第2話 足元にアリがいた

「金谷君、土、日ひま?」


「まあ、暇だけど」


「そっか、じゃあ、デートしよ!

 待ち合わせ場所は駅近くの公園でいい?」


「わかった」


「あ、LINE交換しよ?」


♪♪♪


「じゃあ、詳しいことはLINEで伝えるから」


_____________________________________




「遅いなあ・・・」


俺は今、中野さんにLINEで指定された公園にいる。

既に、予定時間の10時から一分が過ぎている。


もう少しで、二分になるところだ・・・


俺は、スッポかされたのだろうか?


とりあえず近くの青いベンチに座って、長期戦に備えることにした。


ベンチに座ると、足元にいる1匹のアリを見つけた。


「えい」


ップチ


俺の足で踏みつぶしたアリは、6本の脚を未だにピクピクと動かしている。

俺は、すかさず追い打ちに二度踏みした。


足をよけると、綺麗につぶれたアリがいた。


「お?」


また、新しいアリを見つけた。

今度のアリは、何か白いものを運んでいる。


「えい」


ップチ


今度は足をよける前に、ズルズルとアリをすりつぶした。

予想通り、アリは動かなくなっていた。


やはり、失敗から学ぶことは多いらしい。


その後も、次々とアリを見つけては、踏みつぶし、すり潰した。


ップチ


ップチ


ップチ


・・・・



「何してるの?金谷君」


顔を上げると中野さんがいた。

どうやら、約束を覚えていたらしい。


「なんでもないよ」


俺は、色のない笑顔を浮かべながら立ち上がると、

足元の砂をザっとはいて、中野さんとその場を後にした。


「金谷君、今日は何する?」


「なんでもいいよ」


「えー、それって一番困る回答だよ?」


「中野さんは行きたい場所とかないの?」


「うーん、じゃあ、カラオケに行きたい!」


「りょーかい」


「金谷君、はい!」


中野さんは、バックを持っていない方の手を俺に差し出した。


「なに?」


「もー、手をつなごうよ!」


「なるほど」


てっきり、マジックでも始まるのかと思った。

俺は、中野さんの手を握る。

想像以上に小さく、柔らかい手だった。


「金谷君、痛いよ。もっと優しく!」


「ごめん」


俺は、手の力を緩めた。


「今度は緩めすぎ!金谷君は不器用さんだね」


中野さんは俺と会ってからずっと笑っている。

何がそんなに面白いのか・・・


「ははは、そうかもね」


俺はできるだけ声色を高くして、明るく応えようとした。

ぶっきら棒よりは、マシかなと思って。


「さあ、早くカラオケに行こう!」


中野さんは、俺の手を強く引っ張ると、

大胆な足取りで一歩前に大きく踏み出した。


その時に、フッと顔を撫でた中野さんの髪は、

俺の鼻腔を優しくくすぐった。


その匂いは、今でも微かに覚えている・・・





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