第39話 カゴメ歌の秘密、関ケ原の戦い

(かなめっち、意外と悩んでたみたいね)


 神沢優がピンクのサイバーグラス姿で、高市麻呂の前で土下座している安東要に優しい視線を向けていた。

 深緑色の自衛隊風のミニスカ制服にブーツ、黒のニーハイソックスというなかなか渋いのかエロいのか不明なファッションである。

 生足が1センチほど見えてるのでマニアにはたまらないという説もあるが、神沢隊のオタク達は巨大戦艦<地龍>に残して来ていた。残念がっているだろう。


(確かにねえ、波奈も優もバケモノだものね)


 何故かブスっぽい厚底メガネに戻って、黒のゴスロリミニスカとブーツ、純白のニーハイソックスで決めている月読波奈である。 

 確かに、秘密結社<天鴉>でも最強の異能力者のふたりである。


(それに加え、雛御前さんからの異世界通信によれば、明智光秀に匹敵する信長さんの片腕に成長しつつあるメガネ君や夜桜さん、ハネケさんなどの活躍を見せつけられれば、平凡すぎる自分の無力さを思い知らされるでしょうね)


 神沢優は深いため息をついた。


(かなめっちは分かってないな。その平凡さがいい所なのに)


 波奈は要の良さを分かっていた。

 秘密結社<天鴉>の異能力者を統べる<勾玉の民>のリーダーは代々、平凡過ぎる人間であることが多いという。

 それは自分の無力さを思い知っているがゆえに、異能力者達の力を信頼して全てを託すことができることに繋がる。

 とはいえ、それは凡人にはつらいことである。

 錚々たるメンバーを統べるための覚悟が要には必要なのかもしれない。


(かごめかごめ 籠の中の鳥はいついつ出やる 夜明けの晩に 鶴と亀がすべった うしろの正面だあれ?)

 

 神沢優がカゴメ歌を詠いだした。


(カゴメ歌かあ。そういうことね)

 

 波奈には優の言いたいことが分かっていた。

 カゴメ歌には秘密結社<天鴉>に伝わる独特の解釈があった。

 それは<勾玉の民>のリーダーが生まれる際の試練の謎を含んでいると言われている。

 

「弟子のう。それは<丈刀術>の弟子ということか?」


 高市麻呂が跪いている安東要に問いかけた。

 清明は後ろで成り行きを見守っている。


「そうです。僕は高市麻呂さまのように強くなりたい。弟子にしてもらえないでしょうか?」


 要の悲痛な声が響く。


「―――なるほど、弟子にしてもいいが、おぬしに『鶴と亀を統べる試練』を与えねばならない」


(((ええっ!))) 

 

 高市麻呂の言葉に、清明と優と波奈がテレパシーで同時に驚いていた。   

 偶然とは思えない話の成り行きに息をのむ。


「鶴と亀を統べる試練? 一体、それは何なんですか?」


 安東要もさすがに見当がつかなくて訊き返していた。


「かごめかごめ 籠の中の鳥はいついつ出やる 夜明けの晩に 鶴と亀がすべった うしろの正面だあれ?」


(((ええっ!))) 

 

高市麻呂の言葉に、また、清明と優と波奈がテレパシーで同時に驚いていた。


「それって、どういう?」


 要はぽかんとした表情で訊いてみた。


「この歌こそが『鶴と亀を統べる試練』のヒントじゃよ」


 高市麻呂の言葉に途方にくれて、呆然とする要だった。




     †




「信長様、まもなく、右翼の石田三成隊が徳川秀忠隊と激突します!」


 関ケ原の信長本陣で伝令が報告する。


「そうか、小倅こせがれめ、真田の上田城を素通りするとはなかなかやるかもしれぬな。真田からの文によると、挑発した昌幸と信幸が歯噛みして悔しがってたようじゃ」


 信長は黄金色の鶴の陣羽織を背中にはおって白銀色の鎧をまとっていた。

 派手であるし、何ともお洒落である。

 史実では真田信幸は父、昌幸の「幸」の字を捨てて『信之』と改名して徳川方についている。


「少し歴史が変わっていってますね。向こうにも時間遡行者がいるみたいです」


 雛御前が十二単衣風のミニスカスタイルという何とも挑発的な姿で信長の右手に控えていた。

 軍師的位置付けだろうか。


「私も右翼で戦いたいものです。あちらには信繁殿もいるのでしょう?」


 当然、明智光秀改め天海は左手にいる。

 頭を丸めて頭巾をかぶり、黒衣の宰相然としている。

 懐刀というか、まあ、親衛隊長みたいなものだろう。

 真田信繁は、まだ幸村には改名してはない。

 幸村は通称だという説が有力である。


「天海、ここはメガネたち、若い者に任すとしよう」


 信長は自ら鍛えたメガネ隊の農民兵に期待してるらしい。


「残念ですが、彼らはがいれば私の出番はなくなりそうですね」


 天海も彼らを練兵しているので手応えを感じていた。


「左翼の秀吉隊は苦戦しそうだな。名将、徳川秀康がいる。伊達政宗、上杉景勝隊など東北勢も手ごわいだろう」


 信長にしては珍しく弱気な発言である。

 徳川秀康は家康の二男であり、武勇に優れた名将である。

 正史では人質として秀吉の養子に出され、家康が関東に移封後に北関東の結城家に入り、結城秀康と名乗っている。関ケ原当時は東北への抑えとして宇都宮にいたが、信長が秀吉奪還に手間っていた隙に東日本は徳川家康の掌握する所となっていた。

 そこには魔女ベアトリスの暗躍もあったと予想される。


「ですが、そちらは先鋒に柴田勝家、滝川一益隊、夜桜、ハネケ隊、農民兵もいますので互角かと思われます」


 天海は逆に楽観している。実質上、織田家の最強部隊が布陣している。

 信長本陣には佐久間信盛隊、丹羽長秀隊、信長の弟の信包、息子の織田信忠、信雄、信孝などの旗本隊も充実している。

 もちろん、メガネ隊をはじめ、ボトムストライカーに騎乗した農民兵の精鋭部隊もいた。

 信長は本隊の後方で宇宙戦艦でもある<天龍>に乗って指揮を執っている。


 家康の背後にも地球軌道上にから衛星<ブラックナイト>が降下してきて布陣している。

 おそらく、チート魔導師アリス・テスラをはじめ、リカルド・バウアーなどの<ベアトリスナイト>もいるだろう。

 何より先鋒には魔天使の創った最強の巨大人型兵器である<黒騎士>の存在があった。


 そこに対峙するのは戦災孤児の天才ボトムストライカー乗りである心之助しんのすけである。

  

「心之助、行けるか?」


 メガネが声をかける。


「おら、行けるよ」


 <ニンジャハインド ブラックソード>、漆黒の機体のローラーブレードが砂塵を巻き上げる。

 後に関ケ原の奇跡と呼ばれる15分間がはじまる。

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