―第58試合 いつもohフレンズ―
第456話「ぼくの(困った)フレンズ」
ゴールデンウィークの初日。
僕は久しぶりに『コール オブ デューティ ブラックオプス3』を一人で心行くまでプレイした。
いつもはうるさい両親が旅行に行ってしまって、さらにうるさい涼花まで友達の家にお泊りでいないという素晴らしい環境の中、僕は朝からずっとコントローラーを握りしめて、目が充血するまでゲームをやったのである。
普段は何かバトルをいれてくる御子内さんも旅行でおらず、音子さんたち〈社務所〉の媛巫女たちも何も言ってこなかった。
おかげで三日間、僕は一人暮らしと同じぐらい、好き勝手やれるのだ。
朝から1.5リットルのコーラのペットボトルを用意して、好きなだけポテトチップスを食べながらゲームにのめりこむ。
ああ、なんて素晴らしきナイス・ホリディ。
実に十数時間ゲームばかりをやって頭が痛くなっても僕は愉しかった。
なんだかんだ言っても、いつも体験している妖魅相手の命のやり取りとは違う遊戯に溺れきってしまっていたのだろう。
夜の十時過ぎてさすがに疲れて、テレビのある居間で毛布にくるまって眠りについたときもそれはそれは気分がよくて死にそうだった。
ああ、やっぱりゲームは楽しいなあ。
敵のど頭をスナイピングするFPSサイコー!!と数年ぶりに夢のような微睡みに入った僕のスマホが空気を読まずに鳴った。
LINEの無料通話機能だ。
正直、無視して寝てしまいたい気分だったが、仕方なく耳に当てる。
なにか大事な話かもしれないからだ。
『あー、
ぶつ!!
僕は間髪入れずに叩き切った。
大好きな趣味を心行くまで堪能した最高の気分の中で聞きたい声ではなかったからだ。
何が楽しくて人語を解して
せめて声が古谷徹なら考えるが、
ぶつっと切った回線がまた叫びをあげるまでに僕は寝ようと試みた。
「……もう寝よ、寝よ」
そうしたら、一分と経たない間にまたもスマホが鳴りだした。
僕は仕方なくスマホをとって、耳に当てた。
『シュポオオオーーーーーーーー!!』
ぶつ!!
酔っ払いと大して変わらないタヌキどもの面倒など見るものか。
その汽車の汽笛の音みたいな声を一瞬だけでも聞いていたくなかったので即切りした。
分福茶釜の次は八ッ山のタヌキかよ。
正直、もうタヌキはいいや。
今スマホに出ていたのは後楽園ホールでレイさんに正面からぶっ飛ばされた〈偽汽車〉になる幻法を使う八ッ山のタヌキ以外のなにものでもなかった。
汽車に化けるからか、喋るときは基本的に汽笛のような奇声をあげるのですぐにわかる。
正直、耳元であんな音がしたら切られて当然だと思う。
だから、僕はまったく罪悪感も覚えなかった。
「うるさいなあ。もお、タヌキはドラえ○んだけで十分だよ……」
僕はエアコンを強くすると毛布を頭から被った。
とりあえずスマホは無視しよう。
こんなにも眠いのにタヌキの相手などしていたくもない。
「早く寝よ。明日はギアーズオブロー3のキャンペーンモードを再クリアーするぞ……」
大きく欠伸をしてから睡魔に身を任せる。
……しばらくすると、脚が一瞬冷える。
なんだか目が冴えかけた。
突然、身体が冷えると覚醒してしまうものなのだ。
しかももぞもぞと何かが僕の布団の中で動いていて、ばっと顔の部分の毛布が剝された。
『こらあ、無視なんかしちゃ駄目だゾ』
妖艶そのものの笑みを浮かべて、ウサギの耳のヘアバンドをつけた美女がこつんと額を小突いてきた。
小悪魔なお姉ちゃんみたいだった。
御子内さんや音子さんを上回る美貌の持ち主であるから、普通ならば見惚れてどうにもならなくなってしまいそうな究極の美女がそこにいた。
3Dアニメでさえ、ここまで完璧に美人は作れないかもしれない。
