第26話 雨と追憶 2



 翌明朝。


 デュクシスと名乗る男を前に、サリアスは警戒心を尖らせていた。


「……まあ、気持ちは分かるがね。こちらも、とにかく信用してくれとしか言えないが……信用しろってのも無茶な話だわな」


 ため息交じりに肩をすくめて、飄々とした口調で男は言う。当然だった。ここから先に村があるなどと言われて、信じられるわけがない。この先は、いわば魔王の膝元だ。万が一本当に人間の村があったとして、その村が自分たちを歓迎するとは思えなかった。


 場所は男の案内で一晩を明かした小屋の中。明け方目を覚ましたサリアスに、男は軽い調子で自己紹介した。自分はここから二日ばかり先の村に住む者だ、これから村まで案内したい、と。サリアスの記憶は、一角獣らしき魔物に襲われたところで途切れている。まずルチルナの居場所を問い質したサリアスに、男は気まずげに答えた。


「あー……あの姉さんは、な。俺の知り合いがどうも用事があったらしくてな……」


 まだ薄暗い小屋の中、相手の表情を探ってサリアスは目を細めた。歯切れの悪い言葉に、嫌な予感がする。フィラーシャはまだ夢の中だ。普段通りの寝起きの悪さを恨むべきか。だが、昨日から状況は輪をかけて悪くなっている。あの時既にかなり追い詰められていたフィラーシャが、今起きていて冷静さを保てるかは微妙だと思った。


「つまり、その知り合いとやらに連れ去られた、という事だな?」


 言いながら立ち上がって剣を抜く。幸い、フィラーシャはサリアスの背後だ。狭い小屋の中でサリアスの大ぶりな得物は不利だが、見たところ相手も小回りの利く武器のようではない。サリアスの動きに、不本意げながら男が手を触れた戦斧を見遣る。


 互いに視線だけで牽制しあい、小屋の空気が張り詰める。


 油断していい相手ではない。本調子でない今は尚更だった。正面からぶつかって腕力でねじ伏せる事が、全く不可能とは思わない。だがそれは、相手も自分と同じ、魔術の心得が無い人間の場合に限る。


 呼吸の乱れ一つで崩れるような、危うい均衡を保った睨み合い。しかしそれは一瞬だった。


「――まあ、止めようや。とにかく移動しない事には、ここで油売ってても仕方ないだろう」


 ふ、と息を吐いて男が斧から手を放した。降参、とばかりに軽く両手を上げて首を傾げる。それでもまだ、サリアスは構えを解くことが出来なかった。ルチルナの時とは違う。この男は、こうして自分から構えを解いてみせても奥の手を隠しているような人種だ。それはサリアスの直感だったが、この手の直感に裏切られた事はない。なおも警戒を緩めないサリアスに、弱り切ったように頭を掻き回した男が尋ねる。


「んじゃあ、お前さんはこれからどうする気だ。まあ俺は代理で駆り出されて来ただけだし、こっちも他に急ぎの用があるんでね。どうしてもって相手を無理矢理案内するつもりも無いが……あんたは随分回復したみたいだが、そっちの子は相当参ってるぞ。それに、俺が言うのもアレだが、金髪の姉さんを攫った奴の事が知りたけりゃ、あんたの情報源は俺だけだ。正味な話、ここでお別れして不利になるのはそっちだと思うがね?」


 言われている事は、重々承知のつもりだ。ここで、この男を振り切って逃げても先は見えない。だが、この男を易々と信用して罠に嵌められては目も当てられないのだ。魔術の素養が全くないサリアスでは、最悪目の前の男が人間に化けた魔物でも、判別の手段はない。何とかこちらに有利な形で男から情報を引き出したいところだった。


「確かに、お前の言う通りだ。だがお前の言う事を、信じる理由が何一つ私にはなくてな。……ここまで案内してくれた礼は言おう。だがそれがただの好意と、今私が信じられると思うか」


