安倍晴明と安東総理のやり直し転生譚

坂崎文明

第一章 現代過去転生編

第1話 東日本断層

「安東総理、あれが東日本断層です」 


 公安警察所属、秘密結社≪天鴉アマガラス≫の実質的リーダーである神沢優は無念そうに切り裂かれた大地を見つめた。

 長い黒髪にいつもの紅色のサイバーグラスをしていたが、口元は厳しく引き締められていた。


 自衛隊の汎用偵察ヘリ『OH-1改ハウンド』、通称≪シャドウスキル≫の後部座席には安東要あんどうかなめ総理が搭乗していた。


「マグニチュード10.0、地球上で起こりうる最大の地震が発生しました。天山原発跡地は地面が陥没して巨大なクレーターができています。広島に投下された原発の六十発分の核燃料デブリで地下核実験をしてしまったようなものですからね。まだ、詳細な報告は上がっていませんが、東北地方の残り三ヶ所の原発はおそらく、全てメルトスル―、崩壊状態にあります。青森の霧島、美津島原発、柏崎の鳥居原発、東海の浜川原発は奇跡的に助かっています」

 

 神沢優はできるだけ冷静に言葉をつむいだ。


「間に合わなかったか……」


 三十五歳の若き総理、安東要は自分の不甲斐なさに唇をかみしめて両拳を強く握った。

 短いがゆるくウェーブのかかった髪型、切れ長の目も光を失い、深い絶望に沈んでいた。


 先代の秘密結社≪天鴉アマガラス≫のリーダー、安堂一郎の親戚筋で東北の安東家出身である。

 3.11の東日本震災で福島の天山原発は四基のうち二基がメルトスル―を起こし、地下数百メートルに沈んだ核燃料デブリによって放射性水蒸気が発生、東京の空も天候不順に見舞われるようになった。

 その事態を受けて、秘密結社≪天鴉アマガラス≫の人脈を駆使して政権与党の民政党の金山総理を更迭、若きの代表、安東要総理が誕生した。 

 ちなみに、安堂一郎は神沢優の部下である公安警察の安堂光雄の父親であり、五年前に不慮の死を遂げていた。


「東日本断層は約幅十キロで、福島から北西に伸びて日本列島を両断しています。鉄道、道路網は全く使えず、東北への交通手段は船、もしくは航空機しかないです。現在、自衛隊の輸送ヘリで被害地域への救護活動中ですが、何分、地震で関東全域も崩壊していますので充分な救護活動はできていません」


 神沢優の状況報告を安東要は冷静に受け止めようとしていた。


「私にできることは、もはや何もないのか?」


「そうですね。今は自衛隊などによる救護活動に全力を注いでます」


「そうか」


 力なく安東要はつぶやいた。


「ただ、私たち、秘密結社≪天鴉アマガラス≫の一族は数万年の時を生きています。約7300年前に鹿児島沖の火山である鬼界カルデラの噴火では西日本全域に火山灰が降り注ぎ、人が住めなくなったことがあります。縄文時代の遺跡が東日本に集中してるのはそういう理由があります。『続日本紀』によれば、天応元年(781年)に富士山から火山灰が降ったという記録もあるし、延暦19~21年(800年~802年)にも大噴火を起こし、貞観6年(864年)の大噴火で青木が原溶岩を噴出したという記録もあります。火山の噴火に比べたら、原発が数基メルトスル―したぐらいは大したことないと思います」


 神沢優は最後には明るく笑顔まで見せた。


「あなたはずいぶん、楽観的ですね」


 安東要もつられて少し笑顔になる。


「いや、やるだけのことはやりましたので、無念ですが、納得はしています。それに未来は変えることができますし、人が懸命に努力する姿勢を持っていればそんなに悪いことにならないと思っています」

 

 現在、彼女が秘密結社≪天鴉アマガラス≫のリーダーをやってる理由が少しだけわかった気がした。


「私もこれからやれることは何でもやるつもりです」


 安東要は決意した。

  

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