第15話 スケルトン中華ロボ討伐戦

 メガネ機とザクロ機を中心に、<スケルトン中華ロボ>の左右に≪ボトムストライカー≫11機が鶴翼の陣で展開した。


「左右6機づつの方がバランスがいいでしょ」


 右翼のザクロ隊五人に神沢優の式鬼≪銀鋼シロガネ ゼロ≫が加わってきた。


「失礼ですが、神沢隊長のゲーム履歴は? 空中機動戦はできますか?」


 ザクロが値踏みするように尋ねる。


「スケルトン中華ロボの討伐戦に参加したことがあるわ。得物は<七星剣>よ」


「<七星剣>! 攻撃力60万の聖刀じゃないですか!」


 ザクロは神沢優をちょっと見直した。

 <七星剣>といえば上古直刀の聖刀のひとつ、聖徳太子の佩用で切刃造りの大刀である。

 表裏に二筋樋(溝)があり、その上に金象嵌きんぞうがんで北斗七星の≪七星文≫が描かれている。 


 メガネ君の<水龍剣>は攻撃力70万、ザクロの愛刀の<毛抜形太刀けぬきがたたち>が攻撃力50万だからメガネ隊の中でも上位の攻撃力である。

 メガネ隊の他のメンバーは比較的入手しやすい聖刀<蕨手刀わらびてとう>を各自装備していて攻撃力40万を誇る。普通の日本刀では攻撃力10~20万ぐらいが普通なので、通常攻撃力としても高いのだが、≪殲滅剣技≫を使用すれば、その攻撃力は10~20倍に跳ね上がる。


 蕨手刀わらびてとうは蝦夷の総帥、悪路アクロ王の佩刀はいとうで、直刀のつかの部分(刀身を握る部分)が九の字型に折れ曲がっていて、ブーメランのような形状をした刀である。


 この東北の蝦夷の刀がヒントになって、刀身に反りがある日本刀の原型である<毛抜形太刀けぬきがたたち>を経て、大和朝廷側に今の日本刀が生まれることになる。


 東北の蝦夷には大和朝廷とは別系統の製鉄技術があったとういうことになり、実は北アジアなどの大陸と独自の交流をしていたようだ。後の東北の藤原氏が黄金と黒テン(ミンクと同じイタチ科の動物)の毛皮などで大和朝廷の貴族を買収し、それが仇となって東北への侵略を招いた。

 黒テンといえばイラン系の交易民であるゾグド人が有名だが、シルクロードの北には騎馬民族が高速移動できる草原の道があり、この文明の高速道路を経てもたらされたもののようだ。


 奈良の東大寺の大仏建造においても、東北の技術である水銀を用いた「金アマルガム法」で金メッキが施されたが、大量に使用された気化した水銀で水銀中毒が発生したらしい。当時、疫病が流行って、大仏が完成したら治まったと言われているが、そもそも大仏の金メッキに使用した水銀が原因なのだから当たり前である。実は無知から生じた天然の自作自演の困った公害であったのだ。しかし、水銀は中国の王家や天皇家などで不老長寿の霊薬であり、秘かに服用もしていたのだから、それは無理のないことだったのかもしれない。

 その他に東北には現在と同じレベルの漆の技術、アスファルトの技術などもあり、奥州藤原氏の世界遺産にもなった中尊寺金色堂もそういう技術がベースとなって作られたもののようです。


 話は変わるが、福島原発でも放射性デブリが地下水と反応して、放射性水蒸気が発生して、首都圏や太平洋岸の都市で湿度100%を超える日が続発しているという。人類が今まで体験したことない放射能公害であるが、政府は知らないのか、とぼけてるのか、現状、どうなっているのかをアナウンスして欲しいものである。


「スケルトン中華ロボのHPヒットポイントは約1億。空中機動戦で削るぞ」


 神沢優も加わったメガネ隊12人が背中のバーニアで一斉に飛び上がった。

 腰に装備されたチェーンアンカー2基を大地に向けて放ち、アンカーを地面に突き刺さす。

 アンカーに繋がれたチェーンを巧みに操って、スケルトン中華ロボの左右の目から放たれるクリスタルビームと両腕のレーザーソードをかわしつつ、HPを地道に削っていく。


 ≪ボトムストライカー≫のバーニアでは短時間しか空中にいられないので、無防備になってしまう空中で機体の方向を変える為に編み出された戦法で<空中機動戦>と呼ばれるものである。

