第14話 明智光秀救出作戦
メガネ君の機動装甲兵装≪ボトムストライカー≫はひとり乗りでドラム缶を組み合わせたようなずんぐりむっくりした機体であった。機体カラーは黒色でブレードローラーというタイプの推進装置がついていた。
特殊合金製の
上級者はこのタイプを選ぶ確率が高く、立体機動的なトリッキーな動きができるが、操作が非常に難しくなっている。
もうひとつの推進装置はホバータイプで地面から数十センチほど浮き上がって移動でき、障害物なども避けやすく安定性が高いので、操作も比較的簡単である。
メガネ隊の10機の≪ボトムストライカー≫は全てブレードローラーで廃、重課金の猛者たちが選抜されていた。
神沢隊の30機の≪ボトムストライカー≫は一部、ブレードローラーだが、ほとんどがホバータイプで、後方支援用のハンドバズーカなどを装備している。無課金、微課金者中心で練度も比較的低かった。
メガネ君は息を潜ませながら、赤外線暗視スコープで「
(晴明さま、信長公は心話が使えたんですね)
ちょっとしょんぼり気味の声には力がなかった。
(まあ、そんなにしょげるな。あの方に勝てるものはいない。相手の心の声も見抜いてしまうし、他にも数々の異能をもっている。日本の歴史を変えてしまうような急進派の信長公の力を怖れた≪
(そうでしょうね。だけど、それだと、僕らはこの時代の≪
(それはわしが結界を張ってなるべく防いでるので大丈夫だと思う。それに交渉チャンネルがない訳ではないしな)
(それなら安心ですが、目的を果たしたら、なるべく、すみやかに、この時代からは移動したいですね)
(隠密行動主体だが、問題は信長公がどれだけ自重してくれるかだな)
清明は信長公にわざときこえるようにいった。
が、反応はない。
その時、神沢隊の方から金属音が響いてきた。
何者かと交戦状態になった様子であった。
(神沢隊長、状況は?)
(三機ほど敵に喰われた。ステルスモードぽいわ。まるで<ニンジャハインド>のような奇襲戦法………まさか!)
(全機、装甲を
メガネ君が叫んだ。
全く油断していた。敵が<ニンジャハインド>だとしたら、こんな襲ってくださいというような体勢は取ってなかった。それにしても、どうして、<ニンジャハインド>がこの時代にいるんだ?
(なかなか勘がいいな、メガネ君。敵はおよそ15機、わしの≪魔神眼≫で見通せないものはない)
信長がよく通る心話で全機に伝えた。
兵達が落ち着きを取り戻してゆく。
信長も異世界通信可能なスマホで<刀剣ロボットバトルパラダイス>を少しプレイしていたのでちょっとこのゲームの世界には詳しくなっていた。そんなもの渡して大丈夫かという懸念もあるが。
(あれがあるから、信長公は桶狭間で今川義元を討つことができたとも言える。逆に≪
晴明は信長公と光秀の関係から本能寺の変の真相をそう推理した。
(メガネ君、わしの親衛隊長になりたいといってたな。わしの目をしばしそなたらに貸す。力を見せてみろ)
(望むところです)
信長公の≪魔神眼≫がメガネ君の目に重なる。
<刀剣ロボットバトルパラダイス>の<ニンジャハインド>15機に神沢隊が完全包囲されているのが見えた。
(隊長、俺達にも見えるみたいです)
メガネ隊の副隊長ザクロを筆頭に、メガネ隊のメンバーにも≪魔神眼≫の映像が見えてるようだった。
(敵が見える者は俺に続け! <ニンジャハインド>を蹴散らすぞ!)
闇の中でメガネ君のブレードローラーが回転し始めて土煙が上がる。
≪ボトムストライカー≫が高速機動で疾走を開始する。
その後に、メガネ隊の10機が続く。
風切音をさせながら、疾風となったメガネ機は数秒で<ニンジャハインド>に接敵した。
<ムーンサルトブレード>
メガネ機は宙返りしながら、チェンソーのように唸るブレードローラーで<ニンジャハインド>を切り裂いた。
まずは1機。
空中から回転しながら降下して、着地ざまに回転蹴りを放つ<ブレードスライサー>でさらに3機を屠る。
4機。
それから前方連続回転の<ブレードタイフーン>で、さらに5機を両断した。
9機、残り6機である。
メガネ機はそのまま敵の背後に抜けて、副隊長ザクロ以下、6機同時に<ムーンサルトブレード>を決めて、敵はわずか数十秒で殲滅された。
(凄げえ! 廃課金の集団だと聞いていたが、これほどとは―――)
神沢隊の副隊長カトウが驚愕の声を上げた。
(メガネ君、油断するな。ラスボスが転位してくるぞ)
信長が警告を発する。
メガネ君が振り返った視線の先に、何か巨大な敵が実体化しようとしていた。
それは全長50メートルはあろうかという人形の巨大兵器であった。
徐々にその全貌が明らかになってきて、オタクたちの驚きの声は悲鳴に近かった。
「スケルトン中華ロボ!」
神沢隊の副隊長カトウが伝説のラスボスを目にして、おもわず声を出してしまった。
ドクロの頭に、透き通るようなスケルトンの身体をもち、腰のあたりに三連装中華キャノンが二基あり、巨大なレーザーブレードが左右の手に握られている。攻撃範囲、威力とも最強に近く、一瞬で廃課金ギルドが全滅したという話を聞いたことがある。
刀剣ロボットバトルパラダイスのレベル100の迷宮のラスボスとして知られるが、現状、最難関難度で、廃課金プレーヤーのギルド連合1000人でも攻略できなかったと言われているラスボスである。つまり、それを実際、目にしたものはいるが、生きて帰ってきたプレーヤーはひとりもいないのだ。
その時、メガネ君が静かに抜刀した。
抜かれた刀は直刀で、かなりのレアアイテムであると思われた。
<刀剣ロボットバトルパラダイス>は日本刀ブームを巻き起こしていたが、レア刀剣はほとんど古代の直刀が多く、アーサー王のエクスカリバーのような伝説の聖剣などもレア刀剣としてドロップするという都市伝説もある。
だが、多くはレベルの高い迷宮のラスボスを倒さないと手に入らなくて、微課金プレーヤーのメガネ君が持ってるというのは余程のことがないと無理だと思われた。
(チートだ。メガネ君はチートプレーヤーだ………)
無、微課金プレーヤーから羨望や妬みの声が聞こえてきた。
「違う! メガネ隊長はそんなんじゃない! ただの努力の天才だ!」
廃課金プレーヤーで、副隊長のザクロが叫ぶ。
その騒動を横目で見ながら、メガネ君は俺もそんなこと考えていたことがあったなと思った。
ゲームが上手い奴、自分よりできる奴をみたら、あれは廃課金でズルしてるからだ、俺たち微課金プレーヤーでは一生かかっても追いつけやしないと思ったものだ。
だが、あの男、メガネ隊の前身である「飛礼隊」を率いていた飛礼に会うまではそう考えていた。
よく戦略を練り、正しい努力を続ければ、微課金でもラスボスを倒すメンバーのひとりになれる。
大事なのは自分の強みを知って、それを伸ばすこと、そんなことを飛礼は口癖のように言っていたものだ。
メガネ君は憧れの自分と同じ微課金プレーヤー飛礼のことを懐かしく思い出して、少し口元がゆるんで笑っていた。
刀剣には精霊が宿る。
それが無、微課金プレーヤーにも見えるような強烈なオーラを放ちはじめた。
蜃気楼のように立ち上がった水龍がメガネ機の周りをとぐろを巻くように立ち昇っていく。
<水龍剣>
聖武天皇の御剣で正倉院に伝えられているが、明治5年の宝物修理の際、明治天皇が魅了され、お手元に取り置いたと言われる。宮内省御金物御用、明治金工界の巨匠、加納夏雄によって水龍文の拵えがつくられて<水龍剣>と呼ばれるようになった。
<刀剣ロボットバトルパラダイス>においても、超レアアイテムであるが、≪殲滅刀技≫が使用可能な聖剣でもある。
「では、行きますか」
メガネ君は静かにつぶやいた。
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