―第59試合 番外編? ミコミコ人狼ゲーム―

第464話「誰が狼なのか?」



第一回「ミコミコ人狼ゲーム」


【 登場人物早見表 】


 御子内或子  = 人狼

 神宮女音子  = 人狼

 明王殿レイ  = 騎士

 熊埜御堂てん = 市民

 猫耳藍色   = 占い師

 刹彌皐月   = 市民

 升麻京一   = 裏切者


 司会進行役  = GM



 ―――この人狼ゲームは、プレイヤーは市民と市民に化けた人狼となり、自分自身の役職を隠しつつ、他のプレイヤーと交渉して人狼が誰かを探るというゲームである。

 ゲームは半日ごとのターンで進行していき、昼にはすべてのプレイヤーの投票により決まった人狼と思われる容疑者を一名追放することで終了する。

 夜になると、もし人狼が残っていたのならば、人狼による市民の襲撃が行われて一人が殺されることになる。

 全ての人狼を追放することができれば市民チームの勝ち、生き残った人狼が市民と同数かそれ以下になれば人狼チームの勝ちとなる。

 基本的には、市民、人狼、占い師でプレイされるシンプルなゲームであるが、選択ルールとして存在したり、プレイヤーが自分たちで考案したりした、多種多様な役職を組み合わせてプレイされる場合も多い。

 いかに相手を説得するか、あるいは巧妙に騙し続けることができるかの駆け引きが重要な要素となっている。

 今回のゲームにおいては、人狼が誰かを一夜に一回だけ調べられる占い師と、自分以外の誰かを人狼から護ることができる騎士、そして、市民でありながら人狼の側に立ち、人狼チームの一員となる裏切者という特殊な役職がつくルールになっている。

 はたして、〈社務所〉に所属する巫女とその他一名の誰がこの騙し合いコンゲームの勝者となるのだろうか。





         ◇◆◇







GM  「さあ、みなさん、カードを引いて自分の役職を把握されましたか。……それでしたら、一人ずつ抱負を語ってください。カードを引いてからの反応などもゲームを進めるためには重要な要素となりますから、注意してくださいね」


 どこからか司会進行役の声がする。

 七人のプレイヤーはそれぞれ自分が引いたカードを見て、自分の役職を確認する。

 全員、ルールは説明されているので無駄な質問はほとんどない。

 最初にジャンケンをした順番で抱負を語り始める。


音子 「あたしは勝つつもり。ゲーム強いから」

レイ 「こういうの苦手なんだけどな。まあ、やるからには負けることはしねえ」

てん 「てんちゃん、頑張りますですよー」

藍色 「みんにゃ、脳筋だから私にゃら勝てると思います」

皐月 「人狼なら夜になったら処女を襲ってもいいの、ねえ、ねえ?」

京一 「皐月さん、セクハラはやめて。……頑張ります」

或子 「ふふん、ボクは誰の、どんな挑戦もうけるよ。最強だから!!」


 全員が抱負を述べてから、席に着く。

 円形のテーブルなので参加者全員の顔が良く見える。

 順番は、ジャンケンで決まった順番だったから、京一の横には或子がくることになる。


GM 「では、みなさん。一度目を閉じてください。それから、合図がありましたら、人狼のお二人だけそっと顔をあげてもう一人の人狼を確認してください。いいですね。では、顔を上げてください」


 その指示に従い、或子と音子の二人は視線を交す。

 音子が、「げっ、いくらなんでもこいつかよ!」というような期待外れという表情を浮かべたので、或子のこみかめの血管がピクピクと動いた。

 だが、ゲーム中であるということを思い出して辛うじて殴りかかるのを耐える。

 一方の音子はどこ吹く風なのだから、或子の腹が立って仕方がないのもわからなくはないだろう。


GM 「はい、確認できましたね。お二人とも目を閉じてください。では、ゲームを始めたいと思います」


 コケコッコー!!

 用意されていた朝を告げるめんどりの鳴き声が響き渡る。


GM 「それでは、皆さん。一日目の昼間です。目を開けてください。誰が人狼なのかを推理して、夜までに追放する相手を決めてください。制限時間は五分です。それではゲームスタート」


 あくまで進行役に徹しているGMの声に従って、全員はゲームを始めた。

 まず口火を切ったのは、御子内或子であった。


或子 「どんなゲームだろうとボクは嘘をつくのが嫌いだからね。ここは言わせてもらうよ! ボクが人狼さ!!」


 実は或子としては、これが起死回生の作戦であった。

 まず人狼であると宣言してひっかきまわし、一周回って正体がばれないようにしようという意図であった。

 もともと嘘がうまくない自分では人狼ゲームのような腹の探り合いでは勝てない。

 ならば、先制攻撃だ!という理屈である。

 ところが、周囲にいるのは長年の親友と後輩と相棒であった。


レイ (バレバレじゃねえか。いくらオレらが脳筋でもここまで酷いのはそうはいないな)

てん (あー、やっちゃった。さすがは、可愛い桃色筋肉が巫女装束を着て宇―歩いているようなグレート或子先輩です。そんなところに痺れる憧れるですよー)

藍色 (とりあえず一人確定かにゃ。すると、一日目の夜に占う相手が一人減るのか……)

京一 (御子内さん―――。ブワッ(涙の出る音を心の中で))

