第46話魔導王の正体

境界国の入国許可が下りた頃、化石の解析作業を終えたクーロン博士が真剣な表情でオレ達の滞在する宿にやって来た。


「化石の正体が分かりましたよ……正確にはこの巻貝のようなものは入れ物だったようだ」


クーロン博士はオレとカラス大尉が止まる宿屋の部屋のソファに腰掛け手袋を嵌めて黒い重厚な鍵付きのケースから化石を取り出した。


布を敷いて丁寧にテーブルに置く。


最初はインテリアほどしか価値がないと言っていたのに随分扱いが良くなったものだ。


「入れ物……ですか?」

化石を発掘した本人であるカラス大尉は意外そうな顔をしている。


「とても強い魔力を秘めているから解析してもらった方がいいと知人にアドバイスされていたのだが、これ自体は何かの入れ物だったということか……だとすると魔力の発生源は……」


「そう。大切なのは中身なんだよ」


カタツムリのようなカタチの巻貝は何かの入れ物だったようだ。

アンモナイトというわけでもなさそうだったし、生き物の化石ではなく元々何か入れ物として使われていたいわゆる加工品なら納得がいく。


クーロン博士がひと目見て『パチもん』と言っていたのも人工物だったからなんだろう。


しかし、魔力の発生源とされる中身は一体何なのかクーロン博士は語ろうとしない。


「キュー……」


博士のことを避けていたはずのミニドラゴンルルがこの入れ物に関心があるようで覗き込んできた。

ルルはミニドラゴンを研究したがっているクーロン博士の姿を見ると震えて逃げていたのに。

珍しいな……。


ルルはつぶらな瞳を巻貝型の入れ物にじっと向けている。

真剣なルルを見るのは初めてだ。


「どうしたんだ? ルル……」


「キュー……マスター千夜。ボクその入れ物なんだか見覚えがあるような気がするでキュ」


見覚え……。

化石に見覚えがあるってルルは一体何年くらい生きているんだ?

リー店長はまだルルは幼いミニドラゴンであまり世の中のことをよく知らないと言っていた。


だが、ルルは何かを思い出そうとしているようでキューキュー鳴いて羽を広げたり閉じたりしている。

落ち着きがない。

大丈夫だろうか?


「本来は私なんかが触ってもいい品じゃないのかもしれないが、これも運命だ……」


クーロン博士はミニドラゴンのルルをチラリと見てから巻貝型の入れ物を開けた。


中には金と銀で作られたリング状の金属、中央には大きな青い石が埋め込まれている。


青い石は今まで一度も見たことのないような美しい石で見つめていると吸い込まれてしまいそうだ。


これは何だろう?


指輪にしては大きすぎる。

腕輪にしてはデザインが少し異なるような……。


入れ物の中にはアクセサリーの他に小さな石板が収められていた。


古代文字でこう書かれている。


『かの魔導王ルフの身につけていた聖なる首飾り』


首飾り……?

この小ささで?


「あの、オレ魔導王って人間か精霊だとばかり思い込んでいたんですけど」


こんな小さいアクセサリーを首飾りにするのはどう考えても人間サイズの生物じゃないだろう。


「カラスさんは魔導王についてご存知ないんですか?」


オレが質問すると


「残念ながら魔導王の記録は境界国や精霊国にもほとんど残されていないんだ……高い知能と魔力を秘めていたとだけ伝えられている」


カラス大尉の言葉を聞いてクーロン博士が口を開いた。


「……私の見解が正しければ魔導王は人間ではない別の生物だと考えられる。人間よりも精霊よりも知能と魔力に優れた生物と言えばこの世でただ一つ……」


クーロン博士はミニドラゴンルルを見つめて言った。


「断言してもいい。魔導王の正体はドラゴンだよ」


ドラゴン……この場にいた全員が思わずすぐ身近にいるミニドラゴンのルルを見た。


しかし、この入れ物に見覚えがあると言っていたミニドラゴンのルルは結局このアクセサリーが何なのかわからなかったようで、キョトンとした表情で

「キュー!」

とひと声いつもの可愛らしい声で鳴くだけなのだった。

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