 問い返すサリアスに少し目を見開いて、デュクシスがふむ、と片手であごをさする。敵意が無いのか、上手く隠しているだけか、いまいち判断しかねる男だ。ふざけている、と言うほどの軽薄さも見受けられない相手だが、サリアスらを誘導する事にさして熱心でないのも事実のようだ。


「なるほど、全くもっておっしゃる通りだな。俺でも信用しないね、多分。残念ながら俺は他人に信用されるのが得意な人間でもないしなあ。……ところで、そっちのお嬢さんは大丈夫なのか。さっきから全く起きてこないが、その子の方が熱を出してるなんて事はないだろうな?」


 今更気付いた、とばかりに眉根を寄せる相手に、わざわざ説明してやるべきか躊躇する。正直サリアスもそろそろ起こしたいところだが、今、目の前の男に背を向けるのもためらわれた。だが、すぐにその必要はなくなる。


「……――歌?」


 寝ぼけた声で、背後のフィラーシャが呟いた。目を覚ましたのだ。その言葉につられて耳を澄ますと、確かに不思議な旋律が耳に届く。それはサリアスに呼びかけ、サリアスを呼んでいるようだった。


「こりゃあ、セイレン族だな」


 怪訝げに男が呟く。たしかに聞き覚えのある歌声だ。魔術に敏感なフィラーシャは、この歌声の呼びかけで目を覚ましたのだろう。


「あたしたちを呼んでる」


 まだ寝ぼけた状態らしいフィラーシャが、のっそりと身体を起こして言った。そのまま立ち上がってふらふらと男の方へ――その背後の小屋の出入り口へ向かおうとするフィラーシャの腕を慌てて掴む。それに驚いて覚醒したらしいフィラーシャが、サリアスを見とめて、大きな碧眼を真ん丸に見開いた。


「サーちゃん……おきたの……?」


 ああ、と頷いてフィラーシャを引き戻す。その様子を黙って見ていた男が、安堵したように少し笑った。その反応に眉を上げたサリアスを尻目に、男は斧を担いで外に出る。


「あんたらを呼んでるんだろう。何の用事か知らんが……セイリア海峡でもめたのか?」


 確かに揉めはしたが、今更セイレンが害意を持っているとは思えない。フィラーシャを連れて外に出ると、サリアスは空に向かって声を上げた。


「こちらだ! 私たちに何か用か!」


「うお、おいっ!?」


 呼び誘うような旋律が止まる。同時に驚いたらしい男が頓狂な声を上げた。


「良いのか呼んでっ。セイレンだってお前さんからすりゃあ……」


 慌てる男に否定する前に、妙に懐かしい声が空から降って来た。


「おや、一人面子が変わってるじゃあないか。そいつは誰だい。精霊の……ルチルナはどこに行った?」


 ようやく夜の明けた薄曇りの空から、金の髪を朝靄に舞わせてナースコルが飛来する。この場にあって、一番の異形である彼女を相手におかしな事だが、酷くサリアスは懐かしさと安堵を覚えた。フィラーシャもそうなのだろう。ほ、と息を吐く気配がとなりでする。


「俺はデュクシス。人間の闇使い、フォルティセッドの兄だ。アンタは確か……」


「セイレン族、族長三姉妹が次女ナースコルだ。お前があの闇使いの兄弟か、弟御も難儀な事だね」


「……っ! フォートの居場所を知ってるのか!? あいつは一体誰が……!」


 顔色を変えたデュクシスの前で一つ大きく羽ばたいて、ナースコルが人型に変じた。顔かたちはそのまま、琥珀色の猛禽類だった鳥身が、胸の大きく開いた深緑のドレスを身にまとう、若い女の身体に変わる。


