第4話 異世界

 目黒の安アパートに帰った安東要は、月読波奈つくよみはなとのデート疲れで、ベッドに突っ伏した。

 デイズニーシーの楽しいはずの光景が、悪夢の走馬灯のように彼の頭の中で何度も再生された。


(これも東日本を救うためですね。清明さま)


(そう、そうじゃ。まあ、次のミッションは楽じゃから、安心せい)


(でも、清明さま、今日、気になったことがあったんですが、イスパニア帝国のニュースで、空母をフィリピン沖に派遣したとか……、そんな国ありましたっけ?)


(イスパニア帝国はお前の世界では『アメリカ合衆国』に当たる国で、この世界の覇権国家じゃ)


(……それって……、この世界は僕の生きていた世界の過去ではないんですか?)


 安東要はベットから飛び起きて、晴明の姿を思わず探していた。

 声だけの存在に姿などあろうはずないのだけど。


(ふむ、言ってなかったかな? この世界はお前の世界とは別次元の異世界パラレルワールドじゃが)


(いやいや、聞いてないですよ! 異世界の過去の歴史を変えても、僕の時代の歴史が変わるはずないじゃないですか! 僕の苦労は水の泡じゃないですか!)


 安東要は激昂して涙目になった。


(落ち着け。そなたは浅はかじゃな。まず、わしの話を聞け)


 感情を吐き出した後には、デート疲れが襲ってきて、しょんぼりしてしまった。

 しだいに頭が冷静になってくる。

 いつもの安東要が戻ってくる。


(―――それって、どういうことなんですか?)


(なるほど、24歳に転生したので過去にタイムスリップしたと勘違いしたのか。どうやら、東日本大震災が起こった真相を話しておかないといけないらしいな)


(東日本大震災が起こった真相?)


(現代日本では東日本大震災は自然現象だと思われている。が、一説ではトンデモ説だが、アメリカの空母『ロナルド・レーガン』による人工地震説もある。『ロナルド・レーガン』の乗組員が被爆して東電を集団訴訟しているニュースがあったと思うが、あまりにも被曝量が多すぎるので、天山原発ではなくて、原子爆弾などで被爆した可能性も指摘されている。いわゆる『トモダチ作戦』は災害救助という面もあったが、それをカモフラージュするためのもので、ソ連、中国への軍事的牽制もあったという話じゃ。確かにアメリカは地震兵器の研究もしているし、CIA辺りの機密文書によれば日本への地震による心理的軍事作戦もあったりする。地震の波形も自然のものとは違うという説もある。だが、真相はどれも違う。あれは異世界同士が接触したことによる≪時空震≫が原因なんじゃ)


(≪時空震≫?)

  

(つまり、この異世界で起きた≪時空震≫がおぬしのいた世界に影響を与えて、東日本大震災に繋がったというのが真相じゃよ)


(はぁ)


 安東要はため息をついた。

 あまりにも話が斜め上すぎてついていけない。


(まあ、心配するな。わしに任せておけば全部すんなり解決する。おねしの頑張り次第じゃがな)


 あの、凄まじいプレッシャーで押しつぶされそうなんだけど。

 もう何がなんだか分からなくなってきたよ。


(心配するのも無理もないが、過去の歴史を変えるということは並大抵のことではない。だが、おねしならやり通せると思う。あんな体験をしたのだからな)


 そうだった。

 『東日本断層』、あのような大災害を目にしてしまった僕はこんなことでくじける訳にはいかなかった。

 安東要は拳を握りしめた。 


(はい、頑張ります。精一杯やろうと思います。でも、今日は本当に疲れたので、少し眠らせてください)


 そう言ったきり、安東要はしずかに寝息を立てはじめた。


(そうじゃの。おぬしは明日になったら、また、地獄が待ってるからな。よく眠れよ)


 安倍晴明は優しい言葉をかけて、安東要の顔を不憫ふびんそうに見つめ続けた。

 

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