―第47試合 巫女たちのフィールド―
第360話「それいけ〈ミコミコファイターズ〉!!」
「いいかい、実際に一度は試合をやってみないと感覚が掴めない。サッカーとフットサルはまったくの別物だけれど、どういうものかを身体で体験してみるのはいいことだ。だから、思いっきりやることだよ、いいね」
五人はうんと頷いた。
正直、昨日やったパス、シュート、ドリブルの練習だけで試合―――しかも大会をやるのは無理がある。
だが、それは普通ならば、の話だ。
僕の目の前にいる五人は普通という表現からはまったく遠い存在だからだ。
身体能力と運動神経だけでもなんとかなるだろうと思える。
「君たちには昨日何時間もフットサルWCの決勝戦の録画を見せたよね。基本的にはあれを再現できればいい。ルールはわかっているね」
「了解だ、監督!」
「おおよ。基本は覚えた。応用もバッチリだ!」
「シィ、京いっちゃん!」
「わかりました!」
「やっちゃっていいんですよねー、ラクショーでーす」
とりあえず、揃えられた五人を中心にして、チームの軸をつくらなければならない。
仲のいいみんなだから、息はぴったりだと思うんだけど……
「……レイさんはピヴォをお願いします。
「わかったぜ、京一くん」
フットサルのユニフォームを着るとレイさんの胸の大きさが強調されるのでとても眼の毒である。
それでも普段の巫女姿に比べるととても清楚に感じた。
あれはヤンキーすぎる。
本人はやる気満々で指を鳴らしているのだが、フットサルでは手を使ってはいけないということはちゃんと理解していてくれているのか心配だ。
「御子内さんと音子さんは左右のアラになります。サイドに開いたり、中央に絞ったり、とにかくボールに触れて最後はシュートで終わってください。本番のときも、左右のサイドを頼みますからね」
「任せろ!」
「シィ……」
二人ともレイさんよりはサッカーを観たことがあるので、あまり詳しくは説明しなかったが、初心者であることは変わらない。
まあ、身体能力が洒落にならないのでなんとかなるだろう。
音子さんの覆面は大会主催者に認められなかったせいで、珍しく素顔を晒しているからか、なんというか周囲の男たちの視線の集まりが半端ない。
ただでさえ美人ぞろいなのに、SNS上でバカみたいに知られている彼女がいるとどんな混乱が起きるか見当もつかない。
御子内さんを初めとしてみんな髪を結っているのでうなじも綺麗で見惚れてしまう。
「僕とてんちゃんはダイアモンドの最後尾のフィクソをやる。ボール奪取と守備のポジションだよ。サッカーにおいてはボランチかアンカー、もしくは
「わっかりましたですよー。敵の骨をすべて叩き折ってみせますよー」
「それはファールどころか退場だから」
「骨を外すのはー?」
「やめて」
と、こんなことを言っているが、実はてんちゃんは中学の体育の授業でフットサルをやっているそうなのでまともに計算できる戦力となっている。
最近の中学校では、バスケやドッジボールの代わりにフットサルをやったりするらしい。
初心者なら技術もそんなにいらないから取り入れやすいのだろう。
サイコパスロリータと呼ばれている彼女だが、なんだかんだいって頭脳派で後方の指揮者役は任せられる。
「藍色さんはゴレイロ。サッカーでいうところのゴールキーパーです。キャッチはできなくてもとにかく外に弾きだしてください」
「わかったにゃ」
「あと、ゴレイロからのスローは昨日練習した通りです。藍色さんは肩もいいので期待していますから」
藍色さんは足が使えない、というより蹴りがうまくないのでフィールドプレイヤーには向いていないのからゴレイロしかできないのだ。
ボクサーとして特化しすぎている。
同じ手業中心といえばレイさんもそうなんだが、彼女の場合は〈神腕〉があるので、下手に手で処理させたらボールが破裂しかねない。
それだったら、本番に備えてポストプレイを覚えさせた方がいいと判断した訳だ。
実際、練習は少ししかやっていないが藍色さんの動きはかなりゴレイロ向きだった。
「ポジションはこれで行くから。随時変更していくけど、とりあえずこの陣形は崩さないように。予選リーグは三試合、トーナメントになっても三試合。優勝はしなくてもいいけど、できたら勝ち進んで全試合を戦って、フットサルというかサッカーを体験してみて。あと、ケガはしないように。本番のメンバーは十一人ぴったりしか用意できなかったんだから、怪我人をだしている余裕はないんだよ」
このフットサル大会はあくまで練習だ。
御子内さんたち退魔巫女の本当の仕事は、深夜に用意されている試合に勝つことなのである。
スタミナ的な問題はあるけれど、それに関しては問題ないメンツなので心配する必要はなかった。
