サイコな俺と、パンピな彼女

ヤナカノカナヤ

第1話 中野さんもサイコかな?

俺の名はカナヤ。金に谷と書いてカナヤ。

最近、精神病院に行ってみた結果、こう診断された。


「”精神病質”の可能性があります」


”精神病質”―――最近ではもっと有名な呼称がつけられた。





”サイコパス”




「もし、あなたが一人で、野垂れ死にしそうなとき、

 一人の女性がこっちへ歩いて来たとします。

 あなたなら、どうしますか?」


みんなは、こんな回答をしていた。


「助けを求める!」

「金を奪う!」、「えー、さいてー」

「殺して食べる!(笑)」、「おいおい、残酷だな!(笑)」




俺の回答


「後をつける」


その瞬間、周囲の奴らは、俺から一歩距離をとった。




_____________________________________





「あたたかな春のおとずれと共に――――」


俺、金谷(カナヤ)は高校入試で学年トップの成績をとり、

今は、壇上で新入生代表の挨拶をさせられていた。




――新入生代表の挨拶することになった。


この話を聞いた、周囲の大人達は口をそろえてこう言った。


「すごいわね~。でも、緊張するでしょう?」


緊張ってなんだ?

俺には全く理解できない。


「そうですね。でも、頑張りますよ」


俺は、いつもの作り笑顔を浮かべて、その場をやり過ごす。


_____________________________________


ガヤガヤ、ガヤガヤ


「お前の挨拶、中々よかったぞ!」

「全然、緊張してなさそうだったな。すげえよ」


入学式初日、廊下ですれ違うと、

俺にこう言った言葉を投げかける輩は大勢いた。


「ありがとう」


その度に俺は、最も汎用性の高い、お礼文句を使わせてもらった。

もちろん、張りぼての笑顔を添えて。


そんな、有名人のような扱いは、1週間も経つ頃には落ち着きをみせ、

俺の代わりに、クラスを引っ張る人気者たちが名乗りを上げていた。



「今度の体育祭、出場したい種目がある人は、

 この用紙にチェックしておいてください」


体育祭実行委員が、前に出て呼びかけをしている。


まぁ、俺には関係のないことか。


「金谷君」


となりの席の女子生徒が話しかけてきた。

名前は中野さん。

確か、入学式初日から、”彼女にしたいランキングトップ5”というものに

名前を連ねていた。

だれが作ったのかは知らないが・・・


_______________


「中野さん、マジかわいいよな!」

「彼氏とかいるのかな?」

「お前、聞いてみろよ」


「わかった」


「「え!?」」


俺は、中野さんのいる女子グループに近づく。

さっきまで談笑してしていた女子は、俺が近づくのに気づき話すのをやめた。

他の女子も、自然と俺の存在に気付き始める。


「あの、中野さんは、彼氏とかいるんですか?」


「え、急にどうしたの?

 別に、いないけど?」


「そうですか。ありがとうございました」


俺は、軽くお礼を言って、さっきまでいた男子グループのもとに帰る。


「どうやら、いないらしい」

「ぷはは、お前、なにしてんだよ!」

「まったくだぜ」クスクス


何が面白かったのか俺にはわからなかった。

その笑顔も、俺がいつも使う笑顔と同じなら納得がいく。


ただ、こいつらの”笑顔”と、俺の”笑顔”とでは、根本的に何か違う気がした・・・


______________



「ねえ、聞いてるの?金谷君」


「ごめん、考え事をしていた」


「金谷君は、出たい種目とかないの?」


「うん、ないよ」


「えー!身長高いんだし、もったいないよ!」


「ははは、そんなことないよ」


俺は、乾いた笑顔を浮かべる。


「話は変わるけど、入学式の日、なんで私に彼氏がいるか聞いたの」


上目遣いの中野さんは、目が大きくて公園でよく見かけるアリを思い出す。


あいつらも、目がやたら大きい。


「気になったから・・・(一緒に話していた男子たちが)」


「ふーん、そっか」ふむふむ


中野さんは、何かに納得したようだ。


「じゃあ、私と付き合う?」


いきなりこんなことを言う中野さんは、俺よりサイコかもしれない。

そんな彼女となら、俺もうまくやっていけるかもな。


「・・・別にいいけど」


「じゃあ、決定ね。よろしく金谷君」


「よろしく」


この時、彼女ができても特に感動なんてしなかった。

俺には、そんな感情がなかったから・・・


ただ、彼女は、俺に色々な感情を教えてくれた。

今となっては知らなければよかった、と思う。




今は彼女のせいで、こんなにも胸が苦しいのだから・・・。







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