第465話「追放されるのは?」



GM 「皆さん、一日目の夜がやってきました。……人狼さん、人狼さん、おはようございます。目を開けて下さい」


 或子と音子が顔を上げる。

 気配を完全に絶っているところが、二人が並みの巫女ではないことを証明していた。


GM 「今日、襲う人を一名選んで下さい。指で示して下さい」


 或子は皐月を。

 音子も皐月を。

 それぞれ指で示した。


GM 「ありがとうございました。今夜襲われる人が決定しました。……占い師さん、占い師さん、おはようございます。目を開けて下さい」


 藍色がゆっくりと顔を上げた。

 今回のゲームでの占い師……市民の中で最も重要な役どころをもつ役職は、冷静沈着な巫女ボクサーのものになっている。


GM 「占い師さん、今夜は誰を占いますか。占う人を指で示して下さい」


 藍色が指名したのは、京一だった。

 レイが考えたのと同様、藍色は京一の頭脳というものを決して軽んではいなかった。

 少年が人狼であった場合のリスクの高さを考慮してだ。

 唯一の男性であるということと、ひっかけ・騙し・策略については見抜くことも上手いが、逆に仕掛けることもできる相手である。

 もし藍色が人狼であったのならば、真っ先に始末しないとならないと感じるだろう。

 逆にもう一人の人狼は間違いなく或子だ。

 そもそもリングの上や戦闘中以外に騙し合いのできるタイプではないから、さっきのド直球の告白は百パーセント事実に間違いない。

 もしあれが嘘だというのなら、藍色のこれまでの人生がすべて覆されるようなショックを受けるはず。

 GMが占いの結果を見せた。

ホワイトボードに「市民」と書かれている。

 つまり、京一は市民側なのだ。

 藍色は胸をなでおろす。

 とりあえず最悪は免れた。

 一年ほどの付き合いでしかないが、京一を敵に回す面倒は身にしみてわかっているので、どうしても避けたいところだった。

 彼がという考えはこの時の藍色にはなかった。

 これはゲームを進める上においては、致命的なしくじりといえた。


GM 「騎士さん、騎士さん、おはようございます。目を開けて下さい」

 

 すでにレイという騎士がいないにもかかわらず、GMはまるで生き残っているかのようにふるまう。

 これはゲームの公平性を担保するためのものであった。

 実際にはもう存在しない騎士がいるようにみせることで、ゲームを難しくする効果がある。

 

GM 「では、騎士さん。今夜、守るべき人を指名して下さい」


 騎士は人狼の襲撃から指名した市民を守ることが出来る。

 基本的に、騎士が守るべきは市民の中でも特に人狼を特定できる占い師なのであるが、占い師が見つけられない場合は他の市民、もしくは敵である人狼そのものを守る結果になってしまうこともある。

 加えて、自分自身と同じものを二回続けて守ることはできないという縛りがある。

 このゲームにおいてはすでにレイがいないのでその力を振るうことはできなくはなっていたが。


GM 「確認しました。騎士さん、おやすみなさい」


 GMの一人芝居が終わり、一日目のターンが終わる。


 コケコッコー!


 またもメンドリの鳴き声が響き、ゲームは二日目の朝になることを伝えた。

 

