第7話「撤収っ!」



「いやあ、いい勝負だったねえ。最後の大技も見事に決まったし、ボクの魅力のすべてが凝縮したような試合だった」


 いや、貴女がやっていたのは試合じゃなくて、妖怪退治なんですけど。


「以前、戦った妖怪は肩がなかったからフォールに持って行くまでが大変だったけど、背が高い程度なら、まあボクの敵じゃなかったみたいだし」

「今、フォールって言いましたよね」

「うん、そうだよ。妖怪の弱点は肩に詰まっているからね。そこを結界に押し付けることで消滅させることができるんだよ」

「それがフォール?」

「ギョーカイ用語だね。よそで使ってもわかってもらえないから注意だよ」


 そのギョーカイ、間違いなく違うでしょ。


 僕たちはとりあえずリングの撤収を、このあとにくるらしい御子内さんの仲間という人たちに任せて、家に戻ることにした。

 涼花は妖怪の消滅に安心したらしくほとんど脱力状態が続いているので、僕がずっとおぶっている。

 死闘を終えた後とは思えないほどのんびりとした帰路だった。


「もう大丈夫なんでしょうか?」

「まあね。ボクの手にかかればこんなもんだよ」

「よかった」


 それから僕は忘れていたことについて尋ねた。


「報酬はどうすればいいんですか?」

「あ、報酬? 報酬はあとでいいよ」


 あまり興味がなさそうに彼女は答えた。


「そうもいきませんよ。妹が助かったのは、御子内さんのおかげです。お礼をしなきゃならない」

「……うーん、ボクたちは別に金儲けとかで戦っているワケじゃないからね。こっちにはこっちの事情があるとしても、君たちには関係ないし……」

「でも、あとでいいと言ったじゃないですか」

「それは、予定している君からもらう報酬が後払いでしかできないというからなんだ」

「どういう意味ですか?」


 あっけらかんと笑って、


「今度何かあったときに、君にはボクの手助けをしてもらうことになるってことさ。強いといっても、ボクは所詮巫女だしね。今日みたいな舞台を設置するときには、役に立つ男手が必要なんだ。その手助けを京一に頼みたい、ということだよ」


 なんだ、肉体労働で返せ、ということか。

 それならすぐにでも可能だ。

 妹の恩人のために一肌脱ぐなんて当たり前のことだし。


「そんなことならいつでもどうぞ。僕は御子内さんのためならなんでもしますよ」

「よかったあ。ボクら巫女って、地方巡業で一年間に何十戦もするからさあ。その度に新しく結界台を作るのって大変なんだよね。それをやってくれる人材が確保できたっていえばみんな喜ぶぞ!」

「はいぃ?」


 何か、聞き捨てならない発言を聞いたような……。


「ボクの決まっている試合だけで、年末までに十戦はあるし、今回みたいな突発みたいな対戦も組まれたりするから、専属の設営アシスタントが欲しかったんだよ。ああ、助かったあ。京一なら、手際もいいし、働き者だし、きっといい設営アシスタントになってくれるね」


 いい笑顔でサムズアップする御子内さん。

 僕は何かを言い返そうとしたが、その綺麗な顔に見蕩れてしまい、ついタイミングを逃してしまった。

 そして、あとで思い返すたびに、つくづくそれは致命的な大失敗だったと思う。


 なぜかというと―――




 それ以来、御子内さんの延々と続く妖怪退治に、僕は死ぬまで付き合わされることになってしまったからである……

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