「フォート……?」


 随分前に聞いた覚えのある名に、サリアスはフィラーシャと顔を見合わせた。同名の別人だろうか。


「安心しな、今日中には家まで帰り着くだろうよ。詳しい話は本人から聞け。――それよりもルチルナはどうした」


 勢い込んで問い質すデュクシスをあしらうように言った後、ナースコルはサリアスらに向き直って尋ねた。


「その男の連れが……と聞いているが、私はその時意識が無かったからな……」


 言いながらフィラーシャを見遣ると、当時の事を思い出したのか、びくりと怯えてフィラーシャが視線を落とす。


「う、ん……蝙蝠の羽が生えた男の人が……ルーちゃんを…………あたし、の、せい……で」


「蝙蝠だと? ノクスペンナの小僧かっ!?」


 眉を跳ね上げたナースコルがデュクシスに詰め寄った。げ、とのけ反ったデュクシスが恐々としながら頷く。その剣幕に驚いて跳ねるフィラーシャの肩を、サリアスは撫でてやった。


「あ、ああ。こっちは攫われたフォートの代わりに、この子らのお迎えを手伝えと言われて付き合ってやったのに、あの姉さんを引っ捕まえて一目散だ。なんか反則技みたいな魔術を使う姉さんだったが……フォートの行方も攫われた目的も分からんまんま、蝙蝠のおっさんには丸投げされて、こっちもいい加減我慢の限界だがね」


 言っているうちに腹が立ってきたのか、デュクシスが負けじとナースコルに凄む。一体何がどういう事なのか、サリアスらには全く見当が付かない状況だった。結局、このデュクシスという男はどういう立場の人間なのか。


「す、すまないがナースコル殿。一体その男は何者なのだ。この先に、人間の村があるというのは本当の事なのか?」


 デュクシスと睨み合っていたナースコルが、少し困った顔でこちらを向いた。


「ああ、それは本当の事さ。こいつはその村の人間だ。……お前たちもこれも、結局は灰の老竜に振り回された者同士だ、村に案内すると言うならば宿を借りればいい。向こうで待っているこれの弟が、全ての答えを持ってるからね、悪いが詳しい事はそちらで聞いてくれ」


「おい待て、アンタまで俺らに丸投げかっ」


「私からも頼む。もう少し詳しい話を教えてくれ。何故この先に人間の村があるのだ。それに……ナースコル殿とルチルナを攫った者、魔王の関係は一体何なのだ……?」


 まおう、と間抜けな響きでデュクシスが復唱する。今度こそ困り果てた様子で、ナースコルが怒らせていた肩を落とした。


「そうか……お前たちはまだ何も知らないんだったね……どこから説明したもんか……」


 思案するように腕を組み、ナースコルがサリアスらをとっくりと眺める。しばらくして、苦虫を噛み潰したような表情で説明を始めた。


「お前たちが思う魔王、なんてのは存在しない。我らが主、闇の王はこの世界の維持に必要不可欠なお方だ。今こうして水と地の魔力が衰弱し、世界が崩壊しているのは他でもない、闇の王――銀月王陛下がその器を封じられ、陛下の担っていた月を奪われたからさ」


「闇の王が、必要不可欠……? 月を奪われたとは、一体…………?」


 闇とは、悪だ。その存在が世界を崩壊に導く事はあっても、それが世界に必要だなどあり得ない。闇の王が月を奪ったのではなかったか。月こそが、闇から人々を守るものではなかったか。理解不能の言葉を話されたように混乱するサリアスを待たず、急いているらしいナースコルは更に追い打ちをかけた。


「そうさ、奪われたんだよ。千年前に――『神帝』などと名乗る、アダマスの大うつけにね。そしてその阿呆は、最近になって突然月を放棄した。理由は知らない、だが月が無ければ水と地の魔力は弱るのさ。今、世界を滅ぼさんとしているのは……その者を『魔王』と呼ぶのなら――それは、アダマス自身の事だろうね」


 何を馬鹿な、と呟いた。腹を立てる気も起らないような話だ。それよりも、ナースコルとて所詮は魔物、という失望感が勝る。サリアスを騙すにしても、あまりにも酷い嘘だった。そんなサリアスをどう思ったのか、憐れみめいた表情すら浮かべてナースコルは続ける。


