第47話ドラゴンの記憶

「魔導王の正体はドラゴン……」


オレ、カラス大尉、精霊セラ、シャルロット、ランディ……そして魔導王はドラゴンだと主張するクーロン博士。


皆の視線がミニドラゴンルルに集まる。

ルルはキョトンとした表情で

「キュー!」

といつも通り鳴いた。


ルルは小さくてオレの肩にいつも乗ってキューキュー鳴いているだけのいわばペットのような存在だった。


以前、精霊王ガイアスの使いに検査を受けた時も猫並みの攻撃力しかないと言われていたし、青い聖なる炎を吐けるものの本当に小さな炎で魔導王の伝えられている魔力にはとうてい及ばないだろう。


だからこの可愛いルルが魔導王と同じ種族だと言われても混乱する。


せめておとぎ話によく登場する巨大なドラゴンなら納得がいくのだが……。


けれど魔導王が身につけていたとされる首飾りは見ればみるほどルルの小さな身体にぴったりである。

ルルがこの首飾りをつけたらさぞ似合うだろうな……オレはそんなことを考えていた。


するとカラス博士がカバンからファイルを取り出した。


「このファイルは私が個人的にドラゴンの伝承についてまとめたものだ……この中に魔導王がドラゴンだというヒントがたくさん書かれている」


あるドラゴンの書物には

『ドラゴンは完全無欠と呼ばれ、誰も逆らえず、神のように崇められすべての生物の中で最も強い生き物である』

と記されている。


そして魔導王に関する書には

『魔導王はすべての生物の中で最も強いとされる生き物がその玉座に座っていた。彼には誰も逆らえず、神のように崇められていた』

とされていて魔導王の記述とドラゴンの記述は酷似している。


「それは普通のサイズのドラゴンのことを表しているのだろう……ミニドラゴンにはとてもじゃないがそんなチカラ……」


そう言いかけてカラス大尉は言葉を止めた。


「巨大すぎるチカラに人間や精霊との共存の困難さを感じたドラゴンの王はそのチカラを封印し、姿を変えやがて巨大なドラゴンを地上で見かけることはなくなった……という言い伝えがある」


カラス大尉が子供の頃聞いた精霊国のおとぎ話だそうだ。


「てっきりドラゴン達は人型の精霊に身を変えたと思われていたが……」


精霊国や境界国では巨大なドラゴンは人間に変身することが可能であると考えられていたらしく、仮に姿を変えたとしてもまさかチカラの弱いミニドラゴンになるとは思わなかったそうだ。


クーロン博士はルルを見つめて語る。


「今まで化石の中で封じ込められていた魔導王の首飾り、外の世界に解放された時に再びドラゴン族の末裔の元に辿り着くとは……こういうのも運命なんだと思うよ。千夜君、この首飾りルル君につけてみてはどうだろう?」


いいですかな? カラスさん。

とクーロン博士は化石の発掘主であるカラス大尉に許可を取る。

ああ、とひと言カラス大尉は返事しただけだった。


「千夜君……これをルル君に……」


クーロン博士が巻貝型の入れ物をオレに手渡す。

巻貝型の入れ物の中にはミニドラゴンによく似合う美しい首飾りが収められている。


「ルル、首飾りをつけるよ。来てごらん」


しばらく浮遊していたルルは羽をひらりとさせオレの目の前に降り立った。


青い石の首飾りを手に取りルルの細い首にかけてやる。


カチッ!


首飾りの留め具が勝手に閉じた。

まるでルルの首に飾られることを待っていたかのようだ。


「キュー……」


ルルにかけられた首飾りの青い石が光を放ち始めオレはその光に吸い込まれていった。



気がつくとそこはどこかの洞窟の中のようだった。

ジメジメした洞窟特有の空気だが特別不快というわけではなく、灯りもないのに視界が開けているのは不思議な輝きを放つ光苔のおかげだった。


(さっきまでシルクロードの宿屋にいたのに……ルルは? みんなは?)


オレが洞窟の奥に進んでいくと巨大な空間が見えた……。


「一夜(いちや)……一夜(いちや)なのか?」


一夜(いちや)とは、もしかしたら人の名前だろうか?

オレの名前は千夜(せんや)なので似た名前ではあるが別の人を呼んでいるのだろう。


声のする方に足を進めるとそこにはおとぎ話に出てくるような巨大なドラゴンが横たわっていた。


巨大なドラゴンはミニドラゴンルルと同じ赤い鱗に青い美しい瞳をしていて首にはさっきの首飾りを巨大なドラゴンにあつらえたようなものを身につけていた。

だがドラゴンは怪我をしているようでグッタリと身体を横にするしかないようだった。


「遅かったな、一夜(いちや)。もうすぐ魔導王の試練が終わる……この身体が治ったらオマエを背中に乗せて世界を旅しよう」


ドラゴンはオレに向かって優しく語りかけた。

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