第364話「布陣完成」
結局、僕らの〈ミコミコファイターズ〉予選リーグは一位で通過したが(二勝一分け)、次のトーナメント二回戦準決勝で敗退し、三位決定戦も負けて、四位で終わった。
とはいっても、僕たちに勝ったチームは初心者どころの騒ぎではなく、近所のプロチームのユースであったり、元フットサル選手がいたりしたので順当な成績といえるだろう。
初心者ばかりの女の子のチームを無理矢理ねじ込めたのが不思議なぐらいの大会だったのだから。
「いや、君ら凄いわ。ほとんど素人だろ?」
優勝チームのキャプテンに話しかけられた。
「は、はい。そうです」
「なんか場違いな子たちだなあ、とかバカにしてたけど、はっきり言って驚いたわ。別になでしこの下部組織って訳でもないんだろ。それで、あの動きは信じられない」
「スポーツよりも格闘技の方の子達なんで」
「道理で。フェイントがあんなに効かない相手は初めてだよ」
素直に称賛された。
他にも色々な人に話しかけられたが、だいたいは御子内さんたちを讃える声だった。
一人だけ、芸能事務所のスカウトみたいな人がいたけど、それは丁重にお断りした。
御子内さんたちにも直接声をかける人がいて、中にはナンパ目的もいたけれど、だいたいすげなく追い返されていたのはさすがの対応である。
でも、とりあえず目的にしていた六試合出場は叶ったし、経験値もわずかではあるが入ったことだろう。
「どうだった?」
みんなに聞くと、やはり手応えはあったようだ。
ほとんど昨日まで素人同然だったレイさんたちまで何かしらのものは得たという顔をしていた。
「じゃあ、これから深夜まで少し休んで、夜はあのグラウンドで試合だ。それに勝つことで、四人の幽霊を成仏させて、サッカー少年たちをこちらの世界に取り戻す。いいね」
「おう!!」
「やらいでか!!」
しかし、本当に十分ハーフの試合を六回もこなしたというのに、ほとんど疲れた顔をしていないというのはどうなんだろ。
この
なでしこでいったら川澄奈穂美か田中陽子ぐらいのスタミナなんじゃないだろうか……
しかも、彼女たちは試合までの間に、こぶしさんによって差し入れられた炭水化物と肉類をたらふく食べてもまだ元気いっぱいだったのである。
◇◆◇
深夜、豹頭風太君がいつものように家を抜け出す頃合いに、ようやく今日の試合のメンバーが勢ぞろいした。
できるなら、その前に連携の確認どころか、どのぐらいやれるのかの確認をしておきたかったのだが、さすがにスケジュールを合わせることができなかったのだ。
まったくの初対面の人もいる関係上、直前に少し練習をしておきたかったのだけれど、仕方ないか。
とにかく、十一人。
サブとして一名確保できただけでも御の字としておかないと。
ちなみに集まったメンバーは、以下の通りだ。
フォーメーションは最近では普通の4-3-3。
GK 猫耳藍色
SB(左) 柳生友埜
CB ロバート・グリフィン
CB 升麻京一
SB(右) 柳生冬弥
MF(アンカー) 熊埜御堂てん
MF(左) ヴァネッサ・レベッカ・スターリング
MF(右) 豹頭まき
FW(左) 神宮女音子
FW(ワントップ) 明王殿レイ
FW(右) 御子内或子
SuB MF 刹彌皐月
という布陣である。
同期であり、まきさんとも学校が同じということから、皐月さんとヴァネッサさんに声を掛けたら、なんとヴァネッサさんはアメリカでサッカーをやっていた経験があったのだ。
確かにアメリカの白人、特に女子の間では習い事としてサッカーが好まれると聞いたことがある。
日本でいう、水泳やピアノに近いものなのだ。
ちなみに、アメリカの
これは同じクラスの桜井のからの情報であり、僕の好みとは一切関係がないことを追記しておく。
少しプレーを見たら、ヴァネッサさんはかなりうまかった。
アメリカ女子代表のミーガン・ラピノーのようなプレーをする攻撃型のMFだった。
おかげで、だいぶこちらの構想もまとまり、中央の逆三角形のMFの最後尾に、素早くて堅いてんちゃんをアンカーとして配置し、両インサイドハーフとして全国三位のまきさんとヴァネッサさんを置くことができた。
インサイドハーフというのは、いわゆるトップ下が二人になり、守備もこなすポジションといえばわかりやすいだろうか。
有名どころではスペインのイニエスタとかがやっている。
どちらも経験とセンスが問われる要なので、ここに経験者を配置できたのは助かる。
しかも聞くところによると、二人とも適正ポジションらしいのでフィットしないということはないだろう。
誤算だったのは、皐月さんである。
なんと、彼女は球技がまるで駄目なのだそうだ。
加えて団体競技も。
ボールを蹴ることもほとんどやったことがないというのでサブに回すしかなかった。
だから、彼女の出番が来ないことを祈るしかない。
ちなみに守備の中心となる
ロバートさんはイングランドの出身というだけあって、さすがにサッカー(こっちではフットボールか)に詳しく、あとラグビーをしていてガタイもいいのでCBをお願いすることにした。
体格関係は彼に任せて、僕は他の仕事に当たれるというメリットもあるし。
予想以上に豪華になったのは、両
退魔巫女たちに匹敵する能力の持ち主がいないかと聞いたら、御子内さんが連れてきたのが関東の忍び組織〈裏柳生〉の総帥・柳生美厳さんの妹二人だった。
友埜さんと冬弥さんは、双子で同じ武蔵立川高校の生徒の上、御子内さんたちと同級生であることから、今回のことは簡単に引き受けてくれた。
ただ、まきさんにだけは忍びであることは内緒にするという約束の元で。
さすがに忍びは秘密組織だからね。
それでこの二人が激しい上下動を必要とするSBに相応しい人材だったのである。
体力は退魔巫女たち同等、しかも陰に徹することもできるから、無駄走りも黙々とこなす、まさにSBの鏡。
友埜さんに至っては、左足で正確なクロスを蹴ることができるので、左右から放り込み放題になるのである。
しかも、フィジカル的には御子内さんとガチでやりあえるレベルなのだ。
息の合った釣瓶の動きができるのも双子ならではというとこだろう。
「美厳姉さまの命令できましたけど、升麻さまにはいつもお世話になっていますので、不肖、この冬弥、お役に立てると思っています」
「たまには、こーいうのもいいねー。うわー」
「お願いします、友埜さん」
「ま・か・せ・て」
ポニーテールの友埜さんは普段はおきらくごくらくな、てんちゃんみたいに陽気な人なので、特に説明しなくても仲間になってくれたようだった。
とにかくこれで戦力としては十分になった。
女の子だらけであるが、男子チームとだってやりあえるメンツだしね。
相手の死霊チームは、四人の大学生と高校生・中学生の混合チームだ。
W杯で優勝したなでしこジャパンの強さの基準が、だいたい中学生のトップチームぐらいであると言われているが、それはフィジカル面でのことだ。
人間よりもはるかに巨大な妖魅さえも倒すことのできる退魔巫女たちが、大学生男子程度に力負けをするはずがない。
むしろ、普通ではない退魔巫女の方が有利だ。
技術的なものでは、まず負けるはずだ。
連携の部分でも。
そのあたりでは五分。
だから、この試合はかなり接戦になるものと思われる。
「……まあ、やるしかないか」
どうなるかわからない、死霊の率いるサッカーチームとの戦い。
今までの直接的な戦いとはうって変わって常識的な戦いが始まろうとしていた。
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