「この先にあるのは、光の女王と闇の王の契約のもと作られた人間の村だ。昼の民と夜の民の架け橋とするため、昼の民で人間の中に一人だけ闇の魔力が使える者を、そして夜の民で竜族の中に一人だけ、光の魔力が使える者をそれぞれ許した。私らセイレン族は『銀の一族』、ルチルナを攫った小僧らは『灰の一族』と呼ばれる者さ。そして……お前たちをここへ呼んだのもあの灰の連中だ――アダマスによって封じられた、陛下の器を解放するためにね」


 元々魔力の話に疎いサリアスにとって、混乱した頭でナースコルの早口に追い付くのは難しい。あり得ない、という思いが邪魔をすれば尚更だ。


 だが、最後に言われた事だけはやたらと頭に響いた。


 ――誰が、何の為に、私たちをここへ呼んだと言った……?


「――さあ、大体こんなもんだろう。私はその灰の族長に用事が出来たんでね、行かせてもらうよ」


 何を馬鹿な。もう一度呟く。ふざけるな、と怒りがこみ上げてくるより前に、ナースコルは鳥身に変じて空へと消えた。



***

 


 闇の城は急峻な山脈の中にある。


 中、とは木々の間という意味ではない。山そのものが城なのだ。天守である一際高い峰を、西にある正面の「黒の城門」、北側面の「灰の軍府」、南側面の「銀の塔」と呼ばれる峰が囲んでおり、東は更に高い山々が壁となっている。そのうちの、銀の塔の南側面、遥か下に川を見下ろす絶壁を目指して飛ぶものがあった。ナースコルである。


 巧妙に崖に隠れた入り口に、何の迷いもなく滑り込む。銀の一族に与えられたその塔で人型をとり、身なりを整えると、ナースコルは半ば駆けるようにして灰の軍府へと急いだ。広大な城の各所に置かれた跳躍門を使って、最短での移動を図る。


 灰の軍府、最上階。そこが灰の族長であるテネブラウィスの居館となっている。家人の制止を無視して館の奥へ突き進むと、主の部屋の前に立ちふさがる者があった。


「おどき、ノクスペンナ!」


 深緑のドレスの裾を捌いて命じる。それぞれの一族内での立場はほぼ同格だが、その年功においてナースコルが遥かに上だ。しかし、ノクスペンナは黙って首を横に振った。


「力ずくでも通る!」


「貴女の能力と私の能力は拮抗する。この場では危険です」


 両者とも、風の魔力、特に音を操る能力を持つ。反響の激しい、いわば地下の密閉空間で交戦すれば当人達はもとより、周囲に大きな被害が出る恐れがあった。


「私は構わないよ。家人を危険に晒すのが嫌ならさっさとどくんだね」


 一歩踏み出して睨み上げる。相手の背中の向こうにはテネブラウィスの居室の、大きく重厚な扉が見えた。


「テネブラウィス! 聞こえでいるんだろうっ。我らセイレン一族を、ひいては銀の一族を敵に回すつもりか!」


「全ては陛下復活の為。今我々に矛を向ければ、裏切り者と呼ばれるのはそちらであろう」


 扉に向かって投げつけた言葉に、返す声があった。背後から聞こえたそれに、ナースコルは振り返る。


「貴様、どこへ行っていた」


 灰色の闇の中から現れた老竜に、唸るようにナースコルが尋ねる。それに何の感慨も見せず、テネブラウィスは自室の方へと向かった。


「入られよ。あの娘とセイレン族の関係など聞き及んではおらぬが、今ここでそなたらに邪魔をされるわけにはゆかぬ。説明をして、納得いただければよいがな……」


 石の扉に手をかけての老竜の言葉に、ナースコルは黙って一歩、足を踏み出した。



***



「精霊の娘をどこへやった」


 勧められた椅子に座らず、ナースコルは立ったまま尋ねる。


 石造りの居室の内装は主人の性格を表す様に、重厚ながらも地味なものだ。質にはこだわれども、装飾は必要と思われていないことがよく分かる。


「狭間の牢で眠っている。何の危害を加えたわけでもない」


 狭間の牢とは、亜次元に結界を張り、それを牢獄として使った場所のことだ。


「精霊の魔力で破られないよう、多少の術封じがしてあるがな」


 ルチルナが己の能力に完全に覚醒してしまえば、あるいは灰の老竜の術でも破ることができるかもしれない。しかし自分の力の正体すら知らない今の彼女に、それを求めるのは無理だろう。


