第7話「望んでいた越谷」(1)

(なんで……なんで……こんなことに……僕の主人公が……)


 倫は後悔の記憶をふりはらった。ショックを受けている場合じゃない。

 フィールドと会場のあちらこちらで大喊たいかんが広がっている。

 まさに、阿鼻叫喚。

 どうやら、他にも化け物がでているらしい。

 だが、今の倫の視界にそんなものは入らない。

 他人がどうなろうと知ったことではない。今、大切なのは、自分にとってのヒーローである庸介のことだ。彼が死ねば、倫にとってこの世界は終焉を迎える。


「庸介! 庸介!」


 倫は喉が切れんばかりに叫びながら駆けよった。

 化け物など関係ない。近寄ってきたら好都合だ。真っ二つにしてやる。

 そう意気込んでいたが、倫が走りだした途端、化け物は壁の向こうに消えていった。


「よう……す……け……」


 近寄って見ても、胸の下あたりに大きな穴が開いていることはまちがいない。

 周囲には、肉片や贓物らしきものが飛び散り、それがまるで倫の事を阻むように床に転がっている。


(知っている臭い……)


 むせかえるような生臭さ漂う赤黒い海は、まるで庸介の体を島のように見せていた。

 これで生きているわけがない。


 倫がその場で崩れ落ちそうになった瞬間だった。

 庸介に空いた風穴あたりに、文字が浮かび流れていく。



――Repairリペア typeタイプ Augmentedオーグメンテッド


―― RequirementリクアイメントClearクリア



(……拡張型修復? なんだそれ……)


 文字が消えた次の瞬間、空中から現れた光の粒子が風穴の部分を塞ぐように周囲から集束する。

 かと思うと、次の瞬間には庸介の穴がなくなっていた。

 そこまでほんの一瞬のことで、倫には何が起こっているのか認識することさえできずにいた。


「うっ……」


 しかも、庸介の体が震えるように動いた。

 ピクリ、ピクリと少しずつ体に力が入るように動きだす。


「よ、庸介!? 庸介!」


 倫は慌てて駆けより、血の池から体を抱き起こす。

 と、途中から思いのほかしっかりとした動きで、庸介は自分で体を起こしてその場で座る。

 そして、低く唸ってから「げっ!」と声をもらす。


「なんじゃ、これ。血だらけじゃんか……気持ちワル!」


 顔をゆがめながら、庸介は自分の服に血だらけの手をこすりつける。


「……あれ?」


 彼は胸に手を当てた。

 だが、そこにある穴は洋服だけだ。その穴の中には、血液が貼りついているものの肌がしっかりと見えている。


「…………」


 信じられない面持ちで、庸介は穴の空いたはずの肌を掌で叩いてみる。

 ペチペチという音がわずかに聞こえる。


「オレ……死んだ? 生きてる? え? あの感触は?」


「よくわかないけど生き返ったんだ。なんでもいい、良かったよ!」


 泣きそうになりながらも倫は、意識をしっかり保とうとする。

 今は早く逃げなければならない。もう二度と、庸介を失うようなことは後免だ。


「とにかく逃げよう! 化け物はまだいる!」


 もう客席はパニックだ。人の波がステージから逃げようと出入り口に向かって走りだしている。

 絶叫と共に、「どけ!」「なんだこれ!」「やめて!」などの怒声も入り交じる。

 中には、その波に呑まれて倒れてしまう人々もいた。


 そして、波の元に、やはり化け物が数体うかがえる。


 狼みたいな姿の背中に、人間の手が生えている化け物。


 胴の全体に浮きあがった血管が、絡みつくように走っている化け物。


 頭が三つある蛇のような化け物。


 それが観客たちを次々と襲っている。

 逃げ惑う人々に振るわれる牙や爪。

 ある者は、背後から首に噛みつかれ、ある者は串刺しにされてもがき苦しみ、ある者は腕を引きちぎられている。

 ARではない、リアルな血しぶきが次々と上がっていく。

 実際、自分の手にもべったりとついている庸介の血糊。


(違う! 庸介は生きている! 庸介の血なんかじゃない!)


 しかし、それを否定するように、乾いて固まる血の感触。

 倫は、それをズボンにこすりつける。


「――流美は!?」


 庸介に言われて、倫も周りを見る。しかし、周囲に姿はない。


「――流美! 流美!」


 庸介がゴーグルのマイクから話しかけるが反応がない。

 倫は急いで、ARETINAアレティナに指示をだし、位置確認を表示させる。

 すると簡易マップに距離と位置が表示され、目の前の床にはARの矢印が表示された。


「あっちだ! 行こう!」


 倫と庸介が走りだした。彼女は2ブロックほど先のエリアにいるはずだ。

 だが、彼女が生きているかどうかまではわからない。バイタルチェックの共有表示はされていない。


 倫は脳裏に悪い考えが浮かぶ。もしこれで流美になにかあったら、きっと庸介はしばらく立ち直れないだろう。

 流美は倫にとっても大事な友人の一人だ。しかし、それ以上に庸介にとって必要な人物だ。

 なんとしても、彼女を失わせるわけにはいかない。


「――いた!」


 二人は走りよったが、流美はうつぶせに倒れて動かない。

 庸介が抱きかかえて声をかける中、倫は手首に指を当てた。

 脈もある。外傷もみあたらない。たぶん、気を失っているだけだろうと安心する。

 とりあえず、眼を覚まさない流美を庸介に背負わせる。


「どっちに逃げる!?」


 庸介の問いで観客席を見るが、とても逃げられる状態ではない。

 人の波と、それを追い求めながら紅く染まる化け物。

 どの入り口もパニック状態だ。このままでは逃げ道がない。


「あなたたち、こっちです」


 その時、背後から場違いに落ちついた声が聞こえた。


 ふりかえると、背後の惨劇や血だらけの倫とは対照的な、純白の天使の羽を生やした愛らしい美少女が立っていた。


「こっち、こっちです」


 まったく急いでいない感じで、赤毛の美少女は手首のスナップを利かせてコイコイとやってみせる。


 それは、【的井まとい 緋彩ひいろ】だった。





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