第3話 俺に色はない
「ねえ、この曲良いから聴いてみて?」
「わかった」
俺は必ずそう答える。
その日のうちにCDを借りに行き、明日されるだろう質問に備える。
「あの曲聴いた?どうだった?」
「うん、よかった」
これが俺の決まり文句。
そして、この後に続く言葉も決まっている。
邦楽の場合は、
日本語だけの曲なら「歌詞がよかった」
英語も使っている曲なら「サビがよかった」
洋楽の場合は決まって「リズムが良かった」
こう言えば、大抵の奴は納得してくれる。
時々、「えー?ボーカルの声がよかったじゃん」等と違うことを指摘されたなら
「そうだね!」
と声を大きくして、目を見開きながら言えば相手は笑顔になる。
そう。
―――笑顔に、なる。
_____________________________________
「金谷君はどんな歌が好き?」
”好き”?
俺は、覚えている曲を適当に挙げた。
「――――」
「その曲、私も結構好きかも」
「そうなんだ」
「じゃあ、今日は一緒に歌おうか!」
「いいよ」
中野さんの歌う曲はバラードが多かった。
どれも、俺の知らないモノについて綴ったバラード。
俺も中野さんの選曲に合わせてバラードを歌う。
「金谷君、歌上手だね!」
「中野さんもね」
嘘ではない。
俺の歌は、ナレーションみたいなものだ。
音程に合わせて、機械のように歌詞を読み上げる。
中野さんの歌は違った。
彼女は、曲を歌詞を自分のもにして自分の色で歌っている。
キレイだと思った。
声の話ではない。もちろん、顔の話でもない。
俺には、中野さんの周りが鮮やかに見えたのだ。
中野さんには色がある。彼女の周りにも色がある。
白にもなれずにいる透明な俺だけは、自分の存在が浸食されそうで
混じることができなかった。
「金谷君、どうしたの?」
「何でもない」
「そう?ねえ、そろそろ時間だけど延長する?」
「任せるよ」
やっと、いつもの無機質な笑顔が戻ってきた。
「うーん、疲れてきたしそろそろ帰ろうか」
「そうだね」
外に出ると、雨が降っていた。
あ、こいつらも俺と同じだ・・・
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