第8話 メイドロイドの誘惑

 冥途メイドカフェにいたオタクたちで組織された即席の≪安東K要親S衛隊S≫であるが、徐々にどこからか仲間が集まってきて100人ぐらいの集団に膨れ上がってきていた。


 東京ビッグサイトのネット映像を観たオタク達が晴明の≪妄想式超光速7Dプリンター≫などによって兵士と化して集結しつつあるようだ。

 どういう陰陽術を使っているのか不明だが、グレーゾーンというか、かなりいかがわしい術にちがいない。


 上空から次々飛来する小さな虫のような≪ドローン爆弾≫だったが、≪安東K要親S衛隊S≫は予想外に善戦して攻撃を防ぎつつあった。

 強化アルミ合金製の身体をカバーできる長方形の盾でお互いを防御しながら、まるで銀色の亀の甲羅こうらのような防御陣を展開していた。

 時折、淡い金色の光を放つ五芒星が盾の上に現れては不思議なバリアのように作用してるようだった。

 

(晴明さま、あの金色の五芒星は何なんですか?)


(あれは彼らの首にかけている勾玉のネックレスから放射される陰陽術の護符じゃ。特殊な強化アルミ合金製とはいえ、あれだけでは≪ドローン爆弾≫は防ぎ切れん。保険じゃよ)


(なるほど)


(≪妄想式超光速7Dプリンター≫は空中に存在する元素を超光速で物質に転換できる超兵器だが、弱点がないわけではない。やはり、使う者の妄想力に比例するものだからじゃ。まだ、即席の集団であるし、訓練はシュミレーションゲームでしかできていないし、元々、妄想力が弱い者もいる)


(でも、善戦してくれてます。僕たちもそのお蔭で命拾いしましたし)


(いや、油断はできない。≪ドローン爆弾≫は様子見にすぎない。そろそろ本隊が出てくる頃合いじゃ)


 晴明の予言通りに、その時、異変が起こる。

 地鳴りがしたかと思うと、アキバのアスファルトの地面が崩落し始めた。

 ≪安東K要親S衛隊S≫もろとも、要たちも落とし穴に落ちるように地下へと引きずり込まれた。


「かなめちん、大丈夫ですか? 怪我はないですか?」


 神沢優が安東要の側まできて、身体を支えた。

 

「すこし足をくじいたかもしれない。だけど、これぐらいは大丈夫だよ」


 月読波奈も要の怪我した足を気づかって、ポシェットから救急セットを取り出した。


「かなめちんの足に赤ちん塗ってあげるね。でも、ここって、もしかして地下迷宮かしら?」


 どうやら、地下の暗闇の中に迷宮のように入り組んだ通路が広がっているようであった。

 周りの≪安東K要親S衛隊S≫も何とか体勢を立て直して仲間の無事を確かめている。



 だが、異変はそれだけではなかった。


「あれはメイドロイドちゃん!」


 オタクのひとりが叫んだ。

 地下迷宮の闇の中に可愛らしいメイド服の美少女が現れていた。

 蛍のように淡い光を放っている。

 それは今、アキバのオタクたちの間で人気沸騰の≪メイドロイド 夜巫女やみこ≫であった。

 姿は冥途メイドカフェにいた店員さんと同じ清楚な黒と白のメイド服に、何故か両手にダイコンを持ってるのがポイントだ。

 これを振り回しながら、歌と踊りのパフォーマンスを繰り広げるネットバーチャルアイドルでユーチューブに映像が多数アップされている。


「かわいすぎるぅ!」


 ネットオタクが誘われるように盾を手放して、メイドロイドに近づいていった。


「待て! ≪メイドロイド 夜巫女やみこ≫はバーチャルな存在だ。実在してるはずがない」 


 メガネオタクが仲間の油断に疑問の声を上げた。

 無駄にメガネをクイッと持ち上げるアクションでインテリジェンスをアピールする。


「俺がいく、お前は下がってろ!」


 屈強な筋肉を誇るサバゲーオタクが迷彩服で飛び出す。

 ネットオタクは我に返って、すごすごと引き下がった。

 何かの催眠術のようなもので、誘い込まれたのかもしれない。 


「≪メイドロイド 夜巫女やみこ≫ではないな! 正体を現せ!」


 アーチェリーオタクが先制の矢を放つ。

 それに合わせて、迷彩服のサバゲーオタク部隊10人が妄想で創った短機関銃サブマシンガンを硝煙弾雨とばかりに一斉掃射した。

 アーチェリーはともかく、見通しが悪く、近接戦闘が多い地下迷宮では短機関銃サブマシンガンの方が取り回しが容易で実践的な武器のチョイスだった。さすがというべきか。


 だが、硝煙が晴れると、当然のように≪メイドロイド≫は無傷で姿を現した。

 どうやら、両手のダイコンで全部叩き落とされたらしく、弾丸が地面に散らばっていた。 


「うへへへ、パンツは白ですぜ、旦那」


 そのやりとりの間に、ドローンオタクは赤外線スコープを装備したカメラ付きドローンを超低空飛行させてローアングル撮影するという離れ業で、相手の戦力?パンツを丸裸にしていた。

 少し間違えば犯罪者だし、何の効果を狙ってるのかと思ったら、エロゲーオタク界隈の士気がマックスに上がっていた。いや、それも無駄でしかないような気がするが。

 

 突然、≪メイドロイド≫が光速で突進してきた。

 日本刀オタクと、ソードオタクと、青竜刀オタクが突撃を剣、刀で抑え、その隙に緊縛オタクが≪メイドロイド≫を捕縛して、SMオタクが鞭で叩いていた。意味がない。


 だが、≪メイドロイド≫は身体を腰から高速回転させるというアンドロイド独特の動きで縄を切断したかと思うと、再び、突進を再開した。


 相撲オタク、プロレスオタク、レスリングオタクが必死でそれを止めようするが、歯が立たずに盾もろとも身体ごと吹っ飛ばされていた。


 安東要の本陣周りに≪メイドロイド≫が単騎で突撃突破を果たそうとした時、ついに輝く銀色の装甲もつ式鬼≪銀鋼シロガネ≫7機が降臨して、≪メイドロイド≫の突撃を阻んだ。


 式鬼≪銀鋼シロガネ≫は道術と≪天鴉アマガラス≫の超過科学力を融合させた人形装甲兵器である。

 パイロットは冥途メイドカフェにいたおじいちゃんたち7人だが、≪零式妄想式超光速12Dプリンター≫も組み込まれていて武器などを自在に召喚し、式鬼≪銀鋼シロガネ ゼロ≫と呼ばれる特別仕様になっていた。


 彼らは元ゼロ戦乗りで終戦になって死にぞこなって、余生を冥途メイドカフェで暇つぶししていた古強者であった。

 オタクたちと比較して練度も実践経験、妄想力も高く、それゆえに晴明から式鬼≪銀鋼シロガネ ゼロ≫の搭乗を許可された精鋭だった。


(清明殿、若い者にはまだ負けるわけにはいかんからのう)


(玄さん隊長、心強いな。だが、あまり無理をせず、ほどほどに戦ってくれ)


(わかっとるよ。だが、昔の血が騒ぐ。こんな働き場所を用意してくれた清明殿に本当に感謝してる)


(そうか、わかった。頼りにしておる)  


 安倍清明は年寄りが張り切るのは少々不安であったが、いざとなれば、自分の陰陽術にも自信があったし、心配はしていなかった。


 如何に神霊となった安倍清明でも、全ての未来がその千里眼に映るとは限らなかった。

 未来の可能性は無限に広がっている。

 やがて安倍清明はそのことを思い知らされることになるのだった。

 

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