第28話心を射抜く弓矢
「俺の大切な恋人を打たないでくれ」
悪魔ゴエティアに向けて放った矢を受け止めたのは、黒い棺の封印に失敗して倒されていたはずの魔人だった。
魔人はこの矢が生命を奪うものだと勘違いしたのだろうが、この弓矢に殺傷能力は無い。
この弓矢はタロットカード『恋人のカード』から召喚した魔導装備だ。
『恋人のカード』には一組の男女の姿が描かれていて天使が2人を結びつけるために矢を放とうとしている。この弓矢には心を射抜くチカラが備わっているだけで殺傷するようなことはできないのだろう。
だが、弓矢の魔力のおかげなのか、オレの頭の中には悪魔ゴエティアにとりつかれる前の美女が魔人と化した若者とかつて恋人であったという情報が映像として浮かんできた。
魔人はゴエティアの身を案じ、痛く無いか、苦しくないかと気遣っている。
悪魔ゴエティアは笑って言った。
「ふふ、どう? この魔人。悪魔ゴエティアに取り憑かれた恋人の身体を守るために自分自身の魂を魔人と交換してボディーガードをしているのよ。哀れね! いつか悪魔から解放されて愛しの恋人の魂が目覚めるまで待ち続けているの」
私としては良いボディーガードができて好都合だけど……と悪魔ゴエティアは嘲笑うように魔人を見た。
魔人はいつか恋人の魂が悪魔から解放されると信じているのかずっとゴエティアに取り憑かれた恋人の身体を守ろうとしている。
「キュ〜! マスター千夜に乱暴するなキュ〜」
ミニドラゴンのルルが悪魔ゴエティアをつついているが効果はないようだ。
するとアニス師匠がオレに耳打ちした。
「心を射抜く弓矢が召喚されたということは、まだ悪魔ゴエティアに取り憑かれた人間の魂は身体の中の奥深くに眠っているのかもしれない。アタシが魔人の注意を逸らすからその隙にゴエティアに弓矢を打って魔人の恋人の魂を呼び覚ますんだ」
アニス師匠と目配せをして同時に攻撃を放つ。
「いけ! 炎の化身イフリート! その身をもって立ちふさがる魔人と対峙せよ!」
グワアアアアアアア!
ゴオオオオオオオオ!
アニス師匠が強力な炎の化身を召喚した。流石に魔人も手をこまねいている。
「ふん! ちょこざいな!」
悪魔ゴエティアはミニドラゴンルルの攻撃を振り払うがルルのちょこまかした動きに注意力散漫になっているようだ。
今だ!
「その魔力により乙女の肉体に眠る聖なる心を呼び醒ませ! 放て! 聖なる矢!」
ドン!
聖なる魔力を秘めた矢は今度こそ悪魔ゴエティアに命中し、身体の奥深くに眠る乙女の魂に届いたようだ。
悪魔ゴエティアは悲鳴をあげて乙女の身体から這い出てきた。
黒い瘴気の塊でコウモリのような羽根を生やし、目はギラギラと赤く光っている。これが悪魔ゴエティアの本当の姿なのか?
すると『恋人のカード』の心を射抜く弓矢が消えてしまった。
もう役割は終わったのだろう。
オレは自分の水系のエレメントの中で最も浄化能力の高い清めの呪文を唱えた。
この魔法は悪魔祓いの聖水と同等の効果があり弱っている悪魔なら消滅させることができるという。
「その聖なるチカラで悪魔を滅せよ!」
オレは持てる魔力を絞り出し悪魔ゴエティアに聖なる水流を放った。
ギャアアアアアア!
悪魔ゴエティアは悲鳴をあげながら消滅した。
「勝った……のか?」
「よくやったな千夜!」
アニス師匠から褒められる。
「うう……ここは? あなたは……アーサー? アーサーなの? 私……悪魔ゴエティアに取り憑かれて……それから……」
どうやらゴエティアに取り憑かれていた乙女の魂が戻ったようだ。
アーサーと呼ばれた魔人は涙を流しながら恋人の手を握りしめている。
「アーサー……ごめんね。私のためにあなたを魔人にしてしまって……」
「いいんだよ。これからはずっと一緒だ。ずっと……」
しかし、悪魔ゴエティアに取り憑かれて魂の限界が来ていたのか、それとも寿命なのか乙女は「ごめんねアーサー、もう眠いの休ませて……」と呟いてそのまま2度と目を覚ますことはなかった。
魔人アーサーは悲しみにくれていたが「彼女を最後に悪魔から解放してくれてありがとう」と言って恋人の魂を天に送り届けた後、魔人たちのいる世界に帰って行った。
「アーサーはこれからずっと魔人として生きていくのかな?」
「だろうな……これも運命なのかもな。……千夜、よく頑張った。けど、まだまだ体術がなってないぞ! 明日からは体術の先生を招いて訓練を再開するからそのつもりで!」
「ええっ! まだ訓練つづけるんですか?」
「当たり前だ! ソロモン王を越える魔導王を目指すんだぞ!」
ソロモン王を越える魔導王……。
果てしない目標を掲げる師匠との訓練はまだ続くようだ。
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