技術は足りなくてもそれは身体能力で補える集まりだし。
ただ、何よりも経験が足りなすぎる。
それをなんとしてでも速成させなければならないのだ。
なんといっても、本番の相手はもともとサッカー大学代表レベルの選手たちなのだから。
「このコートの次の試合が僕たちの第一試合になるから、もう準備しておいて。最初から全開で行くよ」
フットサルは五人でやるスポーツだ。
ミニサッカーだと思われているが、つきつめるとかなり異なるものである。
とはいえ、僕ら素人ならサッカーと同じで考えていいだろう。
サッカーとの違いは、参加選手が十一人から五人に減り交代は自由。
スローインがなくキックインとなり、オフサイドがないということだろうか。
Fリーグなどでは五回ファールをすると相手側に直接フリーキックが与えられるとか、レッドカードを受けて退場した場合、ピッチ上の選手数が減ったチームは、退場の時から二分経過後か、相手チームよりも人数が少ない状態で失点した場合に初めて選手を一人補充できるなどの違いがあるけど、普通の草大会では採用されていない。
まあ、そのあたりは臨機応変に行くか。
なんといっても、てんちゃん以外はサッカーもやったことのない人たちだし。
(しかし、この状態でフルコートのサッカーを一試合やるというのははっきりいって無謀なんだよな……)
まったく無茶苦茶なミッションに挑むことになってしまったものだ。
しかも相手は男性のサッカー選手揃いというのだから……
「第二コート、第二試合始めまーす。チーム〈フェインテスタ〉とチーム〈ミコミコファイターズ〉は集合してくださーい!!」
審判と運営が僕らを呼んでいた。
〈ミコミコファイターズ〉というのがうちのチームの名前である。
わかり易すぎて草が生えそうである。
命名したのは我らの巫女レスラーだ。
相変わらずセンスがない。
「いくぞ、みんな! 初戦をしっかりととっていくぞ!」
「オオオオ!!」
「大きな大会は初戦への入り方が重用だからな!」
「イエエエエイ!!」
サッカー初心者ぞろいの癖に言うことだけは立派だ。
さっきは仲がいいからチームワークもあるだろうと思っていたけど、これならなんとかなるか。
「では、第一試合を開始します!!」
僕たちは並んで、相手チームと握手を交わした。
相手は大学生のチームっぽかった。
ユニフォームは統一されているし、ガタイのいいのもいる。
少なくとも見た目では勝てそうにない。
しかも目つきと顔つきからして、僕たちを甘く見ている。
多分、安パイのカモだと思っているのだろうね。
まあ、それはそうだろう。
全員で六人しかいないし、そのうち男子は僕だけ。
さらに言うと、女の子は全員稀に見る美少女揃いでしかも全員が高校生と中学生だ。
おかげでギャラリーの数がとんでもないことになっている。
他に試合のないチームや観客がほとんど集まっているのではないか。
色々と声が聞こえてくるが、僕の耳に入るのは「あの男、なんだよ」みたいなものなのでちょっと悲しい。
どうせ僕はただの凡人だよ。
放っておいてほしい。
「キックオフ!!」
僕たちはそれぞれのポジションにつく。
最初は僕がフィクソの位置に入って、とりあえずどういう風に試合を進めていくかをてんちゃんに見せることにした。
実は僕はこう見えても小学校のときは、ちょっとサッカーを齧っていたので少しはやれる自信がある。
日本代表の試合も、Jリーグもできる限り観るようにしているし。
しっかりと部活しているような人たちには勝てないけどね。
ピイ
ホイッスルが鳴ったと同時に、中央にいた音子さんとレイさんがボールに触れて、こちらに折り返してきた。
僕は右に開いていた御子内さんにワンタッチで渡す。
すると、彼女は一瞬だけゴールを確認すると、思い切り鞭のように身体をしならせてロングシュートを放った。
センターラインの向こう側からのキックオフシュートだった。
普通の五号球よりも小さくて重いフットサル用のボールがゴムまりのように歪み、しかも恐ろしいことに無回転のままゴールに飛んでいく。
昨日の練習の時から、御子内さんの放つキックはほとんど回転がかからないので、すでに仕様としかいいようがない。
相手チーム〈フェインテスタ〉のゴレイロは、女の子だらけのチームからいきなりロングシュートが来るとは思っていなかったことと、無回転特有のブレ球のせいで目測を誤り、手をかすかに動かしただけで抜かれてしまう。
「ゲット!!」
てんちゃんが叫ぶ。
御子内さんのシュートはゴレイロの脇を抜けて、ネットに突き刺さった。
ピピピィィィィィ
先制点は僕たち〈ミコミコファイターズ〉が奪ったのであった。
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