GM 「二日目の朝になりました。みなさん、おはようございます。目を開けてくださってかまいませんよ」


 全員がゆっくりと顔を上げた。

 そして、冷酷なGMの宣言が伝わる。


GM 「昨晩の人狼の襲撃による犠牲者は―――皐月さんです」

皐月 「え、マジ? うち、なにもしていないよ!」

GM 「皐月さんは退場して下さい。その際に、一言だけ感想を漏らすことが認められています。それが終わったら、また二日目に追放される人を決めてください」


 人狼に殺されたというショックもあったが、皐月としては殺意もなしに殺されたことが納得いかない様子だった。

 敵の殺意を視て、殺気を掴んで投げる古武術刹彌流の使い手としては、そんな事故みたいな殺され方は納得できないのだろう。

 凄まじく不満そうに天井を眺めてから、


皐月 「ほんとに悔しい。うち、ほとんど発言もしていないのになあ。つーか、みんな昔はもっと単純だったのに狡猾になったなあ」


 口角を吊り上げた。


皐月 「―――それとも、?」


 意味深な捨て台詞を吐いて皐月は立ち去る。

 殺されたものがいつまでもこの場所にいてはいけないからだ。

 皐月がいなくなったあとで、残った五人はそれぞれ全員を見渡した。


音子 「今、サッキーだけが殺された。ということは、残りの人狼は一人ということでいいのかな」

てん 「そうなんですかー? えっとGMさーん、人狼が二人残っていて、それぞれが別の人を襲撃したらどうなるんですかー?」

GM 「ルール上、人狼が二人いる場合は両方の意思が合致しないといけません。ですから、どんな場合でも夜に襲撃されるのは一人です」

てん 「そうするとー、騎士が一人護ってもう一人が殺されたって可能性はないんだねー」

GM 「そうなります」

てん 「りょうかーい。……つまり、人狼が一人か二人かはまだわかんないんですねー。次のターンで人狼を一人でも追放しないと、下手したら市民側はそのまま負けだね。同数かそれ以下で負けなんですからー」


 すると、藍色が手を挙げた。


藍色 「じゃあ、仕方にゃいです。ここで告白するしかにゃいですね。わたしは占い師です」

或子 「なんだと!? まさか、自分から名乗るなんて!?」

京一 「そのリアクションはなんなの? 自分は人狼だって告白しておいて。……藍色さん、それはなの?」

藍色 「ここで嘘を言っても仕方にゃいです。市民側は下手したら、三日目を迎えずに敗北するかもしれませんから」

てん 「そうですねー」

或子 「……そうなのか、音子?」

音子 「アルっち、ルールはちゃんと把握しておいて」


 藍色からすれば、ここは確実に一人は人狼を始末しておきたいところだ。

 100%の確信があったとしても、さらに念を入れて占い師の能力で判別した結果を示す。


藍色 「京一さんは、でした」

てん 「マジですかー」


 本人を除く全員の視線が京一に集まる。

 京一の顔色はあまり変わらない。

 普段の私生活でならばともかく、このようなゲームに関わるときの升麻京一のポーカーフェイスは尋常なものではない。

 残りの四人の誰もその真意を見抜けそうになかった。

 

京一 「僕、もともと市民ですから」


 裏切者である以上、ガチであるとは認められない。

 この場合でもなんだかんだいって嘘はつかない京一であった。


音子 「でも、京いっちゃんが市民だというのはアイちゃんが本物の占い師の場合だけ。信用できない。あたしは京いっちゃんが人狼だと思う」

或子 「待て。ボクの京一のことを疑うとは何事だ!?」

てん 「せんぱーい、そういうのいいですよー。先輩が京一先輩のこと愛しちゃっているのは知ってますけど、今は人狼ゲーム中なので」

或子 「なななななななな、なにを言っている、てん!!」

音子 「あ、あたしも京いっちゃんを愛してる」

或子 「おい、音子!?」


 二人とも人狼の癖に、男を巡って殺し合いでも初めようなテンションになっていた。

 そこを止めたのは、退魔巫女の最後の同期である藍色だった。


藍色 「でもね、何でわたしたちがこんにゃ人狼ゲームにゃんかやっているか、みんなわかっているのかにゃ?」


 誰も意図の読めない発言だった。


藍色 「わたしたちは、もうすぐ始まる神物帰遷のときのために牙をとがにゃいとにゃらにゃんです。それが、どうしてこんにゃ遊びをしているのか」

てん 「えー、これってレクリエーションかなんかじゃないんですかー?」

或子 「……言われてみると、確かにちょっと変だね。ここはいつで、この場所はどこなんだ?」

音子 「みんな、承知だとばかり思っていた」

京一 「どういうこと? みんな、なにをいっているの?」

藍色 「いつも敏い京一さんが異常に全然気が付いていにゃい……。まず、それが変にゃんです」

京一 「ま、待ってよ!!」


 だが、京一の焦りを無視して藍色は喋る。


藍色 「そもそも、このゲーム自体、何かの裏があるんじゃにゃいですか?」

或子 「まあ、ボクが人狼を引き当てるぐらいだからね」

音子 「アルっちの戯言は置いておいて……」

てん 「そうですよねー」

京一 「……確かに。君は―――てんちゃんははずなのに、どうしてここにいるんだ?」


 京一は対面にいる、てんを見つめた。

 てんは不思議そうに笑う。


てん 「なんですか、それはー? てんちゃん、別にどこにも行っていませんよー」


 或子が愕然とした表情を浮かべる。


或子 「意味が分からないぞ。てん、キミは京一の言う通りに……」


 その言葉は冷徹にも遮られた。


GM 「二日目の話し合いは終わりです。みなさん、自分が人狼だと思う相手をそれぞれ指さしてください」




            ◇◆◇ 




 二日目の追放者は、御子内或子であった……





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