理に敬語で話さなくてもよいぞ」

 

白狐

「では、我がなにゆえこの場所におって、何をしておるのか。それは、そなたの右目に見える黒髪(くろかみ)を、この世にあふれないようにするため、この場所で監視しておるのじゃ」


白狐

「朱右、そなた黒髪が見えると言っておったのぉ。この町で、黒髪が濃く見える所は、この場所から見てどこに見える?」


朱右

「うーんとね、ここからだと、西南西に見える山を越えた谷の辺りに、すごく多くの黒髪が、煙みたいに噴出して舞っているように見えるよ」


白狐

「なるほどのぉ、逆に黒髪が、少なく見えるのはどこじゃ?」


朱右

「えーっと、ここからだと、真北に見える、神社の境内の辺りは全く黒髪が、見えないよ、ただし神社の北西の木のない辺りは、少し黒っぽいかなぁ。」


白狐

(やはり、この小僧には黒髪がはっきり見えておるようじゃ)


白狐

「我がこの町に、降臨した時に、この地から噴出した黒髪と戦って、弱らせた、その後に大岩をもって、封じた場所が、そなたが黒髪が煙のように噴出しておると言った場所じゃ」


白狐

「逆に、神社の境内辺りに、黒髪が見えないのは、大きな大木、すなわち神木の木の力で自然の気をつくり、霊力に変えて結界をはっているからじゃ」


白狐

「じゃからの、我が黒髪を封じた後、再び黒髪が蘇える時のために町の民に伝え、ここの真北にあった、正南の森に社を100年ほどたってから造らせたのじゃ」


朱右

「ふーん、そうなんだ。」


白狐

「それでじゃのぉ、神社の境内には大きな神木が生えておろう。先ほども言ったが、神木が植えてあるのは結界を作るためなのじゃが、結界は結界を作り出す神木が、大きいほど木の霊力が強くなり、黒髪の力を弱めてくれるのじゃ」


白狐

「木は大きくなるためには、時間がとてつもなくかかるが、その分、霊力の強くなる訳じゃ」


白狐

「これは、はるかなる昔に、我に戦い方を教えてくれた者の受け売りなのじゃが、そして、木を作り出したのも、その者で、その木を国土に植えたのが、その者の息子や娘なのじゃ」


朱右

「白狐さん、話は大体わかったよ、もし、黒髪が復活したらどうなるの?」


白狐

「黒髪が復活し、それをほっておけば、人間の内にある悪しき心が暴走して人としての良き心を無くして大変な世になるであろうなぁ」


朱右

「じゃあ、そうなったらこまっちゃうよねぇ」


白狐

「こまっちゃうよねぇ・・・・・だと、そんな程度では済まぬと思うぞ」


朱右

「なら、また黒髪が復活して、出てきたら、白狐さんが、やっつけちゃえばいいんだよ」


白狐

「朱右そなた、簡単に言ってくれるのぉ・・・」


白狐

「黒髪と戦って必ず勝てるという、保障があるわけでもなし、もし負けでもすれば、魂は砕かれ、我とて神として心をなくすやもしれぬぞ」


朱右

「白狐さんなら、勝てるって。大昔に戦って黒髪に勝って封じたって、さっき言ってたし」


白狐

(これだから人間という存在は、恒久の時を経ても、神頼み、他の力(他力)に頼り、自らの力(自力)で、何かを成そうとあまりしない、進歩のない存在じゃの、しかし、その人間のおかげで、我も存在しておれるのじゃが)


白狐

「朱右よ、ならばあらためて聞くが、そなた、我の姿が、そなたと同じ歳ぐらいの子供に見える申したのぉ」


白狐

「大昔、そなたにわかるように、この世界の時間軸で説明すると、我がこの地に、降臨し黒髪と戦ったのは西暦535年、ほぼ1500年も昔のことじゃ」


白狐

「その時の、我は力があり、大人の姿をしていたはずじゃ。その時代の我をそなたが見ていればの話じゃがな」


白狐

「今の我が子供の姿に見えるのならば、それ以降のいろいろな戦いで、力を使ってしまい、この地の黒髪を封じた時ほどの力は望めぬ、もし近く復活する、黒髪が大昔に戦った時の力と同等もしくは、それ以上の代物なれば、確実に敗れ、我とて、この姿を保てぬじゃろうなぁ」


白狐

「さらに、悪いことに、我の力が弱まった時のために作らせた神社の社が、不完全ときておる。本来、結界として使うはずである神木が四本あったはずなのに、なぜか三本しか残っておらぬ」


白狐

「それは、たぶん、黒髪を、この地に送り込んでいる者の仕業に相違ないと思うが、このまま戦うと、十中八九負けることになろうぞ」


朱右

「じゃあ、町のみんなで、足りない力を補えばいいんじゃないの」


白狐

(これだから小僧の考える事は・・・・・)


白狐

「ならば、朱右そなたに、問おう、この時代のこの町の人は、そなたのように、黒髪が見える者ばかりなのかえ?」


朱右

「うーん、どうなんだろう、でも黒い髪みたいなものが右目だけに見えると、ばぁちゃんに話した時に、その事は他の人に言ってはいけないと言われてる、それからは他の人には黒髪の事は言った事がないよ」


白狐

「ふむ、今の話を聞くに、そなたのおばば様がそのように申していたのなら、黒髪が見えるのは、そなただけに備わった、特別な力ということになるかのぉ」


白狐

「朱右、そなた、先ほど言っておったが、黒髪が見えぬ普通の町の、人々がどうやって、足りない力をおぎなってくれるというのじゃ?どうやって力を合わせ戦うというのじゃ?」


朱右

「そ、それは・・・」


白狐

「そなたでも、理解できたであろう、見えぬ物と戦うのは、ほぼ無理であろう、そして、見えぬ者には、黒髪に触れることもできぬのじゃ」


白狐

「なれば、我とそなたで黒髪と戦うしかあるまいて、そなたこの町を護りたいとは、思わぬのかぇ?」


朱右

「えっー、でも負けちゃったら、人としての心を保てないんだよね?僕、怖くてそんな事できないよ」


白狐

「ならば、すきにすればよい、じゃが戦おうと、戦わまいと、我が黒髪との戦いに敗れれば、この町の人々、そなたも含めて、どちらにしろ人としての良き心を保てなくなると思うがのぉ」


朱右

「じゃあどうすればよいの?」


白狐

「そなたは、馬鹿か?ちゃんと、我の話を聞いてすでに理解してるのであろう」


朱右

「僕が、白狐さんと黒髪と戦えって事だよねぇ」


白狐

「そういう事になるのぉ」


朱右

「でも、僕どうやって黒髪と戦うかわからないよ、子供だし・・・」


白狐

「朱右よ、我が見るに、幸いにも、大岩の封印はこの夏の季節から考えて、秋の稲刈りの季節の満月の夜まではもつはずじゃ」


白狐

「黒髪が復活するまで、あと一ヶ月と少しの猶予がある、その間に我が、そなたに戦いかたを教える。だから朱右よ、我と共に、黒髪と戦え、そなたには、その選択以外にあるまいて」


朱右

「わかったよ、僕、白狐さんと一緒に黒髪と戦うよ」


これが、俺と白狐さんとの出会いである






                  

 神 斬

髪 切 り屋              序の巻 1白朱 完


              続  

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る