「あれをどうするつもりだ」


「決まっている。陛下の御身より太陽の剣を抜き取るのだ。精霊の純血がいるのならば、わざわざ聖都より昼の民を呼び寄せる必要もなかったというもの。精霊を使うが最も確実な方法と言えよう」


「ならば何故攫うような真似をした。それだけならば他の二人と共にやってくるのを待っていれば良かっただろう!」


 大理石の椅子に身を沈めるテネブラウィスに詰め寄る。目の前の老竜が、思惑の全てを語ってはいないとナースコルは確信していた。


 石畳の床がナースコルに蹴散らされて乾いた悲鳴を上げる。竜族は内装に柔らかな木や布を使う習慣がない。そのため、この部屋も来客用の椅子を除いては、全てが石でできていた。


「それに貴様は二十年前にも、あの娘に手を伸ばした。一体何をするつもりでいる?」


 怒りに燃えるナースコルの緑柱石の眼を、白々と光る金の瞳孔が見返す。その酷薄な光は、ナースコルの剣幕にも何の動揺も見せていない。


「ことは夜の民、あるいは全世界に関わる大事。多少乱暴でも確実な方がよいであろう」


 二つ目の問いを事も無げに無視して、テネブラウィスは答える。


「ふん、流石は竜族と言ったところか。まるで昼の民のようなことを言う」


 下心を隠して大仰な大義名分を振りかざすのは、昼の民が好む下衆な手段だ。そう言外の皮肉を込めて舌打ち混じりに吐き捨てると、ナースコルは更に老竜に一歩迫った。


「もう一度問う。あの娘をどうするつもりだ」


「陛下復活の後は、アダマスを倒す良き剣となろう。その為にまず力を完全に覚醒させ、その上で二つに分ける」


「分ける、だと?」


「霊眼と言霊の能力を分けて霊眼を封じ、共に使う術をなくしておくのだ。さすれば万が一の時も我らの手で止められよう」


 精霊の王族の眼は場所、時間に関わらず全ての事象を見ることができ、その声は全ての事象を思うままに操ることができるといわれている。ただしその能力は個人差があり、本当に世界全てを操ることができる者はいない。それでも、それでも脅威であることに変わりはなかった。


「アダマスが二柱神を裏切り、陛下を弑した折に分かったはず。精霊の力は脅威になりうるとな。あれほど抜きん出た力を持つものが後にも先にも出なかった故、干渉をしてこなんだが、利用するとなれば話は別であろう」


 ナースコルは拳をきつく握った。


「そのような真似は許さない」


「卿の許可を得る必要はないと考えるが」


 末妹ほどではないにしろ、あまり堪え性のないナースコルである。いい加減、目の前の老竜との会話に忍耐の限界を覚えていた。


「黙れ! かの娘と我等を愚弄するにも程があるぞ、テネブラウィス! 陛下の復活にあれが必要であることは認めよう。だが貴様の為さんとする事はいたずらにあれを貶めること。貴様一人の都合で駒の様に弄ぶことは許さん」


 泰然と椅子に身を預けたままの老竜にまくし立てると、ナースコルはねめ付けてから背を向けた。そのまま勢いよく扉へと向かう。


「どこへ行かれる」


「貴殿には関係のないことだ。灰の老竜殿におかれては、せいぜい、その他者を軽んじる愚挙に足をすくわれぬよう、足元を見張っておられるがよろしかろう。私はこれで失礼する!」


 足も止めずに言い捨てると、扉を蹴り開ける勢いで広い室内からナースコルは出て行った。


 行き先は一つ。かの老竜の手が下される前に、ルチルナを解放しなければならない。


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