第2話 安倍晴明の転生術
自衛隊の汎用偵察ヘリ≪シャドウスキル≫は、福島沖に停泊している潜水空母≪
旧日本海軍の伊四〇〇型潜水艦をモデルとして、自衛隊内の≪
潜水艦といっても光子波動エンジンを搭載しているので、大気圏内のみならず、宇宙空間でも作戦行動可能な宇宙船でもある。
安東総理は潜水空母≪
どっと疲れが来る。
あの惨状を目にして、自分は今まで何をしていたのか、深い後悔に沈んでいた。
もっと自分に力があれば、何とか最悪の事態を回避できたのではないか。
父親である政治家の安東龍一郎への反発で無駄に過ごしてしまった青春時代を恥じてもいた。
閉じた双眸に、悔し涙がにじんでこぼれた。
しばらくそうしていた安東要はいつのまにか眠りに沈んでいった。
◇◆◇
夢の中で、幼い頃、よく通って遊んでいた名護屋の清明神社に安東要はいた。
987年(寛和3年)頃、京都の政変によって安倍晴明がこの地、尾張国狩津荘上野邑(現在の愛知県名古屋市千種区清明山1-6)に流されて在住していたらしい。数年後に京に戻ったと伝えられている。
その時、周辺の村人達がマムシの害に悩まされているのを見て、晴明がマムシ退治をしてくれたという伝説が残っている。
時は流れて、江戸時代の1778年(安永7年)に再びマムシの被害があって、その際、晴明を祀る
戦時中に陸軍の兵士が
1967年(昭和32年)に県営清明山住宅完成後に、祟りを怖れた入居者達が本殿と鳥居を建てて今の晴明神社になったという。
安東要は本殿の前で思わず手を合わせて今後のことを祈った。
京都の晴明神社ほど立派ではないが、賽銭箱や
(安東要、おぬしの願いを叶えてやろうと思うが、どうだ?)
いきなり、天から声が降ってきた。
「まさか……、安倍晴明さまですか?」
安東要は思わずそんな言葉を発した自分自身に驚いた。
(なかなか勘がいいな)
「あの、願いを叶えるというのは?」
(わしの転生術で、おぬしを過去に送り込んで東日本の悲劇の歴史を改変する手伝いをしてやろうということじゃ。どうする?)
「いや、転生術というのは、私は一度、死ぬことになるのですか?」
(そういうことじゃ。その覚悟はあるか?)
「そうですね。それが叶うなら、私の命など惜しくはありません!」
思わず声が大きくなっていた。
(では、そうしようか)
心の準備をする暇もなく、安東要の意識は再び闇の中に沈んでいった。
◇◆◇
気がつくと、安東要は新宿のフルーツショップの側に立っていた。
ケータイを見たら、2011年3月1日の火曜日のAM11:30である。
何となく記憶をたどると、この日は女の子とデートしてたような気がする。
ランチの待ち合わせだよ、確か。
ちょっと待て。確か夢の中で安倍清明が出てきて、過去に転生させてやるとか言ってたよな。
自分は一体、『だれに』転生したんだ?
安東要あわてて駅のトイレに駆け込み鏡を見た。
若い24歳の安東要自身がそこに映っていた。
「ええ!」
思わず、小さな叫び声を上げてしまう。
転生といえば、何かこう魔法使いとか、勇者とか、魔王とか、特別な能力がある人間に転生するものだと思っていた。ラノベの読みすぎだが。
平凡な何の特殊能力もない、若いだけの自分自身に転生するって、それって、ただのタイムスリップじゃないのか?
2011年3月1日の東日本大震災が起こるわずか10日前とか、時間なさすぎだろう。
10日でどうやって歴史を変えるんだ?
(まあ、落ち着け。それはわしがこれからゆっくりと話してやろう)
脳の中に声が直接ひびいいた。
「安倍清明さま? いや、音声ナビゲートつきですか?」
(そうだ。親切だろう)
確かに親切だけど、何か違うような気もする。
「それで、これから何をすればいいのですか?」
(そうだな。最初のミッションは、この後にデートする彼女の心を掴むことじゃ!)
「はぁ? ちょっと待ってください。それと東日本大震災を防ぐことに何の関係が?」
(東日本大震災が起こった原因、正確には、防げなかった理由の25%はおぬしが彼女に振られたのが原因じゃ!)
「え? 何をおっしゃるんですか、清明さま」
安東要は晴明の発言にしばし呆然となった。
(浅はかよのう。わしの千里眼にははっきりと運命の糸が見えているんじゃ、信用せい!)
「いや、そんなこと言われても、自信がないですよ。デート経験少なくて……」
(そんなことはお見通しじゃ、心配するな。わしが今から『超デート理論』を授けるから安心せい!)
どこかのドラマとか、恋愛本で聞いたような『超デート理論』が出てきた時点で、超不安になってきたんですけど。
「分かりました。仕方ないので、頑張ってみます……」
安東要はこのインチキくさい安倍清明と名乗る声の主に疑いもあったが、ともかく、ここは流れに任せてみることにした。
しかし、デートと東日本大震災が起こった原因に何の関連性があるのか、その時の安東要には知る由もなかった。
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