第16話 聖刀堅陣
「メガネ隊長、何とか持たせるので力をためてください」
ザクロと神沢優、メガネ隊のメンバー11人が刀を地面に突き刺して守備陣を敷いた。
<聖刀堅陣>
数分だけ守備力が飛躍的に高まる防御堅陣である。
が、これを使うと当然、3分間は<殲滅刀技>が使えなくなる。
メガネ隊の全員がメガネ隊長の一撃に賭けたのだ。
「俺の殲滅刀技<水龍水波斬>では2100万HPがせいぜいだ。スケルトン中華ロボのHPの残りは2600万。クリティカルヒットがでれば何とかなるが、その確率は1%もない。神沢隊の援護射撃では残り500万HPを削るのは無理だ」
メガネ君が悲壮な言葉を吐いた。
だが、選択肢はない。
すでに、ザクロ以下メガネ隊のメンバー11人は<聖刀堅陣>を展開していた。
「―――分かった。三分間、耐えてくれ」
メガネ君の言葉が合図だったように、スケルトン中華ロボのレーザーブレード千本の攻撃が来た。
光が煌めき、凄まじい圧力がメガネ隊の≪ボトムストライカー≫に襲いかかる。
しばらく、<聖刀堅陣>のバリアがその攻撃を凌ぐ。
火花が散って、バリアが押されて変形していく。
だが、何とか耐えていた。
が、一分ほど経った頃、最初の綻びがでる。
メガネ隊の新人ハネケのバリアの変形が限界にきて亀裂が入り、その隙間からハネケ機にレーザーブレードが直撃する。
ハネケ機はしばらく耐えていたが、レーザーブレードの連打で<蕨手刀>が地面から抜けて後方に吹っ飛ばされた。
だが、ザクロが巧みにバリアを修復し、飛ばされたハネケは、もう一度、自分の位置に戻って<聖刀堅陣>を回復させる。
それから、他の隊員にも同じようなことが起こり、左右にいるザクロと神沢優がバリアをカバーし、何とか回復させた。
二分経過。
その頃には、バリアの隙間から隊員のほとんどがレーザーブレードの直撃を受け、機体の損傷が激しくなっていた。
だが、何度、吹っ飛ばされても、メガネ隊の隊員たちは持ち場に戻り耐え抜いていた。
神沢隊の援護射撃により100万HPぐらいは削られていたが、まだ、400万HP足りない。
「あと、一分、みんな耐えてくれ」
メガネは祈るような気持ちでつぶやいた。
かつての<スケルトン中華ロボ討伐戦>において敗北したギルド員の千人は、あまりの惨劇さに、そのまま<刀剣ロボットバトルパラダイス>をログアウトして帰ってこなかったものが多数いた。
飛礼隊の隊長、飛礼もまた、そんなひとりだった。
メガネやザクロなど飛礼隊の生き残りのメンバーは、スケルトン中華ロボの再討伐に備えて、一年間かけて聖刀を集め、作戦を練り、飛礼がいつか帰ってきてくれることを待ちわびていた。
結局、飛礼は帰っては来なかったが、この一年間はこの戦いにおいて十分に生かされていた。
だが、それも、この戦いに勝ったればこそだ。
全滅してしまえば、全てが無になってしまう。
しかも、これはゲームではなく、現実の戦いである。
すでに神沢隊のメンバーは11人ほど失われている。
メガネはふと、正気に返ったように、千手観音モードのスケルトン中華ロボを見上げた。
それがいけなかったのか、突然、手足が震えだす。
スケルトン中華ロボの惨劇の記憶、恐怖が彼を襲う。
やはり、俺たちは勝てないのか?
ここで、みんな死んでしまうのか?
死の恐怖に包まれて、弱気な気持ちが強くなってくる。
この一年間の僕たちの努力や戦いは無駄だったのか?
いや、そうじゃないはずだ。
無駄ではないはずだ。
「隊長! もうすぐ三分です!」
ザクロの声で、メガネは我に返った。
「殲滅刀技 <水龍水波斬>!」
メガネが叫ぶのと、<聖刀堅陣>の限界がきてメガネ隊のメンバーが吹っ飛ばされるのはほぼ、同時だった。
よく耐えてくれた、みんな。
七つの水龍がメガネの<水龍剣>から放たれ、スケルトン中華ロボに直撃し破壊する。
クリティカルヒットではないが、スケルトン中華ロボの身体に亀裂が入り崩壊するかに思われた。
だが、無情にもメガネ機のモニターには、スケルトン中華ロボの残HPは200万と表示されていた。
メガネ隊のメンバーは<聖刀堅陣>を使用してしまったので、殲滅刀技は使えない。
神沢隊の援護射撃では間に合わない。
殲滅刀技を放って硬直しているメガネ機に、スケルトン中華ロボのレーザーブレードが死神の鎌のように襲いかかる。
(俺の努力もみんなの一年の頑張りも結局、無駄だったのか……)
最後の瞬間、メガネはそんな想いに沈んだ。
(そうではないぞ!)
誰かの声が心に響いた。
織田信長の聖刀がスケルトン中華ロボのレーザーブレードを全部、受け止めていた。
それにしても、巨大な聖刀である。
<零式妄想式超光速120Dプリンター>が高速駆動し、さらに、その聖刀は徐々に大きくなっていく。
「メガネ、俺の聖刀は何だと思う?」
「え? そりゃ、へし切長谷部とか?」
「正解じゃ!」
信長は巨大化した聖刀<へし切長谷部>に軽く力を込めた。
その切れ味は尋常ではなく、スケルトン中華ロボの千本のアームが全て両断されて吹っ飛ぶ。
<へし切長谷部>といえば、信長が無礼を働いた茶坊主を手打ちにしようとして、逃げ込んだ台所の膳棚ごと一刀両断してしまったというエピソードをもつ。へし切とは押し切という意味でそれほど切れ味が凄かったようだ。信長の愛した三刀のうちのひとつである。
「メガネ、最後のトドメはお前がさせ!」
メガネ君の身体の震えが止まる。
残りHPは30万まで減っていた。
すかさず、ブレードローラーを全速駆動して突進、<水龍剣>を一閃して、スケルトン中華ロボの残りHPを全部奪った。
スケルトン中華ロボは閃光を放ちながら消滅した。
†
「信長さま~~~~」
メガネは信長に抱きついていつまでも泣きやまない。
「こら、メガネ、わしの小袖が濡れてるぞ!」
信長は何とか逃れようとするが、メガネは両腕をホールドして放さない。
「おい、これは涙じゃなくて、しょんべんではないか!」
「信長さま~~~~」
鼻水をたらしはじめた。
「何かくさいな、う〇こももらしたなメガネ!」
「信長さま~~~~」
メガネはいつまでも泣き続けた。
何とも微笑ましい光景だと思う安倍晴明であった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます