第24話魂のエレメント


古代都市の洞窟の奥に封印された黒い棺。チェーンがグルグルと巻かれ呪符を貼り中に眠るソレが起きないようにしているが、どうやら目覚めるのも時間の問題のようだ。


カチャカチャとチェーンが鳴り、棺がガタゴト音を立てている。


傍に眠る巨大な魔人は本来、棺の中のソレが暴走しないように見張りとして置かれていたが、長い年月の見張りに疲れたのかそれとも眠らされているのか……一向に目覚める様子がない。


魔法の境界ランプが反応し光り始めた……。

棺の中のソレがオレに何か呼びかけている。


ハッと目が覚めると、そこは古代都市の洞窟付近のベースキャンプだった。


もう朝だ。

古代都市の気候に慣れるため一晩泊まってから洞窟に訓練に行く予定だったが、思わぬ夢を見た。

気をつけろということなのか……。


「千夜君、気をつけてね! 境界ランプを携帯モードにしておいたから訓練しやすいと思うよ」


そう言ってリー店長がオレの首に小さなランプ型のペンダントを掛けてくれた。茶色いロウビキ紐に五百円玉くらいの直径のミニランプのチャームが付いている。


「携帯モードってこれ境界ランプなんですか? 普通のペンダントみたいですね」


魔法のランプが小さなアクセサリーサイズに変化したことに驚いた。これなら訓練中もランプを手放さずに済む。


オレはリー店長や精霊セラ、魔導師アティファに見送られ訓練の洞窟に向かった。


洞窟は岩の扉に閉ざされてビクともしない。

砂漠用にゴーグルをつけているからいいものの、今日は少し風が強いので早く中に入りたい。


「キュー、開かないですキュ」


ミニドラゴンのルルが扉をつつくが反応がない。

リー店長は開けゴマは有名過ぎてセキュリティが低い呪文だから使われていないと言っていたが……。


「オープンセサミ! 開けゴマ!」


ゴゴゴゴゴゴ……。

岩の扉が開き、洞窟の入り口が見えた。中にはすでに灯りが灯っている。


なんか未だに開けゴマが呪文として使われているみたいだけど、まあいいか。


一本道となっている下り階段を降りていくと広間が見えた。どうやら訓練の部屋にたどり着いたようだ。


洞窟の中とは思えない明るい部屋の中には紫色の高貴な絨毯が敷かれて中央には光り輝く魔法陣が描かれている。


「よくいらっしゃいましたね。響木千夜(ひびきせんや)……今からあなたのエレメントを調べます。その魔法陣の中心に立ち目を瞑りなさい。今からエレメントを巡る魂の旅をします。新たな魔法陣に辿り着けたらそれがあなたの魂のエレメントです」


オレは何処からともなくする声の言う通りに魔法陣の中心に立ち目を瞑った。


すると、オレの頭の中に様々な映像が巡ってきた。


燃えるような火山、マグマの波……炎の渦の中に魔法陣が見えるが辿り着けない。

次に巡ってきたのは何処かの森の風景、小鳥の声が聞こえ風が囁くように吹いている……しかし森の中の魔法陣にもオレは辿り着けなかった。


いつの間にか景色は暗くなっていた。

夜だろうか?

砂漠の中に迷い込んだオレは月明かりを頼りに砂漠を彷徨った。


水……水が飲みたい。

オアシスが見える……ナツメヤシの木が茂っている。

とても豊かな水辺だ。


オレはオアシスの水を求めて走った。

水に満月が映っている。

よく見ると水に映る満月には魔法陣が描かれている。

オレは魔法陣の描かれた満月を掬いその水を飲んだ。


ゴクリ

水が渇いた喉を身体を魂を潤す。

魔力と生命力が漲(みなぎ)る。


「あなたのエレメントは月と水のエレメントです。砂漠を潤すオアシスのように我々精霊に救いの水を与えるチカラとなるよう期待していますよ」


ハッと気がつくとオレの意識は再び洞窟の中の部屋に戻っていた。

喉の渇きが癒ている。


「月と水のエレメントか」


「キュー! マスター千夜、お疲れ様ですキュ」


ルルがオレの肩に乗ってきた。


すると部屋の奥からコツコツと靴音が響いた。誰かやってくる。

現れたのは尖った耳にショートヘアの細身で小柄な青い髪の少女だった。


「お〜、水のエレメントか! あんたラッキーだな。砂漠の旅には水が不可欠……あんたはその気になれば自力で水を作れるぜ」


「キミは?」


もしかしてこの子が精霊?


「アタシの名はアニス。今日からこの洞窟の時間軸で1週間お前の魔導師訓練の師匠になってやるからありがたく思えよ!」


そう言ってボーイッシュな少女はナマイキそうな顔で笑った。

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