それが僕の毛布の中に入ってきたものの正体だった。
ただ、すでにこの段階で疑似的賢者モードに入っていた僕にとってはどうでもいい相手だった。
「―――なんで〈
すでに部屋の中に侵入されたことについてはどうでもよかった。
最近は妖魅の類いと付き合い慣れてしまったせいか、どんなことが起きてもあまり動じなくなっていたということもある。
妖怪が毛布の中に侵入してきたといっても、もうあきらめるしかない。
『―――あれれ、京ちゃんさあ。私みたいな超絶美形妖怪が夜這いしてんのにこの淡白な反応は何なんだゾ☆ 私は綺麗すぎて、タヌキなんかだと見ただけで勃起しちゃう、まさにセクシャル・オナペットなのにサ♡』
久しぶりに会う〈犰〉は、相変わらずダメな男依存の女の子みたいな、情緒不安定さだった。
都会の男にあれだけ痛い目にあわされて、さらに御子内さんのチキン・ウイング・フェイスロックで絞め落とされて以来、かなり大人しくなったというけれど、僕に対しての振る舞いはほとんど変わっていなさそうだ。
「……タヌキの次はウサギ? まったくいい加減にしてくれないかな。君らだけで遊んでいてよ」
『何よー、私たち友達じゃない☆ 歓迎してよお、京ちゃーん♡』
前よりもキャピキャピしていないか、このウサギ。
ただ、同じ毛布の中でこんなセックスアピールむんむんにしな垂れてかかられていると、いくらなんでも過ちを起こしそうなのでさすがに押し返した。
抵抗するかと思ったが、意外とすんなりとどいてくれた。
ある意味助かったと言えば助かったけれど。
「だいたい、何しに来たんだよ。君さ、妖狸族の天敵みたいな妖怪だろ? なんで、つるんでいるんだ」
『いやあ、或子ちゃんにやられて以来さあ、どうも妖怪としてはしっくりこなくなっちゃってネ☆ これまでとは違う生き方を模索していたら、タヌキなんかと遊ぶようになっちゃって』
「〈犰〉は散々タヌキたちをバカにしていたのに?」
『まあ、オタサーの姫みたいなもんだヨ♡』
妖怪もあまり人間に近くなると俗っぽくなるよね。
たまに邪悪なだけの妖魅の方が安心できなくもない気がするよ。
僕が床の上で上半身を起こすと、前と同じ黒いバニースーツ(燕尾服やタキシードにウサギの意匠を取り入れた格好だ)を着て、衣装の上から羽織る燕尾服のバニーコートまでまとっていた。
丸い尻尾の飾りを付けたレオタード、ウサギの耳をかたどったヘアバンド、蝶ネクタイ付きの付け襟、カフス、網タイツ、ハイヒールを履いていた。
ただ、この綺麗なすらりとした足がとんでもない凶器であり、蹴りを主体とした足技だけであの御子内さんを圧倒したぐらいの強力な妖怪なのである。
「―――分福茶釜と八ッ山のタヌキはどこにいるの?」
『外の車で待っているよ』
「車? なんで?」
『なんでって―――京ちゃんも一緒にドライブに行こうって話だからさ。なのに、LINEしても京ちゃんは話も聞いてくれないんだもん』
ドライブ?
もしかして、タヌキとウサギとかい。
カチカチ山じゃないけれど、なに、そのファンタジーな道中は。
「妖怪だけで行けばいいじゃないか。そもそも、ニンゲンと妖怪が仲良くドライブに行くってどうなのさ」
『いいんでしょー、行こうよー、八ッ山も行きたがっているしさあ』
「八ッ山が率先していきたがっているって珍しいね」
『どうしても抜け出せない対決があるんだってさ」
「対決? 八ッ山が何と?」
すると、ウサギの妖怪はにっこりと麗しい笑みを浮かべ、
『桔梗ヶ原の玄藩丞という化けキツネだヨ☆』
と、凄くめんどくさそうな動物系妖怪の話をしだすのであった。
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