音子 (アルっち。やっぱりバカなんだ……)


 仲間たちの心の中でフルボッコにされているということに気づかず、或子は満足気だった。

 ただ、やはりここにも空気を読まないやつはいる。


皐月 「なんだ、或子ちゃんが人狼なのか。じゃあ、あとは一人だけだね。うーん、うちの見立てだとレイちゃんが怪しいかなあ」


 再び、全員が心の中で(げっ)と叫んだ。

 或子も含めて。

 まさか本当にかぶせてくる奴がいるとは……である。

 脳筋ぞろいの〈社務所〉の退魔巫女の中でも、ある意味では皐月ほどねじ曲がって三百六十度回転してしまったものはそうはいない。


皐月 「あとで夜になったら殺気でわかるか」

藍色 「皐月さん。それじゃ、人狼ゲームににゃらにゃいです」

皐月 「それだよ! 実際に殺し合いにならないゲームなんかじゃ、うちの刹彌流も宝の持ち腐れだしどうにもならないから勝ち目ないじゃん」

レイ 「遊びなんだからいいんじゃねえか。おめえ、よく考えたら訓練所で休みのときにウノとかしているときも殺気読んでイカサマしていたよな」

てん 「あー、そうですねー。やたらと強いから変だとみんなで疑っていたら実はってやつでしたねー」

京一 「そんなことしていたんだ……。でも、殺意の色が視える皐月さんなら、もっと人狼向きな気がしますね。御子内さんの自爆的な作戦で正体を見せてしまったんじゃないですか」


 裏切者という役職は、人狼を勝たせるためにわざと周囲の目を逸らさせたり、他の市民らしいものを陥れたりする。

 京一は、或子を護ることで人狼側を勝たせる方法を選ぶことにした。

 もう一人の人狼はまだわからないが、カミングアウトした或子は間違いないだろうと確信していた。

 

京一 (御子内さんだからなあ……)


 この場にいたものすべてが(皐月だけは意味合いが違うとしても)、或子が人狼であると確信していた。


レイ 「……京一くんは、或子と皐月が怪しいってのか?」

京一 「うん。でも、御子内さんの作戦という可能性もあるでしょ」

てん 「ないですよー。先輩のただの自爆じゃないんですかー」

音子 「辛辣な後輩がいる」

藍色 「てんさんって素で先輩をいびるところあるよね」

てん 「いえいえ、先輩方のことはマジでてんちゃんは尊敬してますからねー」

或子 「どうだか」


 どういう訳だがみんなが生温かい目で見るので途方に暮れていた或子も復帰した。


音子 「どうだろ。みんな、何の役職かカミングアウトしたみたらどお? 別に嘘でもいいけど、それがヒントになるんじゃない?」

皐月 「お、音にゃん、いいね」

藍色 「まあ、ゲームだし、そのぐらいはいいかしらね」

レイ 「よし、じゃあオレから行くか。―――オレは役職なしの市民だ。ガチ市民だ。だからちょっとつまらないんだぜ」


 自信満々で巨乳を張るレイ。

 或子よりはマシだが、誰の目にも虚言に思えた。


京一 (―――市民なのは確かだけど、実際は何かの役職持ちだね。ただの、にかけた力加減がレイさんらしくない。すると、僕が裏切り者だから、占い師か騎士のどちらか。人狼ゲームでは占い師を守ることが最優先となるから、だいたいの場合は目立たないように観察役に徹するのがセオリー。たまに声を出して誘導して自分が占い師でないとアピールしながらね。そうなると、レイさんはちょっと目立ちすぎだな―――騎士か)


 この脳筋だらけのミコミコ人狼ゲームにおいても、やはり京一だけは頭の回転が早い。

 ほぼ正確にレイの役職を見抜いていた。

 

京一 (そうなると、まず真っ先に始末しておいた方がいいのはレイさんだ。人狼のターンを無駄にしないようにするためには。占い師がわからない以上、市民側の最大戦力は消しておくのが吉だね)


 そこで京一はレイを追い落とす作戦に出た。


京一 「レイさんにしては思いきりましたね。らしくないって感じもする」

レイ 「何がだよ」

京一 「率先して自分は違うなんてレイさんが言うのは珍しいかな」

音子 「確かに……。ミョイちゃんっていつもはそんなに喋らないよね」

てん 「ワンダー明王殿センパイっぽくはないかも」

藍色 「うん」

或子 「そうだそうだ! レイもボクのようにきちんとカミングアウトしろ!」

レイ 「おまえが入ってくると面倒だから黙ってろよ!」 


 レイはなんだか旗色が悪くなったのを感じた。

 何故だ?

 ざっと言動を思い返してみると、京一の顔がでてきた。


レイ (やばい! 京一くんが人狼なのか!?)


 京一の頭脳の冴えを良く知っているレイとしては、敵に回すととことん厄介な相手であることを改めて思い起こすことになった。


レイ (しまった。だとすると、なんとしてでも京一くんが人狼だと主張しないと―――まずい!)


 だが、その時、


GM 「時間になりました。一日目に追放される人をみなさん指さしてください」


 冷徹なタイムアップの声が降りてきた。

 そして―――





GM 「今回、追放される人は明王殿レイさんに決まりました」

レイ 「マジかよ!!」





 ―――人狼ゲーム、残り六人。

 人狼はあと二人。

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