ー第28試合 妖魅犯罪先進国ー
第202話「同期、帰る」
とある秋の日、一仕事終えてから、僕と御子内さんはモスバーガーで腹ごしらえをしていた。
巫女なのにお肉が大好きな彼女は、肉の味がしないといってあまりマクドナルドにはいかない。
たまに行った場合はフィレオフィッシュなどを選んでいた。
僕には合わないのだが、バーガーキングの直火焼きハンバーガーが一番好きらしく、その次ぐらいにモスバーガーがやってくるそうだ。
おそらく肉汁の量で好みが決まっている気がする。
「―――モスの国産牛推しもどうかと思うんだよ」
「国産の方が安全性高いよね」
「でもね、アメリカ牛のあの脂のノリがボクは好きなんだ。あと、堅いところもいいと思う。ステーキだって噛み応えがあっていいだろ?」
そりゃあ、君は野獣のごとき丈夫な歯を持ってらっしゃるから、あんな草履のようなステーキ肉でも食えるんでしょうが。
一般の日本人は国産牛の方が好きだし、和牛ならもっと好きだろう。
「アメリカのものはたいてい雑な気がするから、そういう点でも僕は好きになれないな」
「まあね。あそこは歴史がないから妖怪もあまり住んでいないし、元々いたはずの精霊もネイティブアメリカンとともに消えちゃったって話だ。それでも、ボクらの〈社務所〉とは提携していたりするんだよ」
「アメリカと?」
「正確にはFBIかな」
FBIって連邦捜査局か。
ドラマや映画でお馴染だけど、〈社務所〉と提携ってのはよくわかんないな。
「欧米でも怪奇事件は起きたりするのさ。ほら、Xファイルとかあったじゃないか」
「ああ、あったね。スカリーとモルダーだ。なるほど、言われてみればアメリカ発の事件って多いかもしれないね」
「あっちは妖魅なんかより人間の殺人鬼とかが多いから、必ずしも怪奇事件が妖魅絡みとはいかないらしいけど。とりあえず、色々な事情があってうちからも外が派遣されたりしているのさ」
なんというか、世の中は色々あるということがよくわかる。
でも、FBIか……
映画好きだから結構憧れなんだよね。
そんな話をしていたら、御子内さんのスマホに着信があった。
「もしもし、ボクだ」
なんて男前な電話の受け方なんだろう。
「―――なんだって?
少し喋っただけで、御子内さんが珍しく眉をしかめた。
彼女にしてはあまりないことだが、心底嫌そうな感じだ。
どんな妖怪とでも平然とやりあえる彼女が、ここまでマイナスな感情を顕わにするなんて……
「うん、うん、でもさ、そんなのは―――成田は千葉なんだからレイに行かせなよ」
あ、レイさんにぶん投げた。
そんなに嫌な内容なのか。
「わかったよ。行くよ。行けばいいんだね。……こぶしも地獄に落ちればいいのに」
上司のこぶしさんに何てことを言っているんでしょ、この
「はいはい、指示はメールで出すのね。了解」
通話を終えると、御子内さんはどっと疲れた顔をしていた。
さっきまで元気にむしゃむしゃ食べていたハンバーガーも喉を通らないようになっている様子だった。
「……何の連絡だったの?」
「同期が日本に帰ってくるから出迎えに行けだってさ。あいつに護衛なんていらないのに」
「……帰ってくるって、外国に行っていたってこと?」
「うん。丁度、さっき話していたFBIに招かれてアメリカに行っていたのさ」
「へえ」
招かれていくって凄くない?
アメリカの大地に立つ日本の巫女さんというのはなかなか絵になるかもしれない。
ただ、この御子内さんの拒絶反応はいったいなんなのだろう。
「……同期なんだよね、その―――刹彌さんは」
かろうじて僕にわかるのは刹彌皐月という名前だけだ。
どうしてそこまで嫌がられているかはわからないけど。
「まあね」
「悪人だったりするのかな。御子内さんが嫌がるってことは」
「いや、うちの巫女に相応しい高潔な魂の持ち主ではあるよ。技術も素晴らしいものがあって、特定の状況下ではボクやレイにも完勝できるかもしれないかも」
「御子内さんやレイさんより……」
少なくとも僕の知っている限り、この二人より強いというのはかなりのものだ。
だから、その刹彌さんは退魔巫女としてはトップクラスの実力者のはずだ。
どんな巫女レスラーなのだろうか。
立派な心根の持ち主でもあるというのに、ここまで御子内さんに嫌われている理由は不明だけど。
「皐月の使う技は……なんというか、ボクたちでさえよく理屈のわからない術……いや、たぶん技なんだろうけど……でね。そのあたりを科学的調査も兼ねて、アメリカまで教授にいっていたんだ」
「確か、聞きたくないけど聞いた話ではCSIみたいなところで実際の捜査にも携わっていたとか……」
御子内さんの同期ということは僕と同い年のはずだ。
それなのにアメリカで犯罪捜査をしているというのか。
知れば知るほどすごい人みたいなんだけど。
「ホントに強そうだね」
「あいつの実家に伝わるというあの技さえ封じられれば、並の退魔巫女なんだと思う。けど、真面目にやりあうとしたら、攻略するには誰だって苦戦するだろうさ」
強さについては、御子内さんからも相当のリスペクトを感じる。
「でもね、あいつは品がないんだ!」
伏せていた顔をガッと上げて、御子内さんが叫ぶ。
頬がわずかに紅くなっている。
もしかして羞恥か何かなのだろうか。
「……あの恥知らずな女とまた一緒に仕事しなければならないとは!!」
頭を掻きながら苦悩する御子内さん。
そんなに嫌なのか。
あんまりやるとハゲるよ。
「しかも、護衛ってなんだよ。あいつを奇襲できるやつなんて世の中にはそんなにいないだろうに」
「奇襲できない? 御子内さんたちだって、それは同じでしょ。超能力みたいな勘があるんだから。美厳さんだってあの狙撃を躱しきれるスーパーレディだし、奇襲なんて絶対に無理でしょ」
「いや、そうでもないんだよ。結局、ボクでも準備とか想定をしていないと不意打ちには勝てない。でも、皐月だけは違う。あいつを殺そうとか傷つけようとか考えているやつは近づけないんだ」
よくわからない話だった。
不意打ちや奇襲が通用しないということはわかるが、その理由がさっぱりだ。
どういうことなのだろう。
「まあ、顔を突き合わせてみればわかるよ。刹彌皐月がどういう退魔巫女かということは」
「え、僕も行くの?」
「ボクに皐月と二人っきりになれと言うのかい」
「―――同期なんだからつもる話でもすればいいと思う」
「嫌だ。キミも付き合え。ボクだけが苦労するのは割りが合わない。一緒に地獄の責め苦を分かち合おう」
「ちょっと!!」
―――まあ、抵抗しても無理だろうことはわかっていたけど。
こうして、僕と御子内さんは、退魔巫女・刹彌皐月と彼女に纏わりつく殺人鬼と関わり合うことになるのである。
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