第29話体術の部屋


洞窟での魔導訓練は後半を迎えた。

アニス師匠いわく、オレは魔法力はそこそこ上がったものの体術がさっぱりでこの先不安だという。


「いいか、千夜。これまでも魔法の境界ランプの持ち主達は魔法力を高めて懸命にランプから与えられる試練をこなしていった……。けれど、大半のランプの持ち主は不幸な最後を迎えた。何故だか分かるか?」


「ランプを手放そうとした瞬間、精霊に攻撃されて……とみんなで話し合って結論付けたんですけど……」


違うのか?

するとアニス師匠はうーんと考えてから……


「まあ、半分は当たっているけど。ランプを手放そうとした時に死ぬ者が多いのはランプとの契約が切れたにも関わらずにランプを所持していた所為だよ。自分のマスターでないものに一定時間以上持ち続けられると拒否反応を起こすのさ。手放すときは次の後継者を選んでから直接手渡すか、自分の子供が出来た時に自然と権利が子供に移るかのどちらかかな?」


そういえば魔導師貴族のシャルロットの飼っている魔法猫はオレにシャルロットとの間に子供を作ってランプの権利を渡すようにとせまってきたよな。

血縁にはリスクなしで継承できるのか。


アニス師匠が話しを続ける。


「今までのランプの持ち主達は境界ランプを手放そうとしないのに命を落とす者も多いんだ。たとえば、魔法を封じられて……とかな」


魔法を封じられる?


「魔法を封じられてもランプの精霊に助けて貰えばいいんじゃないんですか?」


ランプと契約状態なら可能なはずだ。


「魔法を封じられるとランプも使えなくなるんだよ。だから、魔力を封じられたらおしまいなんていう貧弱な魔導師じゃ、この先務まらないのさ」


貧弱な魔導師……。

魔導師は体力の弱いイメージだし、オレは最近まで魔導師ですらなかったけど、なんだか胸が痛むな。


「そんなわけで、今日から1週間は魔力禁止の体術のみの訓練だ! 洞窟をさらに奥に進むと赤色の扉があるからその部屋で鍛えてこいよ。鍛え抜かれた体格がウリのスペシャルな講師がお前を鍛えてくれるからな!」


アニスに急かされてオレはリビングルームを進んでさらに奥にある通路を通らされ赤い扉の前にきた。


鍛え抜かれた体格のスペシャルな講師……オレの頭の中には、よくおとぎ話に登場するようなムキムキマッチョなたくましい精霊がイメージとして浮かんだ。


「キュー! マスター千夜早く中に入りましょうキュ」


ミニドラゴンのルルに促されて思い切って扉を開けるとそこは青い空、白い雲、爽やかな風が吹き、草が茂る広い庭だった。庭の奥には中国風の小さな住居がある。


洞窟内の中にこんな空間があったなんて……。


すると後ろから何者かがオレの背中を思いっきり蹴り上げてきた。


「ぐはっ!」


オレは地面にゴロゴロと転げ落ちた。


「なってないなぁ……千夜君だっけ? これ実戦だったらキミ消されてるよ」


オレを蹴り上げたと思われる人物がオレの背後に立ちそんなことを言った。


「まずは受け身の取り方、それから気配の察し方……そのあと武術的な訓練だね。1週間という期限だけどもう少し時間が欲しいから延長申請しないと」


一応、手を差し伸べてオレを立ち上がらせてくれた。


スレンダーだが胸も大きめでバランスのとれた美しいスタイル。チャイナドレスのスリットから美脚をのぞかせ、長い黒髪をサイドアップして結んでいる。

顔は……いわゆる絶世の美女と謳われた楊貴妃ってこんな感じなのかな? と思わせるような大人の美女だ。


だが誰かに似ている……。

まるでどこかの誰かさんを女性にしたかのような……。


「弟がキミにランプを押し付けて迷惑かけてるみたいだから、私が責任もってキミを指導することになったよ」


弟がオレにランプを……ということはこの美女の正体は……?


「私の名はメイラン。双子の弟リーと従姉妹セラがお世話になっているね。依頼通りキッチリ鍛えてあげるから」


クールな笑顔で言い放つメイラン先生。


そしてオレはメイラン先生に本当にキッチリ体術訓練をしてもらった。基礎体力訓練に洞察力の身に着け方、受け身、素手での攻撃方法。


腕立て、腹筋、走り込みなどの基本的なものから座禅による精神力向上訓練、組手による体術の基本、空手系の瓦割りに合気道系の投げ技……東洋系の武術を組み合わせたような訓練内容だ。


最終日はアニス師匠も様子を見にきてくれた。


「もうだいぶ基本はいいだろう。実はもうすぐ現実世界での時間が迫ってきているようでね。一旦ここで訓練を終了して境界ランプの第2テストを受けてもらいたい。これが次のテストの内容だそうだ。まだ千夜は未熟だけど生き残れば次の試験を受けられるようにできているみたいだから無理するなよ」


そう言ってメイラン先生から手渡されたテストの内容は1回目のテスト内容とはあまりにも異なるものだった。


【チームに分かれて敵チームのランプを奪え。奪われた者は脱落】


「どうやら、今後はランプの持ち主達の中で脱落者を出すような仕組みになるみたいだな……。今夜はゆっくり休んで明日に備えろよ」


脱落者が出る……どうやら今までのようにランプの持ち主同士で仲良く交流を深める雰囲気ではなくなるようだ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る