 アンカーの位置やチェーンの操作は難しいので、かなりの上級者しかできない技だと言われている。


 神沢隊の残り27機は隊長の指示で、スケルトン中華ロボを半円形で囲むような陣形を取り、ハンドバズーカで援護射撃をはじめた。メガネ隊に当たらないように、遠距離から弧を描く軌道でミサイル弾を放つ。


 メガネ隊は空中機動戦でHPを順調に削っていく。

 ミサイル弾攻撃の効果も大きく、8000万まで減ってきていた。


「しかし、メガネ隊長はなんであんなちんたらやってるんだ? <殲滅刀技>を連打したらすぐに倒せるんじゃないか?」


 神沢隊の微課金プレーヤーが不満をもらした。


「スケルトン中華ロボのあんなゆるい攻撃なんて、俺たちでもかわせるんじゃないか?」


「そうだ、死角になってる背後に回って俺たちも攻撃しよう!」


「そうだな。行こう!」


 話がまとまって、神沢隊のブレードローラーの一隊8機が離脱して、右翼から秘かに背後に回る作戦を決行する。


「あれ、メガネ隊長、神沢隊の一部が離脱していくみたいです」


 右翼にいたメガネ隊の新人ハネケがのんきに報告した。


「え? ちょっとまて、やつら、まさか!」


 メガネ君は離脱した神沢隊の意図に気づいた。


「あなたたち、すぐに戻るのよ。スケルトン中華ロボの背後に回っちゃダメなのよ! 死ぬわよ!」


 神沢優も血相を変えて叫んだ。


「大丈夫ですよ。あんなゆるい動きなら僕らでもかわせますよ」


 微課金プレーヤーは神沢優が自分たちを心配してると勘違いしていた。


「違うの! いいから早く戻りなさい!」


 神沢優が怒鳴り声を上げた。

 時すでに遅く、神沢隊のブレードローラーの一隊8機がスケルトン中華ロボの背後に回わって攻撃態勢になった。


「うわーーーーーー!」


 次に上がったのは悲鳴と何かが潰れる嫌な音だった。


 スケルトン中華ロボの背後から8本の多関節の腕が生えて、それが一斉に神沢隊のブレードローラー隊8機をレーザーブレードで押し潰して両断していた。


「やつら、スケルトン中華ロボの討伐戦に参加してなかったので知らないのは無理ないですが、厄介なことになりましたね、メガネ隊長」


 ザクロが彼にしては緊迫した声音で言った。


「千手観音モードかあ。全機、<殲滅刀技>を使うぞ!」


 メガネ君は決断した。

 スケルトン中華ロボの千手観音モードの発動条件はふたつ。

 

背後から攻撃すること。

<殲滅刀技>の使用である。

 どちらかにひっかかると発動してしまうのだ。


 かつて、飛礼隊を含むギルド1000人が全滅した悪夢のような戦がメガネの脳裏をよぎる。

 それが分かっただけでも収穫であったが、それゆえに、通常攻撃でコツコツHPを削る空中機動戦を編み出し、一年かけて<殲滅刀技>が使える聖刀を集めたのだ。

 微課金プレーヤーの不用意な攻撃がその戦略を根底から崩してしまった。


「でも、それでも攻撃力は全機合わせて5400万しか出せません。<殲滅刀技>の回復にも3分かかるし、どう凌ぐんですか?」

 

 ザクロが疑問を挟む。 


「やるしかないだろ」


 そう言い放って、深呼吸したあと、メガネ君は叫んだ。


「殲滅刀技 ≪水龍水波斬≫!」


 スケルトン中華ロボの背後から無数の多関節のアームが生えて、レーザーブレードが針の山のように光り輝き始めていた。


 そこへメガネ君の聖刀≪水龍剣≫から放たれた水龍の波が襲いかかって、HPを削りとる。


 残り7300万HP。


 神沢優の<七星剣>のスターダスト、ザクロの<毛抜形太刀>から半月形のムーンライトスライサーが放たれHPを削っていく。


 残りのメガネ隊のメンバーの<蕨手刀>からも十字手裏剣の形の光が放たれて、残りHPは2600万。


 だが、千本のレーザーブレードを3分間耐える手段はない。

 しかも、三連装中華キャノンも発射可能になっている。

 メガネ隊長を囲むように、メガネ隊のメンバーが、守備陣形を敷く。


 地獄の三分間が始まった。

 

 


 

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る