第40話 流星剣、魔女ベアトリスの脅威

心之助しんのすけ、<黒騎士>はお前に任せる!」


 そう言い残すと、メガネは<ファイブドラゴンハインドPRプラチナレア>を駆って、家康本陣に向けて突進していく。

 メガネ隊も後に続く。

 水、火、風、土、光の属性を備えた<五色龍剣>が煌き、五匹の光の龍と化し、前衛の歩兵と機動兵器を薙ぎ払い、一本の道を作った。

 後に「メガネの一騎駆け」と語り草になる突撃だが、副隊長ザクロ、メガネ隊の面々も負けじとそれに続いていく。

 その突進は徳川四天王である漆黒の本多忠勝隊、白銀色の榊原康政隊の機動兵器の前面まで一気に道を拓いた。

 それを遮ろうとした<黒騎士>の前にはいつのまにか、心之助の<ニンジャハインド ブラックソード>が現れて、強烈な一太刀ひとたちを浴びせる。

 それをとっさに受けた<黒騎士>のソードが爆ぜる。


 <流星剣>


 それは隕鉄いんてつ、つまり隕石から堺の刀匠が精魂込めて削り出した名刀である。

 硬度もあるが粘りもある、折れにくく強靭きょうじんな刃が特徴である。

 それに驕ることなく心之助のステップは軽やかで、丁寧で繊細な操縦技術に裏打ちされた見事な機体捌きである。

 驚異的な運動性能で<黒騎士>のソード攻撃を紙一重でかわしつつ、攻撃を的確に当てていく。

 平凡といえば、あまりにも基本に忠実過ぎるヒットアンドアウェイ攻撃である。

 凡庸な技術と鍛錬の積み重ねが非凡の技を生み出している。


 だが、<黒騎士>は全高百メートルを超える巨躯であり、対するボトムストライカーは全高わずか六メートルの独り乗りの機動兵器である。

 <黒騎士>を巨人に例えれば、<ニンジャハインド ブラックソード>はネズミのような大きさであり、一撃でもくらえば一瞬で機体が吹き飛ぶと思われる。

 綱渡りのような攻防が続く。


 その間にメガネは家康の本陣に迫るが、旗本隊の井伊直政の赤備えが立ちはだかる。

 真紅の機体が威圧感を放っている。

 背後に漆黒の本多忠勝隊、白銀色の榊原康政隊の機体も見えるが、副隊長のザクロ隊がよく防いでいる。

 

(心之助、大丈夫か?)


 心話通信テレパシーで語りかける。


(ええ、なんとかやってるよ!)


(お前の隊も健在か?)


(何とか生き残ってる。損害は甚大だけど、本隊の佐久間信盛隊、丹羽長秀隊も押し上げてくれてる)


(もう少しだ。もう少し耐えてくれ)


(了解)


 そう答えた心之助であったが、機体は悲鳴を上げ、戦災孤児の心之助隊も敵側の機動兵器隊に徐々に数を減らされ、300機の機体が200機にまでになっていた。

 かなりの善戦とも言えるが。


利介りすけ、そちらはまだ行けそう?)

 

 副隊長の利介に心話通信テレパシーを送る。


(こちらはまだまだ大丈夫っす。心之助隊長、<黒騎士>を倒しちゃってください)


(了解)

 

 そういうやいなや、<ニンジャハインド ブラックソード>の動きが加速した。

 一度、勝負に出てみたくなった。

 というか、機体の悲鳴から限界を感じてもいた。

 もうわずかの間しか戦えないだろう。

 最後に一太刀、聖刀<流星剣>の殲滅刀技を開放してみたくなった。

 利介なら自分の後をカバーしてくれる実力もあるし、おそらく、上手くやってくれるだろう。

 この激戦、数倍の敵に対してもよく善戦している。

 自分の隊のメンバーもよく成長したし、最強、徳川軍団を相手にして頼もしい限りである。

 さて、メガネ隊長には申し訳ないが、もう時間かせぎも十分だし、ちょっとわがままをやらせてもらう。

 

「殲滅刀技、<流星乱舞メテオ・ドライブ>!」 


 天上から無数の流れ星が<黒騎士>に向けて降りそそぐ。

 しばらく耐えていた<黒騎士>であるが、機体が徐々に変形し、亀裂が走り、押しつぶされていく。

 あの何千回も戦ってきた強敵が跡形もなく地上から消え去る。

 そんな日が来るなんて思ってもみなかった訳でもないが、感慨深いものがある。


 <ニンジャハインド ブラックソード>の謎の生体エンジン<TOKOYO DRIVE>がフル回転している。

 全ての<ボトムストライカー>に装備されていて、搭乗者の生命力と連動してパワーを発揮する。

 その不思議な仕組みについて分かったのはごく最近で、殲滅刀技の開放時のみに発動するエンジンであることは分かっている。


「坊や、私のかわいい<黒騎士>をよくも壊してくれたな!」


 純白の服を着た聖女が心之助の眼前に現れた。

 不似合いな漆黒の槍が<ニンジャハインド ブラックソード>に向かって投擲された。

 <ニンジャハインド ブラックソード>の左胸に突き刺さる。

 凄まじい衝撃で数百メートル機体が吹っ飛ばされる。

 地面に何度も打ち付けられて、ようやく機体を立て直した。

 何が起こったのか、しばらく分からなかったが、ようやく、気を取り直す。


「お前は一体?」


 そう問いかけたが、返事がかえってくる前に、信じられない光景が見えた。

 黒いもやもやとした霧が、一瞬で<黒騎士>の姿になる。


(あれが魔女ベアトリスじゃ)


 心話通信テレパシーで答えた信長の魔人眼が紅い光を放つ。

 

(いつものことだけど、やってられないよ)


 心之助の脳裏にねじまき姫の力で次元転位しながら<黒騎士>と数千回も戦った記憶が蘇る。 


(心之助、ここからが本番じゃ。心してかかれ)


 魔人眼全開の信長はそういうのだが、正直、やってられない、勘弁してよと思う心之助であった。


(了解)


 殲滅刀技もしばらく使えないが、何とかなるだろう。

 心之助は<流星剣>を構えなおした。

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