第一五話「越谷中央高等学校の支配者(一)」

「おい! ふざけんな! さっさと中に入れろ!」


 目的地である越谷中央高等学校KCHに到着すると、そこには先に逃げていた者たちが溜まっていた。


「ガキが、何様のつもりだ!」


 校門前で怒鳴っていたのは、流美に文句をつけたスーツの男だ。横にある勝手口のような扉の前で、インターフォン相手に怒りをぶつけている。三〇代後半に見えるが、その態度は大人げない。苛立ちを隠さず、感情むきだしで罵詈雑言を尽くしている。

 あとから着いた流美と緋彩、それに庸介と倫は、その男の様子に顔を見合わせて辟易する。


 目の前にあるのは、KCHの東門だ。正面門ではないのだが、かなり立派な門構えをしている。高さ三メートルはありそうな黒く塗られた縦格子状の門は、観音開き。上部はアーチ状になっていて、内側に開くレールがあり、ちょっとした豪邸の正面玄関のようにも見える。

 どこから来たのか、その前には流美たちが助けた人数よりも多くの人が集まっている。全部で三〇人近く入るだろうか。

 その増えたメンバーを確認していると、そこにはひときわ目立つ金髪のカップルが目についた。先ほど対戦していた【池袋マックス】のメンバーだ。どうやらほかにも仲間がいたのか、六、七人でたむろっている。

 どうしてここにと思うが、それよりも気になる怒声が耳をつんざく。


「おれは、ここの教師だぞ! 三年の学年主任の暮林だ! なにを学生が勝手なことをしている!?」


 スーツの男【暮林】の言葉に、流美は倫と庸介の顔を思わず見てしまう。

 二人とも口を「えっ?」の形に開いたまま、目をまん丸くしていた。

 あの身勝手な男は、三人が入ろうとしていた高校の教師だったのだ。しかも、現在は三年生の学年主任。そうなれば、来年入学予定の三人の担任になる可能性もある。

 その事実に思わず頭を抱えそうになるが、今はそれどころではない。

 とりあえず、事情がわからない。流美は、近くの女性に声をかける。


「どうしたんです?」


 それは、流美が助けた娘と、その母親だった。


「あっ……あなたは!?」


 その母親は、タオルを巻いた流美を見て、驚いて身を退いた。

 が、すぐに察したのか、顔をひきつらせながらも、娘と共にお礼を言いだす。

 再生して蘇った……そんな事実、普通ならば信じられない。しかし、この母親も自分の脚の再生を味わっている。だから、彼女も受け入れるしかないのだ。


「も、もう、お礼はいいですから……。それより、なんで入れないんです?」


 訊ねられた母親も、困惑したような顔を見せる。


「それが、よくわからないけど責任者がいないからとか、なんとか……」


「責任者? 誰です、それ? ってか、開かないんですか?」


「開かない……というかね」


 彼女は、流美に耳打ちするかのように顔を寄せた。


「さっき、あのうるさい男の人が無理矢理、入ろうとしてみたんだけど、門を触ることもできないの」


「……はい?」


「何かバリアー? みたいなのが張ってあって、門に触ることもできないのよ。触れられるのはインターフォンだけ」


「バ、バリアー?」


 今までさんざん非常識な目に遭ってきたが、さらに非常識な言葉だ。

 流美は庸介に視線で尋ねるが、もちろんわかるわけがない。庸介も首を捻る。


「にわかには信じられないと思うけど、ARETINAアレティナで学校の周りをよく見てみて」


 そう彼女に言われて、全員で改めて東門を見つめた。

 すると、確かにそこには何かあった。透明度の高いガラス板のような物が、門の前に立っている。

 いや、それだけではない。門から壁にそって学校を囲むように高さ六メートルほどの半透明壁ができあがっていたのだ。


「これがバリアー……」


 倫と庸介がその障壁に近づく。

 そしてほぼ同時に、その現実にはないはずの障壁を触る。


「――!?」


 二人は顔を見合わせた。

 その様子に、流美も前に進んで触ってみる。


(……なんかある……冷たくも温かくもないけど……なんかある……)


 確かにそこには、見えない壁がある。

 かるく叩いてみると、かなり硬質に感じられる。

 ちょっとやそっとでは壊れそうにない。


「流美さん、お姉さんに連絡は?」


「あ。そうですね!」


 緋彩に言われて、流美は慌てて頭の中で「お姉ちゃんとボイチャ」と念じる。

 すると、すぐさま目の前に「弓美」というカードが浮かぶので、それを注目。

 すぐさま、「Connected」の文字が表示される。


〈さすが流美。もう、着いたのね。東門?〉


「あ、うん。でも、なんか見えない壁があって……」


〈ああ、それはわたくしが設置したの。もう、そっちに着くわ〉


「設置!? それどういう……」


 と話している最中に、校門の向こう側に歩いてくる人影が三つみえてきた。

 傾きかけた陽射しの中、広い校庭を横切りながら、影は威風堂々と近づいてくる。

 中央にいるのは、長い黒髪をなびかせて、スカートを揺らしながらスラリと長い脚を歩ませる、流美の姉である弓美だった。

 その彼女を挟むようにしているのは、二人の男子生徒だ。

 流美は、両方とも見覚えがある。

 オールバックにしながら、秀才風の黒縁メガネというミスマッチさのある、体つきのよい男子は、KCHのAROUSEアロウズ部の部長のはずだ。

 反対側にいるのは、少し赤毛まじりの肩口までの長髪が特徴的で、切れ長の眼と長身で女子に大人気の生徒会長である。

 二人とも、二年生。つまり、弓美の先輩である。しかし絵柄的には、どうみても二人の男子生徒の方が、副部長である弓美に付き従っているように見えた。

 というよりも、実際にそうであることを流美はとうに知っていた。一年生でありながら、弓美は学校内の権力を掌握しているのだ。


「ごきげんよう、皆様」


「ふ、ふざんけんな、星野木ほしのき! またお前……これもお前の仕業か!?」


 見えない壁を叩きながらの暮林の怒声。

 それに弓美は微笑で応える。


「はい。校内に入れなくしたことでしたら、わたくしの仕業です」


「……貴様……なにをどうやったのか知らんが、早く中に入らせろ! 教師を入れさせないとは何事だ!」


「入れてもよいのですが、一つだけ約束していただきたいことがあります」


「……なんだ?」


「この中に入ったら、生き残るためにわたくしの命令には絶対服従していただきます」


「……な……なんだと……」


「ここは、もうわたくしの城ですから」


 暮林どころか、流美も他のメンバーも呆気にとられてしまう。

 それは実質、弓美の建国宣言に等しかった。

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