第五話「越谷の代表」(一)
イベントは、メーカーの偉い人たちの挨拶から始まった。
その後、みんながお待ちかねの新要素発表がおこなわれた。
まず、事前発表通り、参加人数の増加。
さらに広大なバトルフィールド対応が発表された。
と言っても、その仕様に対応できるのは、ここ――未だに増床を続け、常に日本一のマンモスショッピングモールを誇る【越谷レイクシティ】バトルフィールド――のみの仕様ということになる。
それは敷地面積だけの問題ではなく、世界でもまだここにしか設置されていない最新のコンピューターを使用しているからという理由もあった。
「通常は極秘にするものなのですが、このレイクシティの地下に専用のサーバールームとデータセンターがあります。人工湖の水を利用して、大規模な水冷システムが作られています。そして、そこに納められているのが、開発されたばかりの有機コンピューター【ABC】です」
開発プロジェクトマネージャーというのが、熱い口調で説明する。
「もうニュースにもなっているのでご存じの方も多いと思いますが、【ABC】とは人類初の【Artificial Brain Computer】、つまり人工頭脳型コンピューターのこと。今までのハードウェアとまったく違う有機コンピューターなのです! このABCをCPUとし、専用処理ごとに用意された、これまた最先端の非ノイマン型光子コンピューターを組み合わせた、世界初のコンピューティングシステム【
倫には理解できなかったが、噂によると軍事利用すれば世界情勢が変わると言われているほどの性能を誇るコンピューターらしい。
通常、スーパーコンピューターとよばれる類のものは、研究機関や企業などの複雑な計算に予約制で利用され、一般人とはかけ離れた存在のはずである。しかも、ABCは今までのスーパーコンピューターから三世代先のレベルだと言われている。
それがなぜ、ゲームの処理に利用されているのかわからない。
ただ、その超高性能のおかげで、プログラムのチューニングがうまくいけば、数千人対戦も可能らしい。また、ARの映像が遅れるという致命的な不具合が完全になくなったという。
その実演のために、バトルフィールドにデモンストレーターの男が現れた。彼は、かるくお辞儀をすると、三〇センチほどの棒を頭上に掲げる。
その棒は、【
「
その魔法の呪文を受けて、光り輝くエフェクトと共に、三〇センチ程度の
特に特徴のない、木の枝のような初心者向けの
もちろん、それは本物ではない。倫たちがつけている
「【
ラテン語っぽい造語の魔法名を放つのと共に、デモンストレーターが杖を前に向けた。
すると、杖の先からARの炎が噴きだし、前方に火炎放射のように伸びていく。
その見た目は、以前のバージョンよりも、さらにリアルさを増していた。注視した時に現れる魔法名がなければ、本物と区別がつかないぐらいだ。そのうえ、片手杖をどんなに速く動かしても、炎の映像がきちんと追従している。六人が同時にそれをおこなっても、まったく遅延がない。
客席からは、その圧巻の映像に歓声がわきあがった。
そして、倫が待ちに待った新兵器【
名前にひねりも何もないが、そんなことはどうでも良かった。倫が気になっていたのは、その仕様だ。
物理的に抵抗を感じられない剣同士がぶつかりあったら、いったいどうなるのか? それが問題だ。
しかし、その疑問の回答は、倫にとって期待外れもいいところだった。
「
「――!?」
「刃の攻撃力と、対象の攻撃力・防御力で比較され、その差分によって刃の消失時間が変わります。同等以下の攻撃力・防御力の場合は、一秒固定で消失します」
司会者の説明に合わせ、目の前で実演が始まる。
「
デモンストレーターの音声入力に合わせ、今度は柄の形をした
もちろん、
別のデモンストレーターも同じ剣を用意し、それを互いにぶつけて見せた。
「キュインッ!」という衝突音と共に、両方の刃が一瞬消失し、その後に自動復活する。
片方のデモンストレーターが斬られてみたり、ARの盾を斬ってみたりしても同じだった。
やはり、瞬間的に消失する。
(やっぱり鍔迫り合いとか、盾ごと敵をぶった切るとかできないのか……)
考えてみれば当たり前だ。
本当は倫だってわかっていた。所詮は、ARと言ってもCGの刃だ。
(あくまで補助武器か。でも、まあ、ないよりはましかなぁ……)
そんな倫のガッカリ感を無視して、ステージでは説明が進む。
「さて。説明ばかりでは飽きてしまいますでしょうから、ここらで会場の中から、何人かに新
司会の言葉に、待っていましたと割れんばかりの歓声と拍手がわきあがる。
庸介と流美も腰を浮かせて大はしゃぎしている。
対照的に、その横で倫は静かに手を叩いていた。魔法剣の説明で、すっかり倫の興奮が落ちついてしまったのだ。
「あ。矢面さん。わたし、今日の参加者で凄い人たちを見つけたのです」
バトルフィールドの中央に立ち、棒読みで話す【
すると網膜センサーと脳波センサーが働き、ゴーグルの映像が滑らかにズームされる。
鮮やかなメタルアクアブルーのヒラヒラしたスカート。その上には白い肌のくびれと、小さなおへそが見えている。スカートと同じ色の服は、ふっくらとした膨らみを包み、袖はない。さらに背中には、ARで純白の天使の羽が生えていた。
その容姿は、まるでファンタジーゲームに出てくる妖精のようだった。
年下のようなかわいらしさの中にも、やはり一六才として年上の色っぽさがある。特にそのピンクの唇は、見ているだけでゾクゾクする。
ガールズグループに所属していた時から、その人気は高かった。
しかし、ソロデビューしてからは、さらに人気が上がったと聞く。
なるほどと、納得の魅力に倫は少しドキドキしてしまう。
しかも、目が合ったりしたら、なおさらだ。
(――って、あれ? なんでこっちを見ているんだ?)
なぜか倫の方を見たまま、抑揚なく緋彩が説